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エルマーの大好きな腕の中で、まるで離さないと言わんばかりの力で抱き込まれると、ナナシは幸せで泣きたくなってくる。 まるで宝物のように、その腕に大切に閉じ込められると、狭くて窮屈な腕の中がこの世の楽園だとかんじるのだ。 エルマーの匂いがすきだ。おひさまのような笑顔もすきだ。かすれた声も、宝石のような金色の瞳も、意外と柔らかい髪の毛も、全部全部、エルマーを構成する細胞の一粒でさえも、ナナシにとっては何者にも代えがたい大好きで大切な人だ。 ナナシの差し出した好きを、いっつも微笑んで受け取ってくれる。嬉しそうに、可愛く笑って、口付けもくれる。 汚れたナナシを厭わずに、丁寧に磨いて撫でてくれたその人が、今、自分の上で本能を曝け出してくれている。 ああ、自分はなんて、幸せものなんだろう。 「ひ、ぁ、あっ!んあ、あっあっだ、だぇ、えるぅ、は、はげひっ、や、あーー‥!!」 じゅぱじゅぱと、繋がった下肢からは耳を塞ぎたくなるような激しい水音がたっている。 ナナシの性器は馬鹿になってしまったようで、刺激される内壁の甘やかな痺れに我慢が追いつかず、さっきからぷるぷると揺さぶりに合わせて恥ずかしく揺れながら、エルマーの硬い腹に白濁をびしゃびしゃと撒き散らしていた。 「フー‥っ!ぐ、ぁ、っ…イき、そ…」 「ぃあ、あっ!あー‥あー‥っ、んぅ、ふや、ぁ、やだぁ、あっでるぅ、でるぅ…!!」 「ン、出せ…恥ずかしいとこ、全部俺に見せて、ナナシ…」 「きゃ、ぅ、ぁん、ぁ、あっ、すき、すきぃ…っ、える、えるぅっ…!」 ぶるりと身を震わせた。しびびっと全身の神経が舐め上げられたかのように鋭敏になる。ちいさな胸の尖りはピンと立ち、泡だった結合部からは少量の血液が混じった白濁がゴポゴポと吹き出した。 エルマーの激しい腰使いに耐えきれなかったナナシの腹がきつく絞り上げ、中に注ぎ込まれた精液の量が多かったせいか、吹き上げたのだ。律動にあわせてぼたぼたと床を汚す精液の粘度は濃く、エルマーは獣のようにナナシの腰を鷲掴んではバツバツと揺さぶりをやめなかった。 「あ、あ、だ、だめぇ、も、もう、し、んじゃぅ…!!きもちぃ、える、こわれちゃ…やぁ、あっ…でる、ぅ…っ!」 「とまんね、っ…くそ、」 「あーー‥、あ、あっ…ん、ふや、ぁ…っ、」 じょぱっと透明な水分が性器から吹き出した。ナナシの背はそらされ、びくんびくんと体を跳ねさせながら腹の奥でエルマーの精液を受け止める。 ああ、満たされていく。そう思った。 「ぁ、っ…くそ、…ナナシ…」 「ひぅ、あ…ぁ、…ん、ん…っ、」 ひくん、ひくんと薄い腹が痙攣する。顔を真っ赤に染め、肩で息をするナナシの姿に、エルマーはやりすぎたと思った。肺を膨らませ、胸が開くように上下する。桃色の小さな突起は、散々っぱらエルマーが弄くり倒したせいで赤く色づき、まるで呼吸とともに差し出されているような感覚になった。 エルマーは精液を注ぎ込んでも抜こうとはせず、その胸の突起を唇で挟むと、ちぅ、と甘く吸い付いた。 「ひゃ、んン…っ、…ぇ、る…」 「ん、ここ…すきか?」 「はぅ…ぁ、あー‥っ…」 背筋を優しく撫でられ、ちぅちぅと刺激される。ナナシの小さな胸のひと粒を、エルマーが愛しそうに愛撫する度に、気持ちが良くてとろとろと溢してしまう。