息苦しい。喉を掴まれたその手は冷たくて、じりじりと指が皮膚に食い込んでくる。言葉を発しようにも声が出ない。 　指先の震えは恐怖からか、それとも酸素不足のせいか。 　今にも閉じてしまいそうになる瞼を必死に開けていると、笑い声が聞こえた。 　 　漆黒の黒髪、緩やかなウェーブがかったその髪を掻きあげ、その髪色と同じ黒縁の眼鏡を外 すと愉しそうに目を細めた。その目もまた、吸い込まれそうな黒だった。 「亜(あ)季(き)くんだけは手に入れられないって諦めてたんだけどね」 　喉を掴む手に力を込められると嗚咽に似た声が漏れた。それと同時に目に溜まっていた涙 が零れ落ちる。すると喉を掴まれていた手の力が抜け解放されると同時に咳き込みながら その場に倒れ込んだ。 「どうしてって思ってる？」 　見透かされるような言葉に身体が震えれば、そっと頬を撫でられる。 「これが僕なんだ。知りたがったのは亜季くんだからね」 　念を押すように言われ、酸素不足の頭はただでさえ朦朧としていた。 　確かに知りたがったのは自分なのだ。 その緩やかにウェーブのかかる黒髪に手を伸ばす。柔らかい毛先を梳いて軽く刈り上げられた襟足に触れた。もっと手を伸ばせばどうなるのだろう。内側をもっと知ることが出来る のだろうか。 「もっと知りたい？」 　そう問われて無意識に頷いていた。