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蛇は静かに傍観する。(結婚編) レイガン×ユミル *
薄暗い室内を静かに支配していくのは、荒い呼吸と水音だ。
まるで互いに溶け合って一つになることを望むかのように、生まれたままの姿の二人が絡み合う。
汗で滑る肌をレイガンの大きな手がしっかりと掴み、男らしい腕に走る血管を浮き立たせながら細い腰を引き寄せる。
カチコチと音をたてる時計の針は二週目に差し掛かるのに、未だに終わらぬ営みは静かにユミルの体を溶かすのだ。
「あ、あぁあっや、も、ぉ…いや、あっ…!」
「ん、…たり、ん…」
「ばかばか、あっ、お、おしま、いぃ…っ!」
「い、やだ…っ、」
ユミルの腹の中を蹂躙してはがじがじと肩口を甘く噛む。しびれるような痛みが身に走るたびに乳首が反応してしまう。レイガンの厚みのある胸板に擦られながら、反り返った性器が前立腺を超えるたびにユミルの腹はビクビクと震える。
きもちいい、レイガンもきもちいいんだな。
顔を赤くして、食いしばった歯の隙間から興奮の吐息を漏らしながらガツガツと貪るように腰を打ち付ける。
一回だけしかしないから。それは、正しい意味ではなく、挿入が一回のみという意味であった。
「い、ゃらぁ…も、ぉな、か…やぁ、あっ…」
たぷたぷと腹の中の吐き出された精液が、律動にあわせて尻から吹き出すのが恥ずかしい。
なんで抜いてくれないの。感度高く、快楽の奔流に飲み込まれたユミルの涙声でそう抗議される度、レイガンの後頭部は焼けるように熱を持つ。
自分の体の下で、ぬらぬらとした精液で身体を濡らしながら、雌に成り下がって大泣きするちいさな番の体を見下ろしながら、乱暴に腰を打ち付ける。
ここが気持ちいい、ここを刮ぐようにせめてやれば、ユミルは可愛く潮を吹く。
「か、わいい…、ユミ、ル…ユミル、っ…」
「ひん、っ…うぁ、あ、あっい、いぐ、っいぐがらぁ…っ!!も、とまっ、へ…」
だめだ、頭が、頭が馬鹿になってしまう。
尻の結合部位は執拗に摩擦を繰り返され、肉襞が捲り上がるようにして痙攣を繰り返す。
抜き差しされる度に尻の筋肉が溶かされるようにバカになる。
虚ろな思考で必死にレイガンの腕にすがりつけば、頭を抱き込まれて余計に律動が激しくなった。
「ユミル、っ…ぁ、すげえ…く、そ、」
「ふぁ、っあぁ、ぁやっ、やぇ、へ…い、いっだ…も、もう、いっだか、らぁ…っ」
「ん、っ…もっと、イってくれ…はぁ、あ…っ、」
射精とは違う堪えきれないものがユミルの性器を駆け上がる。レイガンによって押し上げられた膀胱は、箍が外れるかのように性器から熱い液体が吹き上げた。
「ひぃ、あ、あっゃら、と、とまんな…ふぇ、っ…」
「ふは、っ…漏れたなユミル、構わん、もっと出せ。」
「ば、か…!ゃだっ、ゃ、やぁ、あー‥だめぇえ、っ…!!」
抱き込んだまま激しく揺さぶるレイガンの腰を挟むように、ユミルの白い足がブラブラと揺れる。打ち付けられた腰と、縁をくすぐるレイガンの茂みが插入の深さを物語る。耳を舐られ、汗ばんだ首筋に顔を埋められ、腹の中は雄々しい性器によって溶けてしまうほど気持ちがいい。
胸を差し出すように身をよじってしまうから、期待していると勘違いしたレイガンに乳首を甘く噛まれる。
「そこ、ぉっ…い、いっひょ、ゃ…ん、ふぁ、あっあぁ、あー‥」
「なんだ、もっとかユミル…」
「はぁ、あっぁあっあ、い、いぃ、ゃ、きも、ちぃ…!!」
べろりと熱い舌に腔内を犯され、飲みきれなかった唾液が口端からだらしなく伝う。腰回りを漏らしたもので濡らしながら、涙を枕で拭うようにして髪を振り乱す。のけぞったことで晒された白い喉元に強く吸い付けば、ふるりと身を震わしながら内壁を収縮される。
ユミルのこぶりな性器からぷしゅりと吹き出したのにレイガンが獰猛な笑みを浮かべると、抱えあげた脚にがぶりと噛みつきながら小刻みに腰を打ち付けた。
涙の被膜でレイガンがぼやける。ユミルの腹はもう精液を溜め込んでぽこりとふくらみ、その腹の上の体液を撫でて引き伸ばすようにしてレイガンが遊ぶので、もう汚れていないところはない。
「ぁ、イぅ、っう、ぅうっだ、め、や、やぁ、あっあぁ、あ、ア!」
「っぐ、ぁ…」
「ひぅ、ぁ…」
全身の神経の末端まで、レイガンの精液で満たされるんじゃないかと思うほどに浸透してしまった。
