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「渡してきたよ。大事に聴くって」 「そうか、よかったな」 自ら訊いてきておいて、やけにあっさりとした返答が返ってきたことに驚いたがあくまで僕と恭子の家族間での話に根掘り葉掘り深く聞き出して立ち入るつもりはなんだろう。母親の話を恋人にするのは気恥ずかしさがあるだけに、大樹の必要以上に詮索をして来ないところは助かる。 まぁ…一歩どころか二、三歩引かれてこっちがあまりのもどかしさに イライラすることはあるが…。 望遠鏡を覗き熱心に夜空を観察している大樹の隣に腰を掛けようと辺りを見渡す。すると、隣から紺色の白いストライプ柄のシャツが芝生の上に敷かれる。 先程まで大樹が羽織として使っていたシャツだ。 芝生に直で座るのは少し抵抗があっただけに、大樹の気遣いは助かったが、「尚弥は育ちのいいお坊ちゃんだから必要だろ?」なんてニヤニヤと揶揄われて癪に障った。 「人のこと言えないだろっ。あんただって大きな家に住んでた育ちのいい坊ちゃんだっただろっ」 「確かにな」 カカッと喉を鳴らすように笑うと中腰から姿勢を戻し、尚弥の隣に座った。 「あんたは、実家と上手くやってるのか?」 「まぁ…親父は相変わらずだし。母親は高崎さんがいるから大丈夫だよ。 殆ど長山の敷居すら跨げない身だから詳しくは知らないけど、たまに高崎さんが母親の近況を報告してくれるかな。今バイオリン教室開いて子供たちにバイオリン教えてて、以前よりいい顔してるって聞いたけどな…」 「そう…」 家族の在り方はこうであるべきなんて正解や縛りはない。人それぞれだし、それで平和に事が進んでいるのであれば、どんな形であれそれでいいのかもしれない。だけど、完全に大樹が親との関係を断ち切ったわけではなくて、少しだけ安心した。 宏明は家族と離れ、弦一さんと一緒にいることで彼の心が保たれているように。そして大樹は、僕と一緒にいることを選んだように。 「ぼ、僕がっ大樹を幸せにするから。そんな落ち込むなよ…」 手いじりをしながら俯く大樹の哀愁を感じる横顔に励ましの言葉を送るが、優しく微笑まれると頭に大きな掌が乗せられる。 「それは俺のセリフだ…尚弥と過ごせてる今、何にも変えられないくらい幸せだし、お前に衣食住共に助けられてる。俺が今度は返す番だろ?」 大樹を慰めるつもりが逆に慰められてしまい、幸福感で胸がいっぱいになる。ふと空を仰ぐと、南から北へアーチ状を描くように乳白色の帯が雲のように広がっていた。その白い川の周りに散りばめられた星々の中に肉眼でも確認できるほど一際光り輝いているふたつの星を見つける。 川を挟んで対角線上に上下に並ぶ星は、天体に博識ではない尚弥でも何であるかくらいは分かる。アルタイルとベガだろうか。生まれて初めて見たかもしれない。尚弥が口をあんぐりと開けて眺めていると隣から「綺麗だろ?」と自信満々な表情をしている大樹がいた。

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