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第3話

翌日、俺は、はじめて会社を欠勤してしまった。熱が出たため、だった。風邪もひいたことがなかった俺の撹乱に晴は、えらく心配して、自分も学校を休んで看病すると言ってきかなかったが、俺は、晴を学校に行かせた。 「俺は、大丈夫だ。お前は、俺のことを心配するより、ちゃんと勉学に励め」 俺は、言った。晴は、心配そうな様子で、家を出ていった。ベットの中から晴を見送って、俺は、吐息をついた。 昨日、俺は、また、春名に抱かれた。 春名は、晴のDVDを見ながら、俺を抱いた。奴は、嫌がる俺を無理矢理何度も貫き、言った。 「どや?レイちゃん。この相手役の男より俺の方がええやろ?」 「そ、んな、こと・・」 俺は、春名に責められて、意識が飛びそうになっている状態で必死に、答えていた。 「わから、な・・」 「ホンマに?」 春名は、むきになって、俺を抱き上げると、奴の膝の上に座らせ、テレビが見えるようにして俺を下から突いた。春名の昂りに奥深くまで貫かれて、俺は、喘いだ。 「あぅっ・・やぁっ、深すぎ、だめぇっ!」 「よぉく、見て、思い出しや、俺の方が気持ちええやろ?レイちゃん」 「ぁあっ!だめぇっ、も、いっちゃう!」 春名に突き上げられて、俺は、叫んだ。春名は、俺を後ろから抱き締めて、熱い息を吐いた。 「レイちゃん」 俺は、体の奥深くに春名が熱い精を吐くのを受け入れながら、いった。 二人で同時に達した後、ぐったりと春名の腕の中で放心していた俺の目の前で、テレビの中のもう一人の俺が、絶頂を迎えているのを見た春名が俺の耳元で囁いた。 「こんなのより、ほんまもんのレイちゃんの方が、何倍も、エロいで」 俺は、黙って、ただ、目の前で達している晴の姿を見て思っていた。 晴も、本当に、俺が春名にされているみたいにあの男にいかされたのだろうか。 あんなに、よがり狂って、快感の海を漂ったのだろうか。 この、どうすることも、できない感覚を、弟も味あわされたのだろうか。 その後、春名は、俺をバスルームへと抱いていき、俺をシャワーの下に立たせると、二人でシャワーを浴びた。奴は、俺を壁に手をついて立たせて、両足を開かせて、俺の後孔に指を入れて、そこに残った奴の残滓を掻き出した。春名は、いつになく、無口で、俺も、何も言わなかった。 シャワーから出ると、春名は、無言で俺の体をバスタオルで拭くと、俺に服を着せていった。奴は、俺のネクタイを結び、俺のことをじっと見下ろすと、そっと、俺を抱いて口づけした。それは、優しく、労るようなキスだったので、俺は、堪えていた感情が溢れだし、我慢しきれずに嗚咽を漏らしていた。そんな俺を、春名は、包み込むようにして、いつまでも、抱いていた。 春名は、しばらく、リビングのソファに俺を抱いて腰掛けて、俺の肩に顔を埋めていた。俺は、こそばゆかったが、奴の好きなようにさせていた。背中から伝わってくる春名の温もりは、俺の心のわだかまりをゆっくりと溶かしていくようだった。 両親が死んでから、俺は、ひ弱な弟を守るためだけに生きてきたつもりだった。そして、晴もまた、俺に頼りきっていると思っていた。だけど、本当は、どうだったのだろうか。 本当は、俺が、晴に頼られることを必要としていたのではなかったのだろうか。晴に頼られることで、はじめて、俺は、自分の存在理由を見つけられていたのかもしれないと思った。 このままでは、俺のせいで、晴は、いつまでたっても、内気でひ弱な弟という立場から抜け出すことができない。 晴は。 俺は、思っていた。 晴は、もう、俺を必要とは、していない。俺が、晴を必要としているだけだ。 