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第2話 お礼の品
今度は肩のマッサージが始まった。首から肩へ、温かい手のひらが何度も行き来して、気持ちいいツボを的確にグリグリ刺激してくれる。
「ふ、……っ」
つい、声が漏れてしまった。
「では、仰向けになって頂けますか」
ゆっくりと身体を上向ける。するとハイネックの隙間から、何かニュルリとしたものが入ってきた。
「はうっ!?」
思わず変な声が出た。でも、目をつぶっててて何がどうなっているのか分からない。
「ミ、……ミズくん? 今の、何?」
「それは、ワタシの指ですよ」
「指!? ……え、指ってこんなに長かったっけ」
「気になるなら、目を開けても構いません。ただし……驚かれないように」
恐る恐る、まぶたを開く。──驚くなという方が無理だった。
ミズくんの二の腕から下は、青く透明に光っていた。イソギンチャクみたいに枝分かれした腕の先が、次々に啓太の服の中へ潜り込んでくる。
「ひゃっ……やめて、ミズくん。くすぐったい、から……」
「くすぐったいだけですか? ほら、ここ。硬くなってますよ」
胸の敏感なところを、すべすべしたイソギンチャクが撫で回してくる。
凝った先端を二つ同時に弾かれると、啓太の腰がピクリと跳ねた。
「うぅっ何で、そんなところ……」
「ここだけではありませんよ。……ほら、ここも」
視線をやると、啓太の足の間は窮屈そうに膨らんでいた。
触手がズボンの裾から下着に潜り込み、うねうねした感触がわけわからないくらいに蠢いている。
「マッサージ、喜んでいただけたようで何よりです。こんなにも硬くなって……あぁ、今にも爆ぜてしまいそう」
「やっ、だめ……あ、そんなに擦ったら、出ちゃう……──あぁっ!」
びくびくと体を震わせて、啓太は服を着たまま達してしまった。
触手達が出ていく微かな動きですら、今の啓太は敏感に感じ取ってしまう。
「っ……や、止まって、お願い、だから……」
「おや、中が汚れてしまいましたね。少々お待ち下さい」
抵抗する間もなくズボンを下ろされた。汗ばんだ皮膚が空気にさらされて、少しだけヒヤリとする。
「すぐに、綺麗にいたしますので」
再びミズくんが伸ばした触手たちは、啓太の性器へ一斉に集まってきた。どうやら目的は精液らしい。お腹がくすぐったい。
掃除を終えたうねうね達はまた主の身体にもどり、触手を収めたミズくんは啓太に深くお辞儀をした。
「大変美味しゅうございました。ワタシ共ミニョリーロ星人の食事は、他の生物の生殖器官から分泌される体液なのであります。特に地球という星の男児から得られるものが上質と聞いて、視察に来たはいいものの食事にありつけず、餓死寸前でございまして」
「……それで、マッサージに見せかけてこんなことを?」
「お礼の気持ちに嘘偽りはございません。ただ、その──啓太さんがあまりに無防備で可愛らしく。更にはワタシも空腹でありまして。……何卒、お許しくださいませ」
そう言って、ミズくんは土下座の姿勢を取った。
「……出身って国じゃなくて、星のことだったんだね」
「はい。騙すような真似をしてしまったこと、誠に申し訳ありませんでした!」
「いいよ、顔上げてよ。僕だって、その……とっても、気持ちよくしてもらったわけだし」
「ハハァーッ、ありがたき幸せ」
大真面目にそう言うミズくんに、思わず吹き出してしまう。
「ふはっ! 何で謝罪の仕方だけそんなに古臭いの」
「おや、これがこの星での礼儀では?」
「数百年前の日本だったら分からないけど、少なくとも今は違うよ。だから、もう謝らなくていいってば」
ようやく頭を上げた彼に、僕はふと疑問に思ったことを尋ねた。
「他の星から来たって……それで、これからどうするの?」
「今晩、仲間が私を迎えにきます」
「えっ、そうなの!? それって待ち合わせとか……」
「あぁ、来ました来ました。あれです、あの光る円盤」
窓の外を指差され、カーテンを開けて辺りを見渡すものの。啓太の目には何も映らなかった。
「……あれ、何も見えないや」
「そういえば、仲間にしか観測できないようになっているのでした。それでは啓太さま、どうぞお元気で。机の上にお礼の品を置いておきましたので、よければ育ててみてくださいね」
窓を開ける必要もなく、ミズくん……ミズミョールの姿は次第に薄れ、間もなく青い光の粒子となって消えていった。
最後まで柔らかく笑う彼の姿を目に焼き付け、啓太はリビングを振り返る。
いつの間に、机の上には小さな箱が置かれていた。中には黒くて小さな雫型が数粒ほど。どうやら植物の種らしい。
翌日園芸グッズを買ってきた啓太は、窓際に置いた鉢に種を植えて水をかけた。
「元気に育ってくれよ~」
そう声を掛け、啓太は土やスコップを片付けにベランダへ出ていく。
誰も知らないところで。ボヤァと、土の中で種が光った。青く透明な芽が顔を出し、周囲を探るようにうねうねと動き始める。
──啓太が種の正体を知る日も、そう遠くないのかもしれない。
終
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