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サジは一つ嘘をついた。それは、ホントは契約なんてしていないということだ。
何でそれなのに、種子の魔女と名のつくほどのサジが、身も知らぬ男の手伝いをしているか。
それはとても単純で、エルマーがきいたら噴飯するに違いない。
まるで細い蔓のような緑色の蔦を鳥籠のようにしてエルマーと自分を囲う檻を作ると。そこに空間遮蔽の術を施した。
サジは、自分が初めて執着した眼の前の男の性器を腹に収めて、まるでこの世の至福のような快楽でその身をフルリと震わせる。
「は、ぁ…や、はり…本物はちが、うな…エルマー?」
「これで俺も魔物と穴兄弟だァ。ったく、マニアックすぎて泣けてくるぜ。」
「涙もよこせ。サジが舐める。」
「舐めません。おら、力脱いてろ。」
サジの白い体に覆う入れ墨は不思議な模様の花だった。名前もちの魔女はそれぞれ媒体とする入れ墨を刻む。まるで水彩で一筆書きにしたような不思議な蕾をいくつもつけたその蔓の花は、細身の体に巻き付くようにして刻印されていた。
エルマーはその蔓を辿るようにして唇を滑らすと、がぶりとその肩口に噛み付いた。
「ひぁ、っ…!」
「あっま。唾液もあめぇけど、血まで甘いのか。」
「エルマー!サジの血をなめたのか!ああ、今日はサジの中の祝日にせねばな!っァんっ!」
「まじで口開くなら可愛いく鳴くだけにしてくれぇ。」
サジの白い体から一筋垂れた血を媒介にして、粘度を高めた潤滑油のようなものを作り出す。
ちょっと活性化させる細胞を弄るだけでお手軽にできるローション代わりだ。エルマーはそれを結合部に垂らすと、ぬちぬちと馴染ませるようにして腰を揺らめかせた。
「あ、あ、はっ、ぁは、はっ入って、る…ぁははっ!」
「おま、はなっから飛ぶなっつの…」
「おっと、サジとした、ことが、ぁっ!」
「ああ、もう。お前雑に抱けば抱くほど喜ぶやつだったわ。」
ふるりと腹の奥の熱源を甘く締め付けながら、サジの瞳が揺らぐ。やめろ、それはいけない。エルマーの口を手で抑えようとして手を伸ばすが、それを素早く絡めとると、意地悪に犬歯を見せて微笑んだ。
「ぎゃ、っ!や、やめろ!!やめてぇ、えっえっ!」
「サジは甘くされんのがだぁいっきらいだもんなぁ?」
がしりとサジの体を抱き込むと、そっとその髪を手で梳くようにして撫でてやる。まるで恋人にするかのような仕草に、その細身な体に寒イボを纏わせたサジは、一気に涙目になるとエルマーの腕からぬけだそうとその身をよじった。
「解釈違いだ!!サジのエルマーはそんなことしない!!ひぁ、っそこ、きもちぃっ!」
「おーおー、勝手に人のこと決めつけるからだなぁ。ここ?」
「ぁ、ぁっ!お、奥ぅ、っ!頭を撫でるなぁ!ぁ、っひぃん!」
「忙しい野郎だなぁ。」
細い腰を鷲掴み、ガツガツと揺さぶると、片手間にその突起を摘んだ。一気にうっとりとした顔になったサジに、まったく情緒の忙しい奴だと呆れると、その奥の壁を突き抜けるように深く腰を打ち付けた。
「ひぎ、ぁ、あっ!」
ビクリと背筋を反らせたサジがその薄い色の性器からとろみのある白濁を吐き出させると、エルマーは汗ばんだ体を離して性器を引き抜いた。
自分が達した余韻すら味わわず、その無粋な行為に目を見開くと体を飛び起こす。
「まだ出してないぞエルマー!」
「うわ、急に元気だなオイ。いーんだよ。腹壊したくねえだろ。」
「約束が違う。サジに精液をくれるなら、あの男との契約を破棄をするとサジは言った!」
「俺の方が契約よりも大事ってことか?」
エルマーは目を細めてサジの頬を撫でる。その手が顎に回ると、そっとその薄い唇を親指でなでた。
「なあ、お前ほんとはどんな内容で契約したんだ?」
「言いたくない。」