だらしなく開いた口からは、返事の代わりに唾液が溢れる。 エルマーが目を細めて乱れるナナシの痴態を見詰めると、腰を揺らめかせ、こつんとナナシの一番奥の入口を擦った。 「っーーーー、はぁ、あっ!」 ぞくぞくとした突然の強い刺激がナナシを襲う。胸を反らし、まるで声が出ないほどの衝撃に、ナナシの赤い舌を見せつけるかのようにして呼吸をした。 「あー‥、」 すり、とエルマーが喉を晒すナナシの首筋に、鼻先を埋めた。ナナシの匂いを探るようにして口付けると、齒を突き立てる。がじがじと甘噛みしながら、こつこつと奥の弁を押し上げるかのようにして性器を押し付けると、ナナシはのろのろと背中に腕を回した。嬉しそうにエルマーの笑う気配がする。 ナナシは熱で思考が茹だったように何も考えられず、その刺激のたびに細い足をびくんと跳ねさせる。 「あ、あ、あ、あ、」 「ああ、…孕ましてぇなあ…」 「ぁ、…は…っ、」 ナナシの平べったい腹を、手で覆うようにして撫でる。臍の下にいる性器を確かめるようにエルマーがそこを押すと、ぷしゅりとナナシの性器から潮がこぼれた。 「ここに、孕ましてえ。そしたら、お前は一生俺のだろう。」 「んぁ、っ…え、るま…」 きつく抱きしめられ、そんなことを言われる。ナナシの耳元で、小さい子がママを探すような不安な声色で、ボソリと呟いたその言葉は、ナナシの心のなかに甘く響いた。 「なあ、もう…戻れなくても、いいか?」 「んぁ、え…?」 「俺んとこしか、帰ってくんなって言ったら…困るか。」 他にどこに帰るのだろう。ナナシはぽやぽやした思考の中、エルマーが不安そうな顔で言うものだから、なんだかそれが可哀想で、可愛かった。 エルマーの唇が、お伺いをするように数度口付けられる。 ふに、ふに、と甘えるように重なった後、一度だけ奥をこつんとされた。 可愛い。ナナシに嫌われたくないし手放したくないのに、やらしいこともしたいのだ。 欲張りにすべてを求めるくせに、こんな子どもじみた不安そうな顔をして、ナナシのだいすきな金色の瞳を揺らして見つめられる。眉を下げて、少しだけ泣きそうな顔だ。 ああ、愛おしいのだ。 「なな、しは…」 「うん、」 「…える、のそば…で、…しに、たい…。」 強すぎる快感による、涙と、涎と鼻水にまみれた情けない顔でふにゃりとわらった。 エルマーはその言葉に、左目から義眼が溢れるのではとナナシがはらはらするくらい目を見開いたあと、ぶわわわっと一気に顔を染め上げた。 「お、あ、お、おう、うん…う、ん…」 顔を真っ赤に染め上げて、失った語彙力をかき集めるかのようにおろおろしたあと、ぼすんと首筋に顔を埋めた。 「えるのこ、ほしいよう?」 「おまえ、ちょっと、だまっててくんない…」 「かぁいい、」 ぢくんとエルマーの素直な部分が大きく膨らむ。優しく抱きしめながら、ほっぺに擦り寄り猫毛を撫でる。先程の雄になっていたエルマーが、まるで今は下手くそに照れ隠しをして甘える。 不遜でわがままで俺様なのは周りにだけだけど、そんなエルマーも大好きだ。 そのエルマーが、今初めて照れていた。好きな子に告白をして、受け入れてもらった心の歓喜を噛みしめるかのようにして。 だって、エルマーにとってナナシの言葉は福音なのだ。 「俺、薄っぺらい言葉だから使いたくなかったんだけどよぅ…」 照れすぎると語尾が窄まるということを初めて知った。 