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ことの始まりは、今朝方の話。前日研究内容をまとめてベッドについたのが深夜の2時だったのにも関わらず容赦なく、朝4時にインターホンを鳴らしてきた輩は誰かと思えば律仁だった。
オートロックを解除し、玄関先へと上がってきた男は、満面の笑顔で「大樹、退院おめでとうー」と言いながら花束を渡してきた。
「朝からなんだ」
やたらと上機嫌な相棒からのプレゼントを渋々受け取ると、あちらこちらに寝癖をつけたまま冴えない頭で律仁の顔を見遣る。
「いやーそういえば大樹が退院してからお祝いしてなかったなーと思って。ギプスも取れたんだね。良かった良かった」
「お邪魔しまーす」なんて悠長に挨拶しながら大樹の断り無しに部屋の中へと入っていく。大樹もそれを追いかけるように玄関から突き当たりのリビングルームへとついて行った。
「なんで今」
退院してから1ヶ月以上も経っているだけに、まさに今更だった。
「俺も忙しかったからさ?ね?」
律仁も律仁で忙しいのは承知しているので否定は出来なかったが、何も自宅まで態々押しかけずとも連絡手段なら幾らでもあるだろうと起き抜けでは声に出すのも面倒くさくて深いため息だけが吐いて出た。
「態々ありがとう……」
押しかけてくる時間が常識外だとしても律仁なりの気遣いに御礼をしながらダイニングテーブルに花束を置く。用事はそれだけじゃないのか、律仁は我が物顔で三人掛けのソファに腰を下ろすと一息ついてしまった。
百歩譲って律仁の快気祝いは嬉しいが、これが日中とかなら尚良かったなと思う。早朝のしかも、寝不足気味で起き抜けの大樹には少し癪に触った。幸い週末で学校も休みだが、正直今の大樹は律仁と話すよりも、早くベッドへと戻って眠りたくて仕方がない。
「何しにきたんだ?俺、徹夜明けで眠たいんだが.......」
幼い頃から知っている律仁だから容赦なく、今は話しをする気がない意志を示すと「まあ、まあ聞いてよ」とソファの隣を叩いてきた。
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