「言ったら、サジの口ん中にたくさん出してやる。」
「ぅぐう…意地が悪いぞエルマー」
無骨な手をそっとサジの尻のあわいに差し込む。先程までエルマーが入っていたそこはとろとろにほぐれていた。僅かに期待を込めた瞳で、サジがそこを見つめる。焦らすように再び指を差し込むと、内壁をなで上げるようにしてエルマーが悪戯をした。
「サジ。」
「…いやだ。」
「もっかい入れて、中に出す。」
「よかろう。」
サジはより魅力的なお誘いにあっけなく陥落した。
エルマーは、まじでこんなにチョロくていいのかと若干サジを心配しつつ、再びその性器をゆっくりと插入していった。
「ぁ、っ…ほ、ほんとは…契約なんぞしてな、いっ」
「あ?ならなんで言うこと聞いてんだ。」
「は、あっ…奥にこい。教えてや、るぅ…ぁんっ!」
「へいへい…っと、ここ?」
「ふぁ、っ、そこ、ぉっ!イイ…!」
サジの足を抱えあげると、まるで押し付けるかのようにしてぐいぐいと内壁を擦る、素直に乱れていれば美しい顔をしているのに、完全にシラフだとイカれているのが玉に瑕だ。
「言えって。なんで嘘ついた?」
「…サジが契約したといったら、エルマーは上書きをするだろう…?」
「ああ、そこまで予想して…お前ほんと馬鹿なんだか頭いいんだかわっかんねぇなァ。」
「ァんっ。いぃ、っ!エルマーすごい…ぁあっ!」
はぁはぁと呼吸を整える。婀娜っぽい目つきでエルマーを見上げると、早くサジのものになれと笑う。
エルマーはため息ひとつ、詳しく聞くにも早く終わらせようと決めると、サジの首筋に強く吸い付いて痕を残すと、そのまま射精だけを考えるようにしてガツガツと奥を突き上げた。
「ふぁ!ぁ、はっ!やっぱ、り…っ、溜まっていた、な、ァ!あぁ、んっ、お、ぉくぅ!!サジのぉくによこせ、ぁあっ!」
「はいは、い…っ、」
「うぁ、ぁあっあん!あつ、ぃ…くは、っ…」
全身で押さえつける様にして奥深くまで性器を捩じ込むと、そのままの勢いを殺さずに長い射精をした。
腹の奥が火傷するのではと思うほどの熱い精液をびしゃびしゃと中に流し込まれながら、飲み込みきれなかったものが縁から漏れ出るようにして飛び出でる。
エルマーはサジの呼吸が整うのを待ってから性器を引き抜くと、そのまま床を汚すようにしてぶぴゅりと含まされた精液を漏らす。
「ほら。舐めとれ。」
「ん、んぶ…っ、ぁ、はは…っ、」
サジはというと、うっとりとした顔で膨らんだ腹を撫でては、口元に押し付けられたエルマーの性器に纏う白濁をぺろりと舐め取る。エルマーの精液を腹で受け止めたのは、これで二回目だった。
ちゅぱ、と残滓まで残さず吸い取ると、唾液が性器と唇を繋ぐ。フルリと身を震わせたサジは、そのまま顔を手で覆うとムクリと起き上がった。
「ああ、すごい。やはりサジとエルマーの相性は素晴らしい。魔力が張ってくるのがわかる。」
「そりゃ重畳。んで?相手は契約してると思ってるンだろう?フオルン送るのか。」
ちゅる、と手についた精液をペロペロ舐めたいたサジ
は、ふむと悩んだ素振りを見せた後、送らないといった。そりゃそうだろう。だってサジの目的は達成されたのだから。
「あいつは嫌いだ。種子の魔女であるサジに洗脳しようとしたからな。面白そうだから乗ったが、もうあきた。ごっこ遊びは終わりだ。」
「騙される方がわるいってか?流石性格悪いなぁ。」
「あの男は、どうやらやりたいことがあるらしい。サジに魔物を作らせて、一体何がしたかったんだろうなぁ、エルマー。」
くすくす笑いながらエルマーに顔を近づける。まるでヒントを与えているかのような発言だ。
手でそれを押しのけて顔を離しても、何が楽しいのかやけにごきげんだ。
エルマーはサジに空間遮蔽の術を解いてもらうと、ちらりとベッドで眠るナナシを見た。
「戦でもするつもりかねぇ。休戦中だってのに。」
