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あの薄そうな綿素材の手袋じゃ防寒にならないことなど一目瞭然で、見兼ねた大樹は藤咲に向かってポケットに忍ばせていたカイロを差し出した。 藤咲の事を考えて彼のタイミングで手に取れるように掌に乗せる。じんわりと温かい掌を気にしながらも、警戒心の強い野良猫でも手懐けるように、宙に集中した振りをして受け取ってくれるのをじっと待っていた。 それに気がついた藤咲は、大樹の方に身体を向けるとゆっくりと手を伸ばしてくるのが横目で感じる。何度も深呼吸をしている息が静寂の中よく耳に掠め、先程の籠を持つ時も藤咲はそれ相応の覚悟でいたのではないかと思わせた。 息の詰まるような時間。 ゆっくりと掌の熱が離れていくのを感じて、藤咲の胸を撫で下ろしたような溜息から漸く藤咲がカイロを手にしたのだと分かると何故だか大樹もホッとしていた。 両手で強く温もりの根源を握りしめる藤咲の指。あまりジロジロと眺めてやるのも不躾のような気がして、大樹は再び視線を双眼鏡へと移した。 しばらくして夜も更けてきた頃、夜空に混ざり、星々がダイヤモンドでも散りばめたように光り輝く様に感動した。やはり冬の景色は空気が冷たく澄んでいる分、より一層の星が輝いて見える。寒さに負け、足早に帰らずに辛抱したかいがあったと愉悦に浸っていた。 ふと、この景色を藤咲に見せることができたのが嬉しく思うが、藤咲はどうなんだろうかと気になり、隣の藤咲に目線を移すと、彼は白い息を零して微笑んでいた。 藤咲の瞳に映る、星々。 美しい横顔。 心から感動してくれていると分かるその表情に心奪われて、その瞬間、隕石が落ちたかのような衝撃が走り、彼から目が離せなった。 どんな綺麗な宙を眺めるよりも、一生目に焼き付いて離れないだろう。 一番見たかった彼の顔。 彼を今すぐに抱き寄せて自分の腕の中へと埋めたい衝動に駆られては、大樹は拳を強く握り、もう片方の掌で包むことで理性を抑えていた。 この手で彼の全てを奪ってしまいたくなるほどの自分でも思ってもみなかった乱暴な感情に身震いがする。 先程の藤咲ごと呑み込んでしまいそうなくらいの波打った鼓動の正体が、何を表しているのか気づいてしまったと同時に、それが藤咲が一番嫌悪感を抱きそうな感情であることを悟ってしまった。 こんなのただの彼との約束を守りたいだとか、過ちの懺悔だとかの類いでは無い·····。 残酷なくらい綺麗な宙とそれに負けないくらいの絵画にでもなるような美しい藤咲の姿が、忌まわしい感情を抱いてしまった自分を強く後悔させた。

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