9 / 131
第9話
「し、彰吾くんこそ、その、何というか」
悠希の戸惑った声に彰吾はくすりと笑って、
「似ているんでしょう? 父に」
その答えに悠希は小さく頷いた。
この短い会話の間でも、彰吾は一時も悠希から視線を離さない。それがなぜか居心地が悪くて、悠希の視線だけがうろうろと空間を漂った。
少しの沈黙のあと、彰吾が口を開いた。
「今日は父の葬儀に参列頂いてありがとうございました」
他人行儀なその言葉に、悠希の視線は彰吾へと戻っていく。
「それに最期まで父を見送ってもらいたくて、こんなところにまであなたを連れてきてしまった」
「じゃあ、あれは彰吾くんが」
彰吾はゆっくりと頷くと、
「実は父の部下の人に、あなたに父が死んだことを伝えて欲しいとお願いしたのも俺です」
悠希はあの眠れなかった雨の夜の、太田からの電話を思い出した。低い、だが明瞭な彰吾の声は悠希の鼓膜を震わせる。ともすればそれは、亡くなった彼と会話をしているかのような錯覚さえしてしまう。
「だけど、当初と少し思惑が外れてしまいました」
彰吾は初めて悠希から視線を外すと、喪服の胸へと手を滑らせた。そして手にした箱の中から煙草を一本取り出すと、手馴れた様子で口に咥えたそれに火を点けた。
(喫煙も出来るようになったのか)
未だに目の前の青年のことを出会った頃の十四歳の時と同じように感じていた自分に、悠希は失礼な奴だと反省をした。
「煙草を吸うんだね」
ふぅ、と空へ向けて細く紫煙を吐き出した彰吾に悠希が問いかける。風に流されてすぐに消えていった煙は、その香りだけを微かに残していた。
(ああ、この香りはあの人の匂いだ……)
悠希の問いかけに彰吾は、ふふっと笑って、
「そうですね、父ほどではありませんが」
「……確かに。きみのお父さんはヘビースモーカーだったから」
「そのせいで、あんな病気に命を取られたんです」
悠希が少し顔を傾ける。その様子に、
「父は肺癌を患っていたんです。分かったのは三年前で、かなり進行していました」
(肺癌だったのか)
彰吾の台詞に、悠希は何か引っ掛かるものを感じた。
「一度は抗がん剤と放射線治療で良くはなったのですが、結局全身に癌が散ってしまって。あれだけ煙草が好きだったのに、煙草どころか最後は呼吸さえままならなくなりました」
彰吾がまた深く煙を肺に入れると、薄くそれを吐き出す。長く細く、その唇から煙が立つ様子が悠希にはなぜか艶めいて見えた。
ともだちにシェアしよう!