「おい、そういえばそいつは何者だ。」
「ナナシだ。」
「気に食わん。腹に種をつけたサジのほうが、あんな童よりもエルマーを満足させられるぞ。」
「だから、そういうんじゃねえって。」
サジがその灰色の目でしばらくエルマーを見つめると、居心地が悪くなったのかふいとそらされた。まるで見透かされるのが嫌といった仕草だ。
サジはまさかエルマーがそんな事をするなんて思わず、眼を見開くとギザ歯を見せつけるようにしてニヤリと笑った。
「これはおもしろい。実に愉快!サジの知ってるエルマーが人間になりたがっている!」
「俺ははなっから人間だよ。ったくうるせえなあ!ナナシが起きるからちっと黙れよ。」
「くくく、そうかあ、サジの知ってるエルマーは血と油と硝煙の匂いのする男だというのに。乳臭くてかなわん。」
サジのエルマーは、もっと残酷で、生に対して意地汚くて、こんなふうに何かを庇護するだなんてまったく想像できない男だった。
目玉を取られても、笑って剣を振るってた。サジはそれを見て惚れたのだから。
「サジは忘れない。西の民との戦争で、魔物も人間も見境なく蹴散らしていた姿をな。」
「戦争はしょうがねぇだろ。お前こそ魔物側に付きやがって。あんなバトル・ロワイアルもう懲り懲りだ。」
「実に愉快だった。特に大賞首をとったその剣で雑魚の魔物を串刺しにしたとかなんか、抱腹絶倒だった。うふふ。」
嫣然と微笑むと、まるで面白いことを思いつ面白いことを思いついたと言わんばかりにサジの灰色の目が煌めく。脱ぎ捨てておいたローブのポケットから短剣を取り出すと、サジはそれをエルマーの手に握らせる。
「エルマー!サジを使役しろ!それがいい!」
「ああ?何だ急に…」
「サジはきっと嫉妬でその童を殺すかもしれない。そうすると面白いエルマーがみられない!だからサジの主になればいい!そうしたらサジも名前持ちとして追いかけられることもない!」
ほら、すべて解決だろう?そう言ってサジが笑うと、まるで名案とばかりに短剣をエルマーに押し付けた。
「対価は腹の中の精液と首筋の痕でいい。この短剣でサジの心臓を刺せ!」
「あぁ!?」
あまりにも突拍子もない提案に、エルマーの声が上ずる。サジはなんで驚いているといった顔で首を傾げると、仕方ないと場なりに自分の心臓の場所を手で確かめると、にっこりわらった。
「ここだ。ここを刺せ!」
「まてまてまて!何の話だそりゃあ!」
「知らんのか。名前持ち、サジたちが縛られてるのは魂だぞ。だからサジたちは死霊を操れる。」
「おまえ、それ言っていいやつなのか…?」
「言ったら死ぬな。そういう呪いだ。エルマーが愚図だからお膳立てをしてやった。」
にやりと笑うと、エルマーの目が見開かれた。名前持ちの禁忌の秘密をいとも簡単に暴露したサジの体に纏う蔦の蕾が、ゆっくりと綻ぶようにして開いていく。それはあまりにも美しい光景で、同時に花が色づくごとにサジの白磁の肌からは血の気が引いていく。
「どうする。サジの魂を開放して、使役しないとこのまま跡形もなくサジは消えるぞ。これぞ、究極の、愛。」
「お前ほんと最低だな。最初からそのつもりだったろう。」
「ふは、あたりまえだ。サジは、サジの好きなようにする。」
「くそ、お前ほんとに嫌いだ!!」
サジの左胸の大輪の花が咲こうとした瞬間、まるでその開花を縫い止めるようにしてエルマーはサジの胸に短剣を深く突き刺した。
かふ、と小さく吐息を漏らしたサジが、その白い腕をエルマー背中に回すとパチンと指を鳴らした。
ぶわりと二人の間に緑色の陣が広がると、どろりと流れたサジの甘い血を媒体にして輝きを増したそれは、ぶわりと強い風とともに部屋に吹き荒れた。
「ん、…えぅ、まー?」
その閃光と風圧によって目を覚ましたナナシが、その床を濡らす赤黒い血と昼間の人物が事切れた様子にビクリと固まる。
ああ、本当にお前は最低なやつだ。エルマーは腕の中のサジを一瞥すると。嫌味なくらいの笑みをたたえて目を瞑っていた。
「見るな。」
「ひ、っ…!」
ナナシの知らない低い声。エルマーは完全にキレていた。この子には自分が人を殺す瞬間なんて見てほしくなかったのだ。
ゆっくりとサジの左胸から短剣を引き抜く。苦しまないようにと、あの瞬間でも力加減を間違わなかった自分が嫌だった。
ぽっかり空いた胸の穴から、シュルシュルと入れ墨だった花が抜けていく。すべての蔦が消えた瞬間、サジの骸は不思議なことに光も通さないような黒い液状のものが陣から出てきて沈み込むようにして消えた。
成功したのかはわからない。なんだかとてつもなく疲れたことだけは確かだ。
汚れた手だ。いくら血で染まっても構いはしない。それでもこんな場面を見られて怖がられるのだけは嫌だった。
「あーあ、風呂入ったってのになぁ。っ、」
ジュ、と肉の焼ける音がして、エルマーは投げ捨てるようにして短剣を放り投げた。
カランと音を立てながら、クルクル回って止まった短剣はなんの変化もない。
「ぐ、っ…んだ、これ…っ、」
「ぇ、る…っ」
「来るなっつってんだろ!」
「ひぅ、っ」
あわてて駆け寄ろうとしたナナシの足を怒鳴り声一つで止めさせる。エルマーが手のひらを開くと、そこにはサジの体に刻まれていた花と同じ模様が開いていた。
「なんだ、これ…くそ、サジ!!」
エルマーが苛立ちを隠さずに叫ぶと、その手のひらに重なるようにして白い指が絡められた。
まるで、後ろから抱きつくようにして出てきた何かに、エルマーは驚きすぎて一瞬呼吸が止まった。
「おや。サジに気づくとはさすが。」
人を馬鹿にしたような口調で話すのは。紛れもなくサジそのものだった。
「お、おま、おま、おまえ!」
「刻まれたか。それがサジの証だ。魂の所有がサジからエルマーに移った。ただそれだけのこと。」
慌てで体を離す。見たところ死ぬ前とは変わっていない気がした。ゴースト独特の透けているような感じもなければ、ニコニコとやけにご機嫌である。変わったことといえば、生前よりもサジの瞳が理性的ということくらいか。
「え、えるぅ、えるぅ!!」
「おぁ、っと…来るなっつったろ…」
慌てて駆け寄ってきたナナシが、べしょべしょに泣きながらエルマーの手のひらを掴む。
じゅくじゅくに火傷したそこを見て、声にならない悲鳴をあげる。
「いたい?…えるぅ、ぃた、い?」
「おい童。そこをどけ。サジの傷はサジが治す。」
「や!きらい!さじ、きらい!!」
「あたたたた、」
ナナシが今までこんなに怒りを顕にすることはなかった。エルマーは、サジに強く威嚇する様子を見て、なんだかむず痒い気持ちになる。
ナナシにとっての地雷認定をされたサジは、眉間にシワを寄せるとグッとナナシの顔を至近距離で見つめる。
「サジもお前なんかきらいだ!」
「うー!!サジや!!あっちいけ!!」
「だぁあ!わかったわかった!お前ら落ち着け!」
サジがナナシの胸倉を掴んだ時点で慌てて止めに入ると、ナナシは頭を手で抑えて叩かれる準備をしていた。
ワシワシと頭を撫でて宥めると、ムスッとしたサジがエルマーの手を鷲掴み、その手のひらをべろりと舐め上げた。
「いってぇ!!」
「サジの傷は舐めときゃ治る。」
「雑う!!」
「サジきらい!うわぁぁん!」
結局エルマーは、新たな旅路の仲間として、トラウマと共にサジも加わることと相成った。
どこまでがサジの計算だかはわからないが、ナナシにとっての天敵という立ち位置に席をおいたサジに、エルマーは流れになったとはいええらいことになったと頭を抱えた。
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