晴は、俺から、解放されたがっているのではないか、そう、思ったとき、俺は、言い知れぬ恐怖を感じていた。この世界にたった一人だけ取り残されたような、そんな気持ちになっていた。 その時。 俺を抱き締める春名の手にぎゅっと力がこもった。びくっと、俺が、体を強張らせると、春名は、俺の肩に顔を埋めたままで囁いた。 「レイちゃん、頼むで、俺だけのもんになってくれへんか。もう、二度と、俺以外の誰かに抱かれたりせんといて。約束してくれんかったら、もう、離さへんで」 「春名さん」 俺は、戸惑いを覚えていた。 春名は、酷い奴なのに。俺を、脅迫して、無理矢理、犯したような最低な男だった。 何度も、何度も、嫌がる俺を力づくで抱いた男だった。 なのに。 俺の中から、春名に対する怒りがまったくなくなったとはいえなかった。だけど、春名が与えてくれているこの温もりは、俺を優しく包み込んで、奴から離れがたくしていた。 こんなこと、間違っている。 俺は、春名に、誤解からとはいえ、無理矢理犯されたのだ。 春名を嫌悪することがあっても、許すことなんてできはしない筈だった。 なのに、今、俺は、春名の腕に抱かれて、その温もりの中で、なんだかわからないけれど、心が安らいでいるのを感じていた。 守られている。 俺は、両親をなくして以来、はじめて、そんな気持ちを覚えていた。 この男は、最低な奴なのに。 初めて出会ったときから、セクハラばかりで、いつも、下品なことばかり言ってくる人だった。俺ばかりに、嫌がらせや、わがままを言って、俺のことを困らせて、喜んでいた。 なのに、なんで、こんなに優しく俺を抱きしめるのだろうか。 この男は。 本当に、謎、だ。 俺は、明け方近くに、やっと、奴の腕から逃れて家に帰ることができた。 晴は、もう、寝ていた。 俺は、自分の部屋に行って、ベットの上に身を投げ出した。 俺は、いったい、どうなってしまったのだろうか。 春名に抱かれて、心まで、奴に犯されてしまったのだ。 俺は、目を閉じて、俺の中から奴を追い出そうとした。だけど、奴のイメージは、逆に強まり、俺は、ベットの上で身悶えした。 春名の、声。 俺に触れる、指先。 そして、俺を味わう奴の舌さえも、俺の記憶の中で蘇ってくる。 俺をよがり狂わせる奴の全てが、憎かった。そして、同時に、それは、俺の胸の奥を甘やかに揺さぶっていた。まるで、俺が、望まれているかのような気持ちにさせてくれた。 なんの理由もなく、ただ、存在するだけで受け入れられるような、そんな気持ちを、春名は、俺に与えてくれた。 まるで、両親の愛情の中で生きていた頃のように、なんの理由もなく、俺が、ただ、俺でいるというだけで、春名は、俺を求めてくれていた。 まあ、晴と俺を誤解してはいたけれど。 俺は、くすっと笑った。 春名は、俺が、他の誰かに抱かれたと思っているのだ。春名は、そのために、俺を抱いてもいない誰かに嫉妬して、俺に、あんなことをしたのだ。 馬鹿な奴。 俺は、眠りに落ちながら、思っていた。 俺が、他の誰かに抱かれることなんて、ありはしないのに。 夕方、俺の携帯に春名からメールがきた。 『風邪で休んだって?大丈夫なんか?無理したらあかんで。なんなら、看病にいったろか?』 俺は、誰のせいだ、と呟いてしまったが、奴には、こうメールした。 『大丈夫です。それより、次回作の構想できましたか?』 『せっかく、心配したったのに。前言撤回や、次に、おうたら絶対、哭かせたるからな。覚悟しときや』 「ばか」 俺は、一人、笑っていた。 「本当に、バカなんだから」

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