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11 邂逅編 冬の日の別れ 1
翌朝、森の中の鳥の鳴き声で目を醒ましたセラフィンは、腕の中のぬくもりがすでに消えていることに気が付いた。
そう遅寝をしたつもりもなく、割と毎日同じような時刻に規則正しく目を醒ますが、それよりももっと早くヴィオは自宅に戻っていた。きっと昨晩は家族に何も言わずにこの部屋を訪れていたのだろうから、こっそり戻っていったのだろう。
そのぬくもりが消えていることに少し寂しさを覚えたセラフィンは未だに寝こけているジルを置いて暖かな服装に着替えをしてから家の外を散策してみることにした。
朝もやに煙る山里の空気は澄んでしっとりと草木の匂いを運んでくる。寒いなと思ってコートまで着て正解だったかもしれない。
入り口の方まで下って行き、里を下から見上げると、家の数はざっと目に入る程度で30軒あるかなしか。昨日明かりがついていたのはその三分の一程度だろうと思う。
段々となっている部分に家と綺麗に整備された畑が見える。こじんまりとしたした中にもところどころ山里というか新興住宅地のような整然とした雰囲気があるのは昨日アドから聞いた通り、ここが国から押し着せ与えられた場所だからだろうか。
空を大きな鳥が飛んでいった。晴れてはいるが雲の動きも大きく風も強い。寒村に似合いの寂し気な光景に、あの暖かな笑顔の少年が似つかわしくないと思った。
「先生~!」
大きな澄んだ声がしてきて視線をずらすと、ヴィオの家の戸口から姉のリアと、その隣にはヴィオも寄り添うように立って腕を振っていた。
「おはようございます!! 朝餉ができたから召し上がってください~!!」
大声で返事はしないまでもセラフィンも腕を振り返した。ズボンが朝露でぐっしょりと濡れてヒヤッとしてしまったので、一度泊めてもらった家まで戻るとジルを叩き起こして自分もズボンを履き替えた。
「ジル起きろ。朝餉がいただけるそうだ。頂いたらすぐにヴィオの叔母さんの様子を見に行きたい」
寝ているときは寝相が悪くも深い眠りをとれるジルだが、寮生活も経て非常に寝起きがいい。昨日はほとんど全裸で寝ても風邪一つひかない。すぐに飛び起きると前日に枕元に置いておいた服を手早く身に着けて、中央にいた時と同じく無彩色のきちっとした服をきたセラフィンと共にヴィオの家に伺った。
ヴィオの叔母の熱は下がり、微熱程度になったが、夕方になってまた上がるかもしれないと薬はしっかり飲み続けるように話をした。
彼女とその息子の世話は、ヴィオたちの従姉に当たる女性が見てくれていて、穏やかな笑顔でセラフィンに礼を言って労い、手製のお菓子をセラフィンたちとヴィオにも手渡してくれた。
その日の昼下がりには7名ほど里の若者たちが戻ってきた。いずれ劣らぬ体格の良さでセラフィンやジルより厚みがある身体を持つ屈強ぞろいだ。
そのうちの一人は昨日セラフィンたちが訪れた基地から入隊したのち、今は現在は地方の基地を転々としているという、ヴィオの従兄だった。見るