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第ニ十章・8
「で、でも。堕ろせ、って言われるかも」
「それは無いから、安心して。父はああ見えて、古風な人間だ」
授かった命を粗末にするような道は、弓月の家風を汚す。
衛の言葉は、早紀を安堵させた。
「妊娠、出産は体や心に大きな負担となる。まだ18歳の早紀に、それを望むのは酷だと解ってる。だが……」
「衛さん、僕はもう大人だって、何度言ったら解るのかなぁ?」
そうだった。
早紀は、子どもではなく、大人でもない。
早紀は、早紀だった!
「それでは。早紀、君は」
「僕も欲しい。衛さんの、赤ちゃん」
僕たちの、子ども。
衛は、早紀をしっかりと抱きしめた。
「早紀。早紀……、愛してるよ」
「僕も。僕は、その10,000倍も衛さんを愛してる」
二人で、唇を合わせた。
うっとりと描く未来は、幸せに満ちていた。
「またいつか、メビウスを営業しよう」
「僕もまた、そこで働きたいな」
そして新しいメビウスには、もう一人家族が増えているのだ。
メビウスの輪をたどっても、同じ場所には戻らない。
もっともっと鮮やかな光景が、衛と早紀の目には見えていた。
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