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RINTO ROUTE
桐谷は柚莉愛に一つ大きな貸しを作り、結局それを返す羽目になってしまい、その桐谷に付き合った峯は共に電車に乗って大きなテーマパークを横目に通り過ぎ、更に海の近くにあるイベントホールの地に初めて足を踏み入れた。
「──コレ、何……?」
「同人誌」
「どう、じんし……? 自費出版のあの同人誌?」
「把握早いな、凛」
「コレを……この本を柚莉愛ちゃんが描いてるの?」
「そ。お前のだーいすきなゆりりんの頭の中はそれはもう目も当てらないくらいの煩悩でまみれてんのよ」
峯は中をペラペラと数ページ捲るだけでその内容の激しさに仔犬の目を落ちそうなほどに見開き、すでに声すら失い、固まってしまっていた。
そして訴えかけるように潤んだ瞳で桐谷を見つめ、桐谷は黙ってその頭をポンポンと優しく叩いた。
「これ、男の方……虎羽がモデル?」
「えっ!」桐谷はその言葉に頭に乗せた手をビクリと弾ませた。
「こんなビックリするほどおっきくないけど──なんか」
「お黙り! もういいからっホラッ、座って」
桐谷は峯の小さな口を手で慌てて塞ぐと、問答無用に肩を押さえつけ椅子に座らせる。
その隣に少し居心地悪そうに桐谷が腰掛けると、じっとこちらを見つめる峯と目が合う。
「ん?」
「ううん、いつもここに一人で無愛想な虎羽が座ってたのかと思うとなんだかおかしくて」
頬を少し赤らめながらくすくすと峯は肩を竦めて笑う。場所が場所でなければ桐谷はうっかり抱きしめてしまいそうになる。
「慣れたもんだぞ、お前が駅前でぶっ倒れた時も俺はここの帰りだったんだから」
「じゃあ、ますます柚莉愛ちゃんに感謝だな。ここに虎羽がいたから俺たち繋がれたんだ」
「えっ」
「えっちな顔しない!」ぺちりと鼻頭を手の平で軽く叩かれ、桐谷は小さく悲鳴を上げた。
「お前、さ。柚莉愛のことこれからも応援出来そう?」
何となく申し訳なさから峯を直視できなくて、桐谷は視線を泳がせながら問う。
「うん、するよ。ちょっと暫くは複雑な思いもあるけど──柚莉愛ちゃんはやっぱ俺のいつでもターニングポイントになる人なんだって改めて特別な気がした」
「特別──か」
「なに? 嫉妬した?」
「楽しそうに言うなよ」
「少しは俺の気持ちわかった?」
「いじめんなよ」
桐谷に肩でつつかれ、峯はくすぐったそうに笑う。
「虎羽ってば可愛いの」
峯はこっそりと桐谷の手を取り、周りから見えないように膝の上で指を絡めた。
それに返すようにして桐谷も指を絡め、微笑む峯を真っ直ぐ見つめる。
「帰り、スターライトパスポートで寄り道しよ?」と峯がおねだりすると桐谷は耳元で「俺はもっと狭い場所が良い」と甘く囁いた。
再び鼻頭を叩かれ、桐谷は「冗談です、許してっ」と必死に峯に縋った。
峯は怒りながらも繋がった手は離さずに、結局最後には桐谷を許し、いつものように暖かく笑うのだ──。
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