腹の奥が熱い。もう、最初に出した精液を掻き出すようにバカみたいに腰を打ち付けるから、ユミルのベッドはえらいことである。
奥で脈打つ感覚がしたあと、ぎしりと音を立ててレイガンが覆いかぶさってきた。
お互い汗だくのまま、マーキングするかのように腕を回し合う。
塗り込むようにゆっくりと数度抜き差しをしたレイガンに、ユミルが泣き腫らした目で見上げた。
「も、しなぃ…」
「…………………うん、」
聞こえないふりをしようとしてもこの距離だ。レイガンはユミルの唇を啄むと、ぐぽりと端ない音を立てて性器を引き抜いた。
ひくんと収縮して締まらない。馬鹿になったそこからどぷどぷとこぼれる白濁に、いつか孕まされるんじゃないかとひやりとする。
力の抜けきったユミルを抱き起こす。行為の後はいつもこうだ。
レイガンが胡座をかいて、その足の間に横抱きにするようにユミルを納める。
その体を閉じ込めるようにして抱き締めると、まるで獣のように涙に濡れた顔をひと舐めする。
「ん、…ちょ、レイガン」
「うん」
「う、うんじゃ、なくて…」
がじがじと耳やら首筋を甘噛みしては、甘えるようにユミルの顔に頬擦りをする。
まるで大きな獣に懐かれたような気さえする。
とろとろにとけきって、くたくたの体が可愛いと言わんばかりに唇を押し付けては、ちぅちぅと吸い付いてくるのだ。
「レイガン、」
「うん」
「ちょっと…会話して…」
「可愛い。」
「か、会話…」
だめだ、レイガンがどろどろに甘えてくるのは可愛いが、いかんせんゴツいし重いのだ。さっきからぐりぐりと顔を埋める首筋に、ユミルは人の首の可動域の限界を感じていた。
「れ、レイガン…首痛い…」
「む。」
ようやく我に返ったらしいレイガンが、むくりと顔を上げる。謝るようにその唇に口付ければ、冷静になってきたらしい。いつものあまり表情が変わらないレイガンに戻った。
「…も、お前が僕を好きすぎるのはわかったから…」
「顔が赤い、かわいい。」
「レイガン語彙力どこ捨ててきたの。」
「本音しか言ってないぞ。安心しろ。」
「余計に心配だよ…」
苦笑いをしたユミルがモゾモゾと動く。そっと尻に触れると、やっと緩まったそこが元に戻っていた。
吸い付くようにひくんと震える感覚に、括約筋が死んだら介護してくれるのかなあと取り留めもないことを思った。
「今何時…も、お腹すいたよレイガン…」
「なにか作るか。」
「いや、なんかもう面倒だし…チーズとか、クラッカーで軽く取ってもう寝よう…」
「ボトルは?」
「きょうは赤の気分…」
わかったと額に口付ける。レイガンが下着だけ身につけると、なぜだかユミルまで抱き上げた。
「おい、なんでよ」
「寒い」
「寒いなら服着ればいいじゃん…」
「届かない。」
「屈めば!?」
適当なことを抜かしてばかりいるレイガンに、ユミルは諦めたように体に腕を回した。
何というか、家にいるときはずっとくっついていたいと初日に言っていた。
あれは寝言だろうと思っていたらマジだったようで、こうして行為の後は素肌をくっつけたまま過ごすことももう慣れた。
「これ持ってくれ。」
「はいはい。」
レイガンが片手でクラッカーとチーズを皿に乗っける。変なところで器用なんだよなあと思ったが。よくよく考えたら手のひらの大きさが違う。だから片手間にできるのだろうと、ワインとグラスを持たされたユミルはしみじみと思った。
リビングで食べればいいのに、セックスの後はベッドが定位置だ。食べかすを零すなというと、ならユミルが食わせてくれと言いだすのでお手上げである。
サイドテーブルに持ってきたものを置くと、例にももれずにユミルを抱き込んだ。
ワインのコルクを歯で抜くレイガンに、少しだけキュンとしたのは秘密だ。
「あ、」
「当たり前のように口開けるじゃん…」
グラスにワインを注ぎ終えたレイガンが、ユミルを抱き込んで再び口を開く。ここまでやったから、あとは甘やかせという意味だ。
年下を全面に出してくるのは二人だけの時だが、悪い気がしないのも事実。
ナッツ入りチーズをのせたクラッカーをレイガンの口に入れてやると、一口でバクリと口に含む。
むぐむぐと口を動かしている間、眠そうな目でじっと見つめてくるのが犬のようである。
「明日トッドさん来るのに、大暴れしちゃったな…」
「気にするな。」
「そりゃ、レイガンは気にしないかもしれないけどさ…」
ユミルとしては、いくら服を着たまま採寸するとはいっても、あるき方とかでバレるのではないかとそちらのほうが不安であった。
