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第1話

「これ、君やんな?礼次郎くん」 そう言って春名 五月は、俺の前に一枚のDVDを差し出した。その表紙には、黒髪で、色の白い、童顔の、一見すると女の子にも見える少年が、赤いロープで縛られている写真が載っている。DVDの題名は、『初縛り』 ただのエロDVDだった。 問題なのは、表紙の少年が俺にそっくりだということだった。 普通なら、他人のそら似で誤魔化せることだった。だが、俺には、そうはできない理由があった。 もちろん、これは、俺ではなかった。 そう。 俺では、ないのだ。 だが、これは。 俺には、見てすぐに、これが、俺の双子の弟である晴本人だということがわかった。 晴。谷村 晴は、俺のたった一人の弟であり、同時に、ただ一人の家族だった。 二年前に、俺たち兄弟は、事故で、両親を同時に失くした。 そのとき、俺たちを一人一人別々になら、引き取ってもいいと言ってくれる親類もいるにはいたのだが、俺たちは、それを拒否して、二人で暮らすことを選んだ。それは、両親を失った上に、兄弟とまで引き離されたくないという俺たちの意思だった。 両親がなくなった時、俺たちは、まだ17才の高校二年生だった。 弟の晴は、俺からすると、どこか頼りないところがあったので、俺は、晴が心配だった。いきなり、両親を二人とも無くしたことが、晴にとって、酷いストレスになることはわかっていた。 兄である俺が、しっかりしなくてはならない。 そう思った俺は、晴を学校に残して、退学し、叔父の経営している出版社で働かせてもらうことにしたのだ。 弟は、自分も退学して働くといったのだが、俺は、それを許さなかった。 俺たちは、子供の頃から、両親と約束していたことがあった。それは、学校の先生になるということだった。 俺たちの両親は、学校の教師をしていた。たくさんの生徒たちに慕われている両親の姿を見て育った俺たちは、大きくなったら両親と同じ、教師になると彼らと約束していた。 たわいもない子供の約束に過ぎなかったが、そう、俺たちが言ったときの両親の嬉しそうな顔を俺は、忘れることができなかった。だから、俺は、せめて弟だけには、勉学を続けて教師になってほしかった。 なのに、だ。 なぜ? どうして、真面目に勉学に励んでいるはずの弟が、こんなエロDVDに出ているんだ?それも、主演で。 呆然自失の俺は、春名の冷たい視線にはっと気付いて、顔を上げて彼を見た。春名は、いつもと変わらない、何を考えているのかわからない望洋とした表情で俺を見つめていたが、やがて、口を開くと言った。 「思い切っとるなぁ、自分。こんなんがばれたら、君、社会的に終わり、ジ・エンドやで」 「はぁ」 俺は、春名をじっと見た。 この男は、何を言いたいのだろうか。 この男、春名 五月は、今、人気のイケメン純文学作家だったが、世間に隠れて、春名 リンというペンネームで叔父の会社から本を何冊か出していた。 この、世間で噂のイケメン作家が、春名 リンの名で出している本は、いわゆるBLもの。つまり、男と男の恋愛小説だった。 高校を中退してコネで入社した俺が、最初に担当させてもらった作家が、春名 リンだった。 春名 リンの前任の担当である人は、川田さんという人で、本当に、いい人だった。高校中退のコネ入社の俺を、バカにすることもなく、親切に、いろいろ指導してくれた恩人だった。だが、彼は、俺に仕事を引き継ぐとすぐに、自分の夢を叶えるために退社してしまった。 彼は、退社して、絵本を出版する小さな出版社を創った。まあ、それは、別の話なわけで、今は、春名だ。 春名という男は、春名 リンとしても、人気作家だったが、非常に扱いにくい作家として有名だった。 俺が入社して、すぐに、川田さんに連れられて春名に挨拶に行ったときのことを、俺は、忘れることができない。 「新しい担当になる谷村です。よろしくお願いします」 そう言って、会釈した俺は、彼の姿に、まだ、憧れのようなものを感じていた。 春名は、軽くウェーブした黒髪を短髪にした、すっと鼻筋の通った、切れ長の目の、モデルか、俳優みたいないい男だった。だが、それは、見せかけだけに過ぎなかった。真実の春名は、とんでもない奴だった。 春名は、初対面の、しかも、十三才も年下の俺の尻をいきなり掴んで言ったのだ。 「なんや、今度の担当は、えらい、かいらし子やなぁ。女の子ちゃうんか?」 つまり、春名は、真性の変態だった。 その春名が俺に言った。 「このDVDのこと、黙っといてほしかったら、俺の愛人になり。さもなければ、君は、終わりやで。礼次郎くん」 「あ、愛人、ですか?春名さん」 俺は、言葉を失ってしまった。 男同士で、言うに事欠いて、愛人になれ、だって? 本当なら、また、セクハラ案件として一笑にふすところだったが、今度ばかりは、そうもできない事情があった。 これは、間違いなく弟の晴だった。 こんなことが騒ぎになったら、晴の将来は、それこそ終わりだ。 俺は、春名の命令をきくしかなかった。 しかし、愛人、って。 「あ、愛人って」 俺は、正直に、春名にきいた。 「何、したら、いいんですか?」 「決まっとるやろ」 春名は、俺の腕を掴んで、俺を抱き寄せた。 「このDVDで、君がしとるみたいなことをしてくれたらええねんで、レイちゃん」 「DVDでやってることって・・」 俺は、春名の腕に抱かれたまま、キスしようとしてくる奴に抵抗していた。 「すみません。まだ、それ、見てないんで、わかりません」 「何、どこぞのアイドルみたいなこと、言いよるんや、ホンマに、おもろい子やで、レイちゃんは」 春名は、キスを拒む俺を力づくで抑え込むと、俺の唇を奪った。俺は、なんとか、固く、口を引き結んで、奴の侵入しようとする舌を拒んだ。春名は、俺を離すと、冷ややかに言った。 「うんと、優しゅうしちゃろうと思うとったんやけど、やめや。君が、そないにかわいくないことばっかりするんやったら、俺も、考えがあるさかい」 春名は、俺に自分の足元にひざまづくようにと命じると言った。 「まず、はじめに、口で気持ちよおしてもらおか、レイちゃん」 「はい?」 俺は、春名の言っていることが理解できずにきいた。 「口でって?」 「なんや、自分、アダルトDVDの男優のくせにそないなことも知らへんのんか?」 春名は、意地悪く笑って、俺を椅子に座っている自分の両足の間にひざまづかせて、俺の頭を自分の股間へと押し付けて言った。 「俺のここを、あんたのかいらしいいそのお口で舐め舐めするいうことやんか。わかったか、レイちゃん」 俺は、奴の股間に顔を押し付けられて呻いた。奴は、俺の頭を押さえていた手を離すと、俺を促した。 「はよしてや。できひんゆうんやったら、もう、自分、おしまいやで」 俺は、仕方なく、奴のベルトに手をかけて外すと、ズボンのチャックを下ろして前を開いた。奴の黒い下着を下ろすとき、俺は、泣きそうになっていた。 何で、俺が、こんなめにあわなければならないのか。両親が死んでから、弟の親代わりとして一生懸命生きてきた、この俺が、なぜ、こんなセクハラ男のものをしゃぶらなくてはならないのか。 だが、俺も、男だ。 大切な家族を守るためには、なんでもしてやる。 俺は、春名の下着から、奴のものを取り出すと、口に含んだ。奴のものは、俺の口の中で膨張し、固く、芯を持って立ち上がった。俺は、奴のものを咥えたまま、上目使いに奴の様子を見た。奴は、俺を見下ろして一言言った。 「自分、へたくそやなぁ、ホンマに、エロDVDの男優なん?」 だから、違うんだって。 俺は、 心の中で叫んでいた。 俺は、高校中退して働いていた。仕事に明け暮れて、女の子と遊ぶ暇なんかなかった。だから、女も、ましてや男も、経験がなかったのだ。それなのに、この言われよう。 俺は、春名のものを咥えたまま、涙ぐんでいた。 春名は、俺の頭を押さえ込んで、腰を動かし始めた。 「んっ・・ぐぅっ・・」 俺の喉の奥まで犯してくる奴の昂りに、俺は、えづきながら必死で 堪えていた。奴は、俺の奥を突きながら、精を放った。春名に口に出されて、俺は、咳き込んだ。春名は、言った。 「全部、飲んでや、レイちゃん。零したら、お仕置き、やで」 俺は、奴の吐いた精をなんとか、飲み干した。その様子に満足したらしい春名は、次に、俺に裸になるように命じた。 「服を脱ぎや、レイちゃん」 春名は、言った。 「俺にも、そのきれいな裸を見せてんか」 「それは・・」 俺は、戸惑っていた。 だが、考えている間は、なかった。春名は、少し離れて、俺の全身が見えるようにすると、言った。 「自分で脱げんのやったら、俺が脱がせたるけど、どうするんや?」 「自分で」 俺は、掠れた声で言った。 「脱ぎます」 俺は、スーツの上着を脱ぐと、近くにあった椅子の背にかけた。続いて、シャツを脱ぐ。ベルトを外して、ズボンを脱いで、黒のボクサーパンツ一枚になった俺を見て、春名は、言った。 「最後の一枚は、俺が、脱がせたるわ」 春名は、俺の前に歩み寄ると、俺の下着に手をかけて、引き下ろした。 俺は、一糸まとわぬ姿にされて、羞恥のあまり、その場に座り込んだ。春名は、俺を無理矢理立たせると、俺の朱色に染まった全身をじろじろと舐めるように眺めた。そして、俺を椅子に座らせると言った。 「両手で両足を抱えて、開くんや」 俺は、嫌だったが、拒んでも、きっと、無駄だと思ったから、奴の言う通りに足を開いて両手で固定した。俺の中心が春名に向かって開かれて、俺は、歯を噛み締めて、屈辱に堪えていた。春名は、俺に言った。 「ええか、そのまま、じっとしとるんやで」 そして、奴は、俺の前に屈み込むと、俺のものを口に含んだ。春名に舌で転がされて、俺のものは、すぐに、固くなった。春名は、手で俺自身を掴むと、先端をちろちろと舐めながら、俺を上目遣いに見上げた。 「どうや、口でするいうんは、こういう風にするんやで、よう勉強しいや、レイちゃん」 「んっ・・」 俺は、初めての激しい快感に、声を殺して堪えていた。春名は、それが、気に入らなかったらしく、俺自身を擦り上げて言った。 「かいらし声を聞かせてや、レイちゃん」 「んぅっ・・ぐぅっ・・」 春名は、俺の先端に爪をたててぐりぐりと弄りだした。その痛み混じりの快感に、俺は、思わず、声を漏らした。 「あぁっ!」 生まれてはじめて味わう快感に、俺の頭は、真っ白になって、思考は、奪われていった。俺は、なおも、春名に前を弄られて、たまらず、吐精した。俺の吐き出したものは、辺りに飛び散り、俺自身の顔にもかかった。春名は、俺の顔に散った精を舌でぺろっと舐めた。 「なんや、レイちゃんのは、甘いなぁ」 「あっ・・」 春名は、俺の下半身に冷たいローションを垂らして言った。 「ほんなら、本番、いってみよか」 「・・冷たい・・」 俺は、足を閉じようとしたが、春名は、自分の体を入れて、それをさせなかった。奴は、ローションを垂らした俺の後孔に指を這わせた。 「ここで、あの、相手役の兄ちゃんのを咥えとったんか。あんなに、気持ち良さそうにして。いっつも、俺には、冷たかったくせして、あないに、乱れて」 「あっ!」 春名が指を俺のそこへと差し込んできて、俺は、びくっと体を強張らせた。侵入してきた異物を俺のそこは、ぎゅっと締め付けた。春名は、指を根元まで入れながら、言った。 「あんなプレイしとって、ここは、まるで、処女みたいやて、たまらんなぁ」 「うぁっ!・・そんな、奥まで入れないで!早く、抜いて!」 俺は、痛みに恥も外聞もなく叫んだ。だが、春名は、俺のたのみは聞く耳持たず、指の抽挿をはじめた。くちゅくちゅという淫音がきこえて、俺は、腰を捩って快楽に悶えた。 「んぅっ・・だ、めぇっ・・やめてください・・春名さ、ん・・」 「やめてって」 春名が意地悪く言った。 「そないな、エロい顔してゆうてもあかんで、レイちゃん」 「え、ろくなんて・・」 俺は、言いかけて、あの弟の表情を思い出していた。あのDVDの表紙の晴。頬を染めて、欲情に陰った瞳をして見つめているもう一人の俺。 春名が、指を抜くと、反り返った自分自身を俺の後ろに押し当てて、言った。 「ほなら、いくで」 「あぁっ!・・いやぁっ!やめてっ!・・も、だめぇっ!」  俺は、女みたいな声をあげている自分を、まるで、別人のように感じていた。俺の中は、春名の大きなもので満たされていった。奴は、俺を奥深くまで貫き、引き裂いた。俺は、今まで感じたこともないほどの快楽を感じて、再び、達した。薄れていく意識の中で、俺は、春名が囁く声をきいた。 「自分ばっかり、気持ちようなってしもうて、レイちゃんは、ホンマに、しょうがない子ぉやな」

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