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「今日のあんた良かったな」 バーでの演奏日。藤咲は大樹のヴァイオリンを必ず聴きに来てくれるようになった。 時には彼自身来月に大きな仕事を予定している関係で練習時間が長引いているのか、遅れて来ることもあったが、週2回ほどのこのバイトに今のところ全て顔を出してきてくれている。 最初は客席からの向けられる藤咲の視線に緊張していたが、藤咲が聴いてくれると思うと自然とヴァイオリンの練習にも熱が入り、院や研究の合間を縫ってスタジオで自主練習をするようになる。そして、唯一藤咲と話が出来る貴重な機会なだけに、尚更いい所を魅せたいという自尊心があった。 今日も店内の入口に一番近い座席に座り、一角だけ異様なオーラを放ちながらもステージを鑑賞してきていた。演奏終了後、大樹は真っ先に藤咲のいる椅子の隣に座っての第一声が褒め讃えた言葉で安堵と共に心がじわりと温かくなり、笑顔が綻んだ。 「藤咲がいるって思ったら手が抜けないだろ?」 「それ、どういう意味?僕が来たら迷惑なの?」 「違うよ。嬉しいってこと。まあ、お前の客席からの圧は身体が震えるほどだけどな」 「当然だろっ·····僕に中途半端なもの聞かせるなんて僕が許さないだろっ·····あんたはそれくらい耐えないでどうするんだよ·····」 相変わらずの強気な発言をしているわりには、後半からすぼみがちになる声に耳朶を染めて冷静さを欠いているのが伺えてそれすら愛おしく思えてしまう。 本当はヴァイオリ二ストでもなければ音楽家でもないし、アルバイトなのだからもっと気楽で居ていいのだが「はいはい、藤咲様の言う通り精進致します」とおふざけを交えながら頭を軽く下げた。 藤咲といるとまるで下僕にでもなった気分で楽しい。 「じゃあ、そんな下僕が頑張ったのでご褒美に握手してくれますか?」

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