相変わらず腰が外れるのではと思うくらい掴むものだから、下手くそな治癒を施そうと腰に触れる。
レイガンとユミルの隙間を縫うように、滑らかな何かがしゅるりと肌を撫でると、おもわずびくりとした。
「お盛んだったなー。ユミル、ニアも酒を飲む。ユミルのグラスつかっていいか?」
「ニア、どこにいたの。」
「ずっとフロアライトに絡みついて見てたぞー。レイガン、種はもう空っぽか。」
「まだでる。」
「いややめろ。」
ぺちんとレイガンの顔を手のひらで押さえるようにして止めると、楽しそうに舌をちろつかせるニアにワインを勧めた。
嬉しそうにしゅるりとグラスを抱くように巻き付くと、ちろちろと舌で水面を震わした。
「ニアは白いのもすきだなあ。おっと、卑猥な白ではないぞ。うふふ。」
「わかってるってば…、ほら、チーズたべる?」
「ニア、今は俺の時間だ。お前は好き勝手摘め。」
「おや、レイガンが雛鳥のようなことを言う。これはおかしい。ふふふ、」
ユミルの指につままれたチーズをぱくんと飲み込むと、その身の一部を膨らませながら面白そうに蜷局を巻いた。
「痒そうだな。」
「ん?」
「首筋。虫にでも刺されたかー。」
ニアの意地悪な声で指摘をされ、何よりもぎこちなく動きを止めたのはレイガンであった。
「ニア、やめろ。」
「おや、吸い付かれただけかあ。うふふ、レイガンも乳臭いガキのような事をする。」
「だから、黙ってろって…、あ」
ひゃー!と楽しそうに身をくねらせてレイガンの手から逃れると、すり…と自分の首筋から肩を撫でたユミルが、無言で寝室を出ていく。
やばい、これはキレている。
レイガンはその整った顔をサーッと青褪めさせると、慌ててボトムスを履く。
以前事後にキレたユミルから下着一枚で締め出された過去があるからして、備えあれば憂い無しというやつである。締め出されたくはないが。
「ニア、おまえ余計なことを…!」
「しるもんか。褥での雌の言うことを聞かなかったレイガンが悪い。あれは根に持つぞー、あしたが楽しみだなあ。」
「狡猾な蛇め!」
「おやあ、よくご存知で。」
シュルシュルと笑うニアを相手にしていたレイガンが、冷えた空気にぴくりと反応した。
まるで関節が錆びついたかのように、恐る恐る背後を振り向く。
「………、」
うつむいた裸のままのユミルの全身に本能で目線を滑らした次の瞬間、ゆらりと表情を消したユミルが近付いた。思わず両手を広げて迎えようとしたレイガンの目の前に、強い衝撃とともに火花が散った。
「ぐはぁっ、!!」
「ざっけんなクソガキ!僕言ったべやぁ!痕残すなって!!おめえは人の話きぐ耳もってねえのが!!」
一歩踏み込み、盛大なフルスイングでの平手打ちである。ニアはそれが見たかったのか、のたうち回りながらケラケラと大爆笑だ。
小さい体のユミルが、対大男ように編み出した攻撃は、全身を使った平手打ちと金的だ。やはり今後に期待して後者は行わなかったが、それにしてもレイガンと背丈が15センチも違うのに、自分よりも重い男を床に鎮めるほどの強力な平手を、レイガンはつねに怯えていた。
「ちょ、ゆ、ゆみ」
「やかましい!!どうすんだべこれ!!もうお前しばらく触らせないからな!?ばああか!!」
「いたい!2はっ、2発はだめだろ、いたい!!」
「2発も3発も変わらんべや!!レイガンー!!」
ドタドタと部屋の中を駆けずり回る。何にせよ、普段温厚なユミルがあれだけやめろといったことをやらかしたのである。
一つならまだごまかせる、しかしつけるなと言って4箇所も付けたのだから4発は道理だろう。
「ユミルー!いいぞーもっとやれー!うはははは!」
「ニア!!お前はどっちの味方だ!!」
「私は蛇だから人語はわかんない。」
「うそこけおまえー!!いてえ!!」
バッチンといい音がした後、どがしゃんとけたたましい音がした。どうやらユミルの最後の最後一発は無事レイガンに食らわせることができたらしい。
やり返せばいいのに、それをしないあたりユミルのことが大好きである。
ニアからしてみたら、蛇も丸呑みできぬいちゃつきぶりである。
「治癒しちゃえばなおるのになー。」
そんな簡単なことも思いつかないなんて、やはり恋愛ボケしているなあとのほほんと宣うと、飲み指しのユミルのワインを飲んで、満足そうにとぐろを巻いた。
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