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第2話(1)
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久し振りに降り立ったその駅は、随所に懐かしい香りを漂わせていた。以前は毎朝のようにこの駅から職場へと通い、あの人と顔を合わせていた。
悠希がこの街を出て、もう三年になる。
駅前の様子は表口はあまり変わりが無かったが、裏口は再開発のためか古いビルは全て壊されて、だだっ広い空き地に大型重機が何台か動いていた。
あの電話の後、結局眠れずに朝を迎えて現在の勤め先に行き、翌日の有給休暇を申請をした。特に問題も無く申請は受理されて、こうして久し振りにこの街へ朝早い新幹線でやって来た。だが、悠希がこの街に留まるのは一日だけだ。目的が果たされたら直ぐに東京に戻る予定だ。
スマートフォンで昨日、太田から来たメールの内容を確認した。場所や時間を後で詳しく伝えたいから、と言われて渋々教えたアドレスだ。今日が終わればアドレスを変更するか、元同僚からの連絡は着信拒否をするつもりだ。
葬儀は午後一時から。寺町と言う、本当に寺ばかりが建つ地域の寺院で執り行われる。
(少し早いけれど腹ごしらえをしていくか)
やけに冷静な自分にどこか違和感を覚えつつ、悠希は改札を抜けて目についたカフェへと足を向けた。
件の寺院へは路面電車でも行けるのだが、面倒臭くなって駅前からタクシーを利用した。タクシーの中で首元に黒のネクタイを絞める。運転手には悪いがルームミラーに写る自分の服装をチェックした。
(真っ黒だ)
やけに黒ずくめの自分の姿に悠希は苦笑いをした。コートは普段から通勤に使っているものだが、白のワイシャツ以外は見事に真っ黒だ。久々に引っ張り出した黒の喪服とネクタイと靴。一応、手にしている鞄も黒っぽい物にした。相対して自分の顔色は紙のように白い。いや、白を通り越して存在自体が薄くなっているようだ。
(顔色、最悪だな)
思えば昨夜も満足に眠れなかった。当然、行きの新幹線でも長い時間乗っていたわりには一睡もしていない。これはいよいよ薬の出番だと、悠希は覚悟を決めた。
久々に戻ってきた街の景色を懐かしむ間も無く、タクシーは目的の寺院の入り口へと横付けされた。料金を支払って後部座席から車外に出ると、冷たい空気に身震いをした。
空を見上げると今にも泣き出しそうなどんよりとした厚い雨雲が辺りを覆っていた。自分をここまで連れてきてくれたタクシーを見送って、しばし大きな寺院の門から中を眺める。門に掲げられた葬儀看板には今日の主役の名前が書いてある。
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