ナナシはその話の続きを促すように、よしよしと甘やかしながら大人しく待つ。 「たしかに、一言で表すのには…いいのかもな。」 「ん、…える…」 そっと顔をあげると、何とも気恥ずかしそうな、それを取り繕おうとして眉間にシワを寄せながらも緩んでしまう口元に抵抗しながらナナシを見つめる。 「える、おかお…すごくかあいいね…」 「ばかやろ、急に余裕かましてくんじゃねえよ…」 「きゃ、んっ…あ、あっ、ぁ、らめ、ぉくきもひぃ、…っ、」 ムスッとしたエルマーに、こつこつと奥の弁を擦られる。その強い刺激に胸の突起をぴんと主張させながら、きゅうきゅうと中のエルマーを締め付ける。 とけた瞳で、すべてを語るようにナナシをまっすぐに見つめてくるものだから、なんだかそれが恥ずかしくて、小さな手で顔を覆い隠した。 「離れんな、」 「ぁ、あぅ…も、とんとんゃら…ふぁ、ぁん…っ…」 「腕…こっちな。顔見せてくれよ、ナナシ。」 「ぁ、あふ…っ、え、えるま…きも、ちぃ…あ…あ、…」 ちゅ、と瞼に口付けられる。あまりに優しい手付きでゆっくりと髪を撫で、頬を両手で包み込み、鼻先をこすり合わせてそっと唇を重ねた。 ナナシの睫毛が震え、触れ合った唇の少しだけ濡れた感触と、柔らかさに泣きそうになる。 舌を絡めるような欲を孕む口付けではない。子供がするような、可愛らしい口付けとも違う。 角度を変えて、そっと存在を確かめるかのようなそれは、まるで、 「愛してる。」 ボソリと口付ける合間に呟かれた。かすれた声で、本当に小さく一言だけ。 ナナシは心臓が微炭酸で包まれていくような、しゅわしゅわとした甘い痺れに体の力が抜けていく。  「え、ぅ…っ、」 「ふ、」 「ン、っんぅ…」 ナナシも答えたいのに、エルマーが何度も唇を塞ぐから言えない。言わせないようにしているのかもしれない。 ナナシの小さな手のひらに、自分の大きな手を重ね、指を絡める。エルマーの舌が唇をなぞって、ナナシもそれに答えるように口を開いた。 「ん、む…ぁ、え、えぅ…、」 「ふ、…っ…」 くちくちと絡め、唇が離れる。舌先同士を擦り合わせ、エルマーから与えられた唾液を飲み込むように、ナナシの喉仏がコクリと動いた。 「ナナシ、」 「え、るま…ぁ、きて…ぇ…」 「ナ、ナシ…っ、」 ゆるゆると足を開いて、エルマーの腰に絡ませて引き寄せた。もう、遠慮なんて不慣れなことをしないでほしかったし、何よりナナシがエルマーの求めに応じないことなんてないのだ。 「おく、きもちくして」 「うん、」 「エルマーの、で…かわいくして」 「……小悪魔、」 ぐっ、と堪えるような顔をしたあと、金色の瞳が煌めく。ああ、やっぱり自分の瞳の色よりも綺麗だなあとおもった。 「っあ、あーーー‥!」 ぐぱ、とエルマーの太いものがゴリゴリと内側を強く擦り上げた。その太い先端で何度も小刻みに奥へと押し込みながら、そしてようやくぐぷんと入った。 押し込んだ勢いで、ぷぴゅりと注ぎ込んでいた精液が吹き出す。ガクガクと震えるナナシの腰を押さえ、小刻みに腰を揺らめかせた。 「ぁ、あっあっ、や、ぁー‥あ、ぁは、き、もひぃ、え、えるまぁ…きもひ、ぃ、やだ、あっあっとけるぅ、うっ…!」 「かわいい、とこ…みせ、るんだろ…っ!」 「ひぁ、あ、っいや、ぁっも、もぅ、ぉくや、らあ…!!」 ごちゅごちゅと奥を穿つ。ナナシの細い体を抱き込みながら、何度も激しく揺さぶった。 