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2 邂逅編 危機

 険しげな声にヴィオは身をすくめて声の方を仰ぎ見る。暗い色の外套に身を包んだ若い男2人、大きな車用の門でなく小さな通用門の前に立っていた。  ぱさ、と外れかけていたくすんだ緑色のフードがヴィオの背の方に落ちる。 褐色よりの張りのある肌に、小さな顔の中で印象的な輝く大きな瞳。彩るのは癖がある少しくすんだ豊かな黒髪。肉感的な赤い唇と、蠱惑的にすらみえる容姿。男たちはフードからこぼれたヴィオの黒髪とその下に見える愛らしい顔に釘づけになった。 「ここ、あの」 「なにか困ってるのか? こんなところに可愛い女の子が一人でいるなんて危ないなあ」  背がそれなりに高くほっそりしたその姿は、年頃の少女の様にも見えたのだろう。  急に馴れ馴れしく話しかけてきたが、ヴィオは話しかけてくれたことだけでも嬉しかった。じわっと涙で大きな瞳が潤み、ふっくらした赤い唇を開く。 「あの、ここ、病院? 傷と熱に効く薬、探してて」  上手に説明したいのに、言葉に詰まってたどたどしくしか答えられないのがもどかしい。  縋るように吸い込まれそうな大きなヘリオトロープに似た紫色の瞳にじっと上目遣いに見つめられ、男たちは思わず生唾を飲み込んだ。 「そこに書いてあるだろ?」  門には看板が取り付けられておりそこに文字が書いてあるが、ヴィオは首を振る。簡単な読み書きしかできないヴィオには崩した文字で書いてある難しい単語はまるで分らないのだ。  恥ずかしくて顔を伏せるヴィオの頭の上で、男たちはにやにや嗤いながら目配せをしあった。 「薬ぐらいわけてやれるから、俺たちとこないか? 一緒なら中に入れる」  男の一人が素早く煙草を一箱、門の隣の守衛室に投げ入れるように渡すと、中の年老いた門番はあきれるような顔をしながら中へ三人を通す。  ぐいっと熱い大きな手で細い手首を掴まれ、大柄な男たち二人に挟まれるようにして半ば強引に塀の中へと連れ込まれていった。 「あっちにあるから」  男たちはそれっきり何も言わない。  塀の中は案外広かった。手前の大きな建物の中にすぐに入るのかと思ったら、雑木林がある奥の暗い方にどんどん連れていかれてヴィオは怖くなってしまった。 「手、離して」  ぎゅっと抵抗するように腕を引いたら、もう一人の男に小脇に抱えられてしまった。 「離して!」  声を上げた口を大きな手でふさがれて、逃れようと足をばたつかせるが屈強な男にはまるで歯が立たない。  暗い倉庫のようなところに押し込まれて、床に投げ落とされて痛み呻いていると、顔を紅潮させ、ハアハアと息を荒げながら興奮気味の男におもむろに上からのしかかられた。 「薬ならあとでやるから、代わりに、なあ、いいだろ?」 「なに? やだ、やだやだ!」  恐怖で身体がすくむ。まだ幼いヴィオには何をされそうになっているのかよくはわからない。しかし何か怖いことをさせていることだけは本能で分かった。  膝から下も長く、しなやかな筋肉の付いた足で男の顔を蹴り上げると、腕の力でばねの様に起き上がる。しかし今度は後ろからもう一人の男に羽交い絞めにされた。  後ろの男がぎゅっと腕を掴み、痛みでヴィオは呻いて俯く。 「どうせ、物乞いかなにかの類だろ? この浅黒い肌の色、この街の人間でもなさそうだしな?」  顔を蹴られた男が鼻から流れる血を拭いながら立ち上がと、ヴィオのフードの付いたマントをむしり取る。うつむいた顔を無理やりに上向かせると、目を剥いて威嚇するように顔を覗き込んできた。 「くそっ、可愛い顔をしてとんだアバズレじゃねえか。大人しくしてれば薬でも何でも恵んでやったのになあ? 」  酷い侮辱にヴィオは男をねめつけると唇を震わせて精いっぱいの大声できっぱりといった。 「僕は物乞いじゃない」 「はあ? 僕だあ?」  胸元に手をかけ、シャツが音を立て思い切り切り裂かれる。あらわになった褐色の肌には乳房はなく、細いが滑らかに筋肉が適度についた美しい身体つきをしていた。 「こいつ、男だ。畜生だましやがって」 「僕は薬が欲しかっただけだ。病院の場所を知りたかっただけ、お前たちが勝手に勘違いした。離せ! 僕は、急いでる。薬を探してるんだ! 離せ」  ぎりっと睨みつけるが美しい顔つきに羽交い絞めにしていた男の方がはあ、熱い息を少年の首に吹きかけてきた。 「やだ、離せ!」  ヴィオは鳥肌を立てて震えるが、逆にその反応に男はそそられたように下半身を擦り付けてきた。 「……いや、いいぜ。俺は。こんな田舎じゃろくな女がいないし、これだけ色っぽけりゃ男でもいける。薬やるからさ、いいだろ? 俺中央じゃ男とも経験あるぜ、痛くしないからさ」 「正気かよ」  もう一人の男が呆れたような声を上げたが、背後の男は構わないでヴィオを抱きすくめてくる。 「なに? なにを……」  腰から尻を撫でまわされ、首筋に舌を這わされると、ぞぞぞっと怖気が這い上る。涙がぽろぽろ零れてしまう。 「何をってきまってんだろ? お前のここに、嵌めんだよ。悪いようにはしないって。可愛がってやるし、薬もちゃんとやるから」 「ううっ…… やだ! やだやだ!」  硬くなった股間を押し付けられて、朧気ながら意味が分かったヴィオは大暴れするが、前からもう一人のとこもやってきて手で口をふさがれてしまう。 「ここで何してる?」  良く通る凛とした滑らかに低い声がして、倉庫の扉が開かれる。  雨とともに冷気が倉庫の中に吹き込み、倉庫前の小さな明かりの下、扉の前に立つ男性のシルエットが見えた。

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