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テントへ戻ると、いるはずの渉太と律仁の姿がなかった。テーブル以外は全て片付け終わっているし、もう就寝してしまったのかと思ってテント内を確認したが、中にもいない。藤咲と一瞬だけ顔を見合わせたが彼自身も当然知るわけがなく、首を振られる。 二人一緒なのであれば心配事は起きていないだろうが、大樹は念の為スマホを取り出すと電波の所在を探りながらも律仁にメッセージを残したところで、湖畔沿いの暗い道から小さな灯りが此方へ向かって近づいてくるのが見えた。 その時点で森の奥地に住んでいるような獣動物ではないと確信できたのでじっと目を凝らしていると徐々に浮かび上がる人影に安堵した。渉太と律仁が手を繋ぎながらキャンプ地へ戻ってくる。 そんな仲の良い二人を見た瞬間に藤咲が腕を組み、咳払いをしたことに、反応した渉太が 手を離しかけたが、律仁がガッチリと掴んで離してくれないようだった。 「律仁。大分泥酔してたようだったが、大丈夫なのか?」 「大丈夫。今、渉太と歩いてきたから酔いが覚めてきたよ」 寒さで身を縮こませながら、これでもかと見せつけるくらい、渉太と繋いだ手を自分のジャケットのポケットに忍ばせてきた律仁の行動が気になりはしたが、彼がところ構わず恋人と仲良しアピールをするのは通常運転なだけに敢えて、触れないことにした。 その一方で渉太は今にも蒸発しそうなくらい顔を俯けて恥ずかしそうにしている。藤咲も流石に慣れたのか、一度咳払いをしたくらいで挑発的な発言はしなくなっていた。 律仁の酔いが覚めたところで天体観測は四人ですることになり、近くの夜景が一望できる高台へと足を運ぶと双眼鏡を使ってじっと星の動きを眺める。 最初は律仁も渉太の隣に並んで空を眺めていたが、30分程して寒さに耐えられずに渉太と共にテントへと戻ってしまった。真冬の天体観測は身体が震えるような寒さであることは承知していたし、使い捨てカイロも常備してある。 しかし、律仁でも耐え兼ねるのだから細身の藤咲なら尚更寒さに弱いのではないかと思った大樹は、テントへと戻るように促したが、「いい、まだここにいる」と指先を口元に持ってきては、自分の吐息で暖をとっていた。

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