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第2話

俺は、春名のベットで目覚めた。春名は、俺の側には、いなかった。俺は、疲れはてていたが、なんとか起き上がり、枕元の椅子にたたまれていた自分の服を着ると、その部屋を後にした。 その夜、晴に俺は、そのDVDを突きつけてきいた。 「これは、お前なのか?」 晴は、迷っていたが、じきに、頷いた。 晴が言うには、それには、深い事情があったのだという。 「山本という金貸しに連れていかれた」 そう、晴は、言った。 「それで・・僕は、兄さんのために・・」 つまり、こうだった。 俺は、俺が会社に入ったときに、世話になった川田さんが起業するときに、借金の保証人になっていた。ところが、最近、川田さんの会社が倒産したことを、俺は、風の便りにきいていた。善人だというだけでは、この世の中は、生きていけないのだ。 そして、俺の元には、500万の借金が残された。 それを知った日、俺は、一人、居酒屋で飲んだこともない酒を煽っていた。 どうすればいいのか、俺にも、わからなかった。 酔っぱらった俺の元に、確か、山本とかいう人がきて言ったような気がしていた。 「お困りのご様子ですが、私に、いい考えがあるからお任せください」 山本は、俺に言った。 ある会社にいって、そこで、何本かのDVDを撮影すれば、それで、借金をちゃらにしてくれる、と。 俺は、藁にもすがる思いで、それを承諾した。 だが、それ以来、山本という男から何も連絡もなく、俺は、あれは、夢だったのだろうと勝手に思っていた。まさか、山本が、俺ではなく、弟の晴を拉致して、契約を結ばせていたとは思いもよらなかった。 俺は、心の底から、晴に申し訳がないと思っていた。 気の弱い晴のことだ。きっと、死ぬほど怖い思いをしたことだろう。 俺は、晴に謝った。 謝ってすむことでは、なかったが、頭を下げることしか俺には、できなかった。 俺は、もう、晴にきれいな未来を用意してやることはできないのだ。 穢れがなかった弟は、俺のために、首まで汚泥につかっていた。全ては、俺のせいだった。俺が、悪かったのだ。 翌日、会社に出社した俺の元に、一番会いたくない奴が現れた。 春名は、俺の手を掴んで、言った。 「勝手に帰ってまうなんて、つれへんなぁ」 俺は、顔が熱くなるのを感じていた。春名は、奴の手を振りほどこうとする俺を物陰に引っ張り込むと、無理矢理、口づけしてきた。 「んぅっ・・」 奴は、俺を抱き寄せて唇を奪うと、舌で俺の中を掻き乱した。俺は、いつの間にか頭がぼぅっとなり、倒れそうになるのを堪えるために、奴にしがみついていた。春名は、好きなだけ、俺の口を貪ると、やっと、俺を解放した。俺たちは、しばらく、息を荒げて見つめあった。俺は、先に、目を反らした。春名は、俺の耳元で囁いた。 「レイちゃん、あんた、愛人としても、編集者としても、ダメダメやで。昨日、俺の原稿、忘れてったやろ。やから、わざわざ、持ってきたんやで。感謝しいや」 「春名先生、来てるって?」 叔父の声が聞こえた。春名は、物陰から顔を出し、叔父に向かって手を振った。 「ここですわ、社長」 春名は、俺をおいて、行ってしまった。俺は、物陰で一人、熱い吐息をついていた。 「大丈夫か?谷村」 物陰に潜んでいた俺を覗き込んで同僚の小林が声をかけてきた。 「あの先生のセクハラ、パワーアップしてるんじゃないか?」 俺は、力なく笑って見せた。小林は、座り込んでいた俺を立たせると、俺の顔を覗き込んで言った。 「本当に、あの人、売れっ子だからって、いい気になって、好き勝手してるからな」 「そうだな」 俺は、上の空で答えて、自分のデスクへと戻った。机の上には、封筒に入った原稿が置かれていた。春名が持参してくれた春名 リンの新作原稿だった。俺は、イスに腰掛けてため息をついた。 春名の言う通りだった。 俺は、昨日、あんなことになって、仕事を投げ出して奴の元から逃げ出してしまった。それは、編集者として失格だった。 俺は、春名の原稿に目を通しながら考えていた。春名は、いったい、何がしたいのか、と。今回のことは、いつものお遊びとは、一線を画していた。こんなことをして、彼は、何を得ることがあるというのだろうか。 俺に対する奴の嫌がらせは、今に始まったことではなかった。が、今回のは、嫌がらせなんてかわいいものではなかった。 彼は、何を望んでいるのか。 俺に愛人になれなんて、本気で言っているとは、とても思えなかった。 もしかしたら、これも、春名流のジョークだったのかもしれない。 そう、俺が思いかけた時、叔父が俺に声をかけてきた。 「礼次郎」 「何ですか?社長」 叔父は、俺の顔を見て、にっこりと笑って言った。 「春名先生の担当、よくやってくれてるみたいだな。あの人は、気難しい人なんだが、お前のことをたいそう気に入ってるみたいだ。今日も、これから、お前と二人で次回作の打ち合わせをしたいって言っておられた。作家をやる気にさせるのは、編集者の腕次第だからな。しっかりやるんだぞ」 「は、はい」 俺は、ひきつった笑みを浮かべた。 そして。 俺は、春名のマンションの入り口に立っていた。 ここは、二度と来たくない場所だった。 昨日、ここで俺は、春名に犯されたのだ。 あんな風に、無理矢理、何度もいかされて俺は、ここから、無様に逃げ帰った。 なのに、その翌日に、俺は、再び、ここを訪れようとしている。 俺は、手に持った差し入れの入った紙袋を握りしめていた。それは、春名の好物のケーキだった。彼は、見た目によらず、甘いもの好きだった。 とりあえず、奴の好物のスィーツを捧げて様子を伺おうという姑息な手段だった。 もしかしたら、昨日の事なんか、彼にとっては、たいした意味のないことだったのかもしれないじゃないか。 俺は、そう、心の中で繰り返して、自分を鼓舞した。 大丈夫、なんてことはないのだ。 俺は、意を決して、マンションの中へと入っていった。 俺は、春名の部屋の前まで行くと、立ち止まり、深呼吸をした。 仕方がないのだ。 俺が奴の担当である以上は、奴からは、逃れられない。そして、あのDVDのこともあった。 俺は、晴に問いただす前に、そのDVDの内容を確認いていた。DVDの中で、晴は、想像を絶する痴態を晒していた。縛られて、男に抱かれてよがり狂う弟の姿を俺は、正視することができなかった。 嬌声を上げて、体をくねらせて、男に抱かれている晴の姿は、まさしく、昨日の俺自身だった。 俺も、きっと、あんな風によがり、喘いでいたのに違いなかった。 俺は、DVDを見ながら、自ら、求めてしまっていた。弟の哭き狂う様を見ながら、俺は、達してしまった。 俺は。 最低な兄だ。 俺が、春名の部屋の前で何度目かのため息を漏らした時、春名の部屋のドアが開いた。 「自分、いつまで、そこに立っとるつもりなん?近所の目もあるんやで」 春名が言って、俺に中には入るようにと促した。俺は、呆れていた。春名のくせに、近所の目を気にするのか?俺に、あんな酷いことをしたくせに。そう思いながら、俺は、春名の家に入っていった。 春名は、俺をリビングへと通すとソファに座らせた。俺は、ケーキの入った袋を黙って、春名へ差し出した。春名は、受け取ると、嬉しそうに笑った。 「ありがとうな、レイちゃん」 受けとると春名は、それを持ってキッチンへと姿を消した。一人残されて、俺は、居心地の悪さに身じろぎしていた。 昨日、俺が、春名に抱かれたのは、奴の仕事部屋だった。それを思うと、俺をリビングへと通したのは、さすがに、春名も、悪いと思っているのかもしれないと俺は、勝手に考えていた。 だが、俺は、すぐに、それが自分の儚い希望にすぎなかったことを思い知らされることとなった。 春名は、キッチンからおぼんにのせた紅茶を持ってくると、俺にお茶を進めてくれた。 「まあ、お茶でも飲みぃな。この後は、直帰なん?」 「あ、はい。そうです」 俺は、春名が渡してきたカップを手に持ち、一口飲んだ。温かい、おいしい紅茶に俺は、ほっとした気分になっていた。春名は、俺がお茶を飲むのを近くのイスに座って見ていたが、やがて、俺に言った。 「で?あのDVDは、見たんか?」 俺は、むせて咳き込んでしまった。春名は、そんな俺を見てにやにやといやらしい笑いを浮かべた。 「どうやった?撮影した時のこと、思い出して自分でしてしもたんちゃうか?レイちゃん」 春名の言葉に、俺は、かぁっと顔が赤らんだ。 「そんなこと」 「どうなん?俺は、真実が知りたいねん」 春名は、言った。 「レイちゃんが感じてもうたんか、どうかが、俺は知りたいんや」 珍しく真剣な春名の表情に、俺は、どきっとしてしまった。俺は、奴から目を反らした。 「そんなこと、するわけないでしょ」 「なんや、おもろうないな」 変態春名は、口を尖らせて不満そうに言った。 「俺は、レイちゃんが、縛られて犯されとる自分を見て、感じてしもうたんちゃうかと期待しとったのに」 俺は、どきどきしていた。 絶対に、春名には、言えない。 俺が、あのDVDを見ながら、抜いてしまったなんてこと、絶対に、春名には、言えなかった。 春名は、俺を探るような目で見ていたが、言った。 「じゃあ、もう一回、DVD鑑賞しよか、レイちゃん」 「ええっ?」 「ほんま、これ、名作やで。レイちゃんがめっちゃエロうて、俺、これ見ながら、十回は、抜いてもうたで」 春名がリモコンのスィッチを入れると、リビングの大きなテレビ画面に欲望に乱れる晴の姿が映し出された。晴の喘ぐ声が大音声で聞こえてくる。俺は、春名を見た。 「ほら、これ、この顔や。ほんま、レイちゃんは、エロいわぁ。嗜虐心をくすぐられるわぁ。めちゃめちゃにして、哭かせとうなるわ」 春名は、魅せられたように画面に食い入って痴態を晒している晴の姿に見入っていた。彼の横顔を見ているうちに、俺は、おかしな気分になってきた。 よがり狂う晴に釘付けになっているこの男になぜか、俺は、イライラしていた。 「打ち合わせじゃないなら、俺は、帰らせてもらいます」 俺が立ち上がろうとするのを、春名は、すっとよってきて押し止めた。俺たちは、ソファに並んで座る形になってしまっていた。俺は、春名を振り切ろうとして彼と見つめ合う状態になってしまった。 そのとき、テレビから、男の声がきこえてきた。 『ほら、いきたいんだろう?レイちゃん、いけよ』 『あぁっ!・・も、だめぇっ!いくっ!いっちゃうぅっ!』 「レイちゃん、すぐに、俺が、いかせたるからな」 「はい?」 春名が俺をソファに押し倒した。

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