ナナシの内壁はエルマーに吸い付いて離れない。ぁ、と小さな声をエルマーが漏らしたとき、ぶわわっと強い快感が襲った。 「イ、く…」  「ひゃ、ぅ、んくっ、ぁ、あー‥!」 びゅくびゅくと中で性器を揺らしながら精液を吹き上げる。ナナシはごくごくと結腸の奥深くでエルマーの精液を飲み込むと、熱い頭を慰めるように撫でてくれるエルマーの手にすり寄った。 お互い乱れた呼吸のおかげで、一言も発せない。その代わり、手や唇で何度も確かめ合う。 ナナシの瞳も、エルマーの瞳も、互いに蕩けていた。 唇を重ねすぎて赤くなった互いのそれに、ナナシがくふんと可愛く笑った。あぐ、と下唇をいたずらに喰む。されたエルマーも、してやられたとあぐりとナナシの唇を噛み返した。 ようやく呼吸が整い、周りを見る余裕ができたときには、エルマーは深い為息を吐いてナナシを抱き込んだ。 「える?」 「…、床で抱いて…すまんかった。」 「いーよぅ、」 何だそんなことかという調子で、ナナシが言う。 エルマーはしょぼくれた顔はしたが、ナナシを抱き起こすと背中の摩擦痕に治癒を施した。 擦過傷程度ならエルマーでも治せる。細胞の活性化をさせるよりも早いのだ。 傷だらけのナナシの背中を、そっと撫でる。エルマーがこうして擦り傷を作ってしまう前からの傷痕が、こころなしか薄くなっているような気がした。 「ナナシ、その…腹のだそうか。」 「んう、」 とろりと尻のあわいから溢れたのはエルマーの精液だ。無理な抱き方をしたせいで傷つけたそこも治したかった。 甘えるように抱きついてくるナナシを抱き上げると、浴室に運んだ。身体を重ねるなら、ベッドの上でとびっきり甘やかしてと決めていたのに、結局本能のまま貪ってしまった。 労るように処理をして、時折掻き出す指を甘く締め付けるそこに兆しそうになって冷水を浴び、ナナシをびっくりさせたりしながら二人して久々の湯船に浸かる。 前は後ろから抱きしめていたのに、いまはエルマーの肩口に頭をおいて、こてりと体を預けている。 無防備で、安心を向けられていることがこんなにも嬉しい。 噛み付いた肩口の傷跡だけは、治癒をしなかった。 キスマークよりも長く残るだろうそれは、エルマーのわがままでそこに残しておくことにしたのだ。 うとうとと微睡むナナシの頬を引き寄せて口付ける。まるで童貞のように何度もしすぎて恥ずかしい限りだ。 「…すまん、」 「んふ、すき。」 ナナシがへにゃりと嬉しそうに笑う。エルマーの首筋にかぷりと噛み付いて、ちうちう吸うナナシは叫びだしたくなるほど可愛い。 あやすように頭を撫でると、ちゅる、と唇を離してむすくれた。 「つかない…」 「んあ?」 「あかいの」 ナナシの白いお腹に咲いた赤い痕を撫でて言う。ようやくナナシが自分にキスマークをつけたかったのだと理解すると、エルマーの顔は照れと悶と理不尽ないら立ち、とまあ、こんなに可愛くて大丈夫なのかこいつは。というものだが、それらの複雑な感情に顔をくちゃっと歪めた。 「そのうち、教えてやらあ。」 「はぁい、」 絞り出すような声にいいお返事をすると、エルマーの胸板を背もたれに、久々の湯船での戯れを楽しんだ。 エルマーは、その無邪気な様子を眺めながら、まじで誰にもやらんと決意を新たにするのだった。

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