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第116話
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明らかに観光ツアーの団体客とおぼしき人びとに占拠されたロビーの片隅で、悠希は呆然と欠航が表示されている電光掲示板を眺めていた。
昼から降り始めた雪は、強い寒気に後押しされてみるみると凶暴に吹き荒ぶと、あっという間に新千歳空港を巻き込んでその機能を完全に麻痺させた。
「藤岡主任っ」
ごった返す人混みの中から、頭一つ飛び出た彰吾がはっきりと悠希の名前を呼ぶ。大きな体を器用に動かして人の波を避けると悠希に近寄ってきた。
「何とか明日の代替チケットが取れました。主任? 大丈夫ですか?」
ふう、と息をついた悠希に彰吾は心配そうに声をかける。
「ああ、大丈夫。でもここに居るだけでも結構疲れる」
「そうですね。早めに空港に来たけれど、この混みようでは逆に人酔いしそうだ」
彰吾がきょろきょろと周囲を見渡している。きっと悠希が座って休めるところを探しているのだろう。
「代わりの飛行機は明日の何時?」
「明日の午後三時です。天気予報だと明日の午前も雪の影響がありそうなんで、飛ぶかどうか微妙だと言われました」
本来ならばもう、東京へ向けて機上の人となっているはずだった。ちらりとロビーの外へ視線を向ける。雪は相変わらず勢いを保ったまま吹き荒んでいるが、それでも飛行機が飛ぶかもしれないと、続々とやって来る観光バスから降りた人々が建物の中へとなだれ込む。
ロビーの其処ここではとっくに飛行機が飛ぶのを諦めたのか、床に座り込んだスノボ帰りと思われる若者達が疲れた顔をしてスマートフォンをいじっていた。
「……相原。おまえ、雪を止められないのか?」
ハ? と聞き返した彰吾を見上げて、
「晴れ男なんだろう? だから、この雪を止められないのかと」
「……いくら俺でもそれは無理です」
呆れたような笑いの中にも、彰吾の瞳は柔らかく悠希を見つめる。
「とにかく今日はもう泊まりは決定ですから。さっきホテルも予約して課長にも連絡を入れました 」
駄々っ子を諭すような口調で言うと、彰吾は足元に置いてある悠希と自分の荷物を手に持った。
「一体どこに?」
「空港近くのホテルは満室で取れなかったんです。だから、今から札幌に戻ります」
えっ、と小さく驚いた悠希を促して彰吾が歩き始める。
「昨夜も馴れない接待で疲れたでしょう? 早く移動してゆっくりしましょう」
片手に自分と悠希の荷物を軽々と持ち、まるで女の子のように彰吾にエスコートされて悠希は慌てた。
「バッグは自分で持つから……」
肩が触れ合うほどに近いの悠希の戸惑う表情を見下ろして、彰吾は気づかれないように含み笑いをした。
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