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level.16
翌朝、桐谷は今まで秘密にしていた柚莉愛との出会いから今までのことを包み隠さず峯に打ち明けた。
峯はその間一度も口を挟む事なく、じっと桐谷を真っ直ぐ見つめ続けた──。
「あたまが……許容量オーバーで、理解、できない、です……」
そう言って床に倒れ込む峯の耳からは故障した車が上げる白い煙が立ち昇って見えるようだった。
自分がずっと応援し続けていたアイドルの、ある意味背徳的で絶対にファンが立ち入ってはいけないプライベートな姿に、峯は勝手に作り上げていた自分の中の理想的で純真な偶像を最早保つことが出来ないでいた。
「怒って……いいよ? お前に柚莉愛とのことずっと黙ってたんだから──さ」
「虎羽……は、柚莉愛ちゃんと個人的に一年前から知り合い、で──その、つまり……そういう関係……だったってこと……?」
「……ああ」
「つまり、俺……と柚莉愛ちゃんとは……竿姉弟……」
「わあああっ!! お前がそんな単語を口にしたらダメ! 今すぐお母さんのお腹の中に返して来なさいっ!」
峯は突然強烈なパワーワードを発したかと思うと、今度は床に顔をめり込ませる勢いで突然泣き出した。
その激しい情緒不安定具合に桐谷はほとんど置いてけぼり状態だ。
「複雑過ぎてぇ、どっちに泣いたら良いのかわかんないよ〜〜っ、ゆりりんがっ……虎羽がっ、もうっ、なんでぇ〜??」
「ごめんごめんごめん!!」
泣きじゃくる峯を慌てて抱きしめ、必死に背中を撫でて宥めるが、峯はなかなか泣き止みそうにない。
「虎羽はゆりりんとえっちしながら、俺にゆりりんとヤリたいかとか聞いて……どういう神経してたの?! 俺の前では平気な顔して虎羽は影でゆりりんのおっぱい死ぬ程揉んでたんだぁ〜っ」
「いや、死ぬ程は……って違うっ、ごめん! それは俺も悪趣味だったと今は後悔してる! あの時はまさかお前と付き合うことになるとは思ってもみなかったから……」
「……じゃあ、いつから思ったの……?」
「──お前、と初めてした、とき……。俺が、映像の柚莉愛に嫉妬した……」
「なんだよぉっ! なんでそんな突然可愛いレベルの話しになるのぉ? 自分なんか本物と会ってえっちまでしてたくせにぃ〜!」
「──ごもっともです。誠に申し訳ございません」
峯はヒステリックを起こしながら何度も桐谷の胸や背中を叩いては暴れ、それでも桐谷は諦めずにずっとその身体を抱き締め、何度も背中を撫でては謝り、小さな頭にキスをした。
桐谷の声と体温に、峯は少しずつ落ち着いてきたのか桐谷のシャツで涙を拭い、心の錘 を吐き出すみたいに大きく息を吐いて、優しく抱き止めてくれる肌に頬を寄せた。
「俺……お前としてからはアイツと会ってないし、もちろんヤッてもねぇから──それだけは本当だから……」
「あの……夜の電話は……?」
「アイツからの呼び出し……でも断った。それと、もう終わりにしようって……」
峯はふと何かに気づき、パッと顔を上げた。
「ひょっとして──柚莉愛ちゃんは……俺のこと知ってる?」
「うん、知ってる。名前だけだけど──イベントでお前に会ったって、昼間メッセージあった……」
「柚莉愛ちゃんは……イベントで俺のこと励ましてくれた。俺が──虎羽の相手だって知ってたから……だから?」
「励ます……? 柚莉愛が?」
「柚莉愛ちゃんが言ってくれたんだ。好きなら諦めちゃダメだって……。相手はどうしていいのかわからなくて意気地がなくて、ひよってるだけだって──」
「クソ、あいつ。そんなこと一言も……すげぇムカつく……」
桐谷はバツが悪そうに無造作に自分の後ろ髪を掻いた。
「柚莉愛ちゃんは……虎羽のことだってわかってて……俺に──」
「でも俺、お前と付き合ってるとは一言も話してなかったんだけど……」
「悔しいけど……柚莉愛ちゃんには虎羽と俺とのことなんてお見通しなんだよ。それに、女の子は勘が良いから」
「性感度で凛の右に出る者はいねぇけどな」
「もっ馬鹿! こんな時までふざけんな!」
パシリと思い切り頭をはたかれ、桐谷は勘が悪過ぎる自分に猛省する──。
「もう柚莉愛ちゃんとは二度と会わないの……?」
なんとなく気不味げに峯は視線を桐谷から逸らしながら恋人の本心を確認する。
「なに? お前会いたいの?」
「違く、て──そりゃファンとしては会いたい気持ちはあるけど……なんとなく、虎羽にとって柚莉愛ちゃんって友達でもあったんじゃないかなぁって思って……」
峯の鋭い言葉に桐谷は目を瞬かせた。
「なんで、そう思う?」
「だって、あの、俺はそういう……身体だけの関係……とかはわかんない……けど、その相手が恋人と喧嘩別れしたからって親身になったりするかなって……俺を直接励ましたり、虎羽に連絡したり……わざわざするのかなって……」
峯は視線を慌ただしく泳がせ、モゴモゴと口籠もりながら小声で告げる。
なんとなく腹が立って桐谷はぺちりと軽く峯の頭を叩き、驚いた峯が絶望の眼差しで桐谷に視点を合わせた。
「怒ったの?」
「──怒った。何なのお前、そういう繊細な感じ出してくるのやめろよっ。"ヤダヤダもう俺以外と二人きりで会うの禁止なんだからねっ!" って俺に泣きつけよ!」
「俺ってそんなキャラ? 虎羽の中で俺は幼稚園児かなんかなの?」
「お前が知らんだけで遠からずだぞ。お前は自分が思っている以上に甘えん坊でエロくてエロいぞ!」
「なんか情報に偏りがあり過ぎるんだけど?」
「またまたぁ、大好きなくせに〜」
明らかに殴ろうして振り上げられた峯の拳を先に封じて桐谷は難を逃れると、そのまま引っ張り寄せて暴れる身体を抱き締めた。
「きっとお前なら、柚莉愛を助けるんだろうな……」
「──助ける? 柚莉愛ちゃんのなにを?」
「んー? アイツのもう一つの夢」
「柚莉愛ちゃんの……夢?」
峯は素直に意味がわからなくて小首を傾げた。仔犬みたいに純粋な丸い瞳が桐谷の危険なスイッチを押してしまい、昨夜は干涸 びた蛙さながら半死状態だったくせに、互いにベッドに腰掛けていた峯を突如押し倒して顔中キスして回る。
「もっ、突然なにっ! 今は大事な話の途中っコラッ、馬鹿ッ、虎羽!」
「先っちょ、先っちょだけ」
「サイテー! もっ、どこに手入れてんのっ、脱がすなっ! ダメダメッ──ンッ!」
ジンと熱いモノが身体の中に触れて、峯は唇を噛んだ。
「──ほんとに、挿れた……虎羽の馬鹿……」
両手同士を絡めて、桐谷は頬の温度を上げて赤くなった峯へ許しを請うみたいに何度も優しく口付ける。
「大好きだよ、凛人……あの日から、ずっと遠くから見ることしかできなくて……苦しかった……」
「そんなの……俺だっておんなじだった……学校で虎羽を見るたび……苦しくて、辛くて……大好きなのに触れなくて……気が狂いそうだった──」
思い出してしまうのか、峯は瞳を潤ませながら繋がれた手に力を込めた。
「もう……俺以外としたらヤダ……虎羽の全部、俺だけのものにしたい」
「もうとっくにお前だけのだよ──今更だろ」
桐谷は峯の丸いおでこと鼻先にキスして、優しく微笑みその瞳を見つめる。
「ねぇ、虎羽あのね……」
峯があまりにも細く小さな声で囁くので桐谷は目を瞬かせ、素直に右耳を峯の口元へと寄せる。
「虎羽の全部、奥まで挿れて──ナカでいっぱいイッて……?」
甘くて湿ったなまめかしい声が桐谷の鼓膜を濡らしてそのまま峯に繋がった場所へと伝わり、峯は小さく鳴いた。
「──やっぱお前は百点満点過ぎるわ」
桐谷は全てを諦めるようにして眉を下げ、無防備に笑うと自身が持つ白旗を全て峯へと投げ出し降伏した──。
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