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第3話

 そんな啓太が作った花束はいつもより豪華で、久しぶりに帰ってきた息子がこんな花束をくれたらさぞかし母さんは喜ぶだろう。  ただでさえ昔から頭が良く器用でなんでも出来る兄は両親の自慢だ。きっと今回も自分への風当たりは強いだろうと諦めながら制服のジャケットを脱ぎ、店のエプロンをつけようとしていると、兄が俺の真後ろに立って頭をぐりぐりと撫でてきた。 「なんだよ。拗ねるなよ」 「拗ねてない」 「亜季と一緒に選んでプレゼントしたことにしようか?」 「そんなことするな!」  何を勘違いしたのかそんなことを言い出すので、その手を振り払い睨みつけると、面白くなさそうな顔をした兄は元いた場所に戻り、今度は啓太に俺への文句を話し始めた。 「昔から亜季ってばこんな感じでさ。いつもツンケンしてるし、俺に相談なんかしてきたこともない」  兄が大きな溜息をついた瞬間、お客さんがやってきたのでそっちに向かうと、啓太は花の水揚げをしながらにこやかに笑って兄の話を聞いていた。 「亜季が泣いてるのも見たことないしな。転んでも、犬に追いかけられても、近所の上級生に殴られてもあいつは泣かなかったんだ。これで泣いてみたりすれば可愛げもあるってもんだけど」  遠くで聞こえてくる会話に言い返してやりたいことは山ほどあったが、入れ替わり立ち替わりに人が来てそれどころではなくなった。  それらが一段落したところで休憩をもらった。  いつもなら客がいないこの時間は俺にとって啓太と話が出来る貴重な時間だけど、今日はそれも難しい。  なかなか帰ろうとしない兄にヤキモキするが、久しぶりに会った幼馴染の間に割って入るのは配慮に欠ける気がして、壁越しに二人の会話に耳を傾けながらゆっくりカフェオレを飲んでいた。 「この店、啓太だけでやり始めて何年になる?」 「もうすぐ六年だよ」 「そうか。早いな」  二人の話を聞きながら、もう六年も経つのかと思った。  六年前、啓太の両親は交通事故で亡くなった。大学在学中だった啓太は周りの反対を押し切り中退して花屋を継ぐことを決めた。今でこそ軌道に乗っているが、最初は苦労の連続だったと思う。  当時、十一歳だった俺は突然の訃報を知って、居ても立ってもいられなくなりすぐに隣に駆け込んだ。するとそこには椅子にもたれかかり受話器を手にしたまま呆然と座っている啓太がいて、あの時の胸の苦しさは未だに忘れられない。  考えなしに駆け寄ったものの俺は何もしてあげられなかった。その後で兄と両親も来て、余計に自分の無力さを悔やんだのだ。 「おじさん達もきっと喜んでるよ。啓太が花屋を続けてくれて」 「そうだと良いんだけどね」  少し遠くを見つめながら寂しげに目を伏せた啓太に兄は肩をぽんと叩くと椅子から立ち上がった。 「さてと、そろそろ花持って家に帰るとしようかな」  そして兄は俺にも声を掛けると家に帰って行った。  残りのカフェオレを一気飲みして啓太の側に行くと、背の高い啓太が俺の顔を覗き込む。 「休憩はもういいの? 今、お客さんもいないし、もう少し休んでてもいいけど」 「いい。俺も手伝う」  その優しい笑顔に思わずどきっとしたけど、悟られないように水揚げの準備をした。

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