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第2話
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まだ夜も明けきらない時刻。控えめにあくシャッターの音で目が覚める。
暫くすると車のエンジン音が聞こえ、その音が遠ざかったところでベッドから起き上がり、身支度を調えると隣の花屋に向かった。
隣に住んでいる眞木 啓太 は花屋を営んでいて、毎朝この時刻に花市場へ買いつけに行っていた。
つい最近まで真っ暗だったのに、ここのところ空が少し明るく感じる。春はもうすぐそこまで来ているみたいだ。
高校に入ってからこの花屋を手伝うことになってもうすぐ二年になる。いつも学校に行く前にキーパーから花を外に出して、その全ての器の水を入れ替える。水は冷たいし、花が生けてある器は小さいものから大きいものまであるので入れ替えるだけでも一苦労だったが、この作業をしていると花が生き生きしてくるように思えて好きだった。
水を入れ替え終わる頃にはすっかり外は明るくなっていて、家に戻り制服に着替えて朝食をとったら学校へ行く。
学生の自分と社会人の啓太とでは時間が合わないことが多く、ゆっくり話せる時間はあまりない。
大学生になれば何か変わるだろうか。進路を考える時期ということもあり、この先変わることのない年の差についても考えていた。
どうしたところで、九歳という年の差は埋めようがないのだけれど。
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放課後になると寄り道もせず、自宅に寄ることもせずにいつも花屋に直行している。
「ただいま!」
「制服くらい着替えてきたらどうだ」
いつもならすぐに啓太のおかえりという言葉が返ってくるはずなのに、返ってきた声を聞くなり思わず眉をひそめてしまった。
「……げ、兄貴。なんでいるの?」
そこには九歳年上の兄、颯季 がいた。
「そんな嫌そうな顔をするなって」
「何しに来たんだよ」
「開口一番にそれか? 母さんへの花束だよ。どうせお前は母さんに花なんか買ってやらないだろう」
商社に勤めている兄は二年程前から地方勤務で別に暮らしていた。帰ってくるのは年に数回くらいで、帰ってくる度にこうして母親に花を贈っている。
「颯季おまたせ。亜季くん、おかえり」
むっとしたまま立ち尽くしていると啓太が花束を持って店先にやってきた。黄色やオレンジの花が好きな母さん好みの花束を見てまた兄の点数が上がるのだと思ったが、やっぱり啓太のつくる花束はとても綺麗だった。
「ただいま、啓ちゃん」
「その態度、相変わらず亜季は啓太に懐いてるよな」
ぼそっとつぶやいた兄だったが、啓太の持っている花束を見るなり目を輝かせる。
「さすが啓太だな。きっと母さん喜ぶよ」
啓太のつくるアレンジメントは丁寧で華やかだと評判が良かった。そのうえ数ヶ月前に地元のタウン誌に掲載されてからは、啓太の優しそうで柔らかい雰囲気が女性人気を獲得し花束やバスケットなどの注文は毎日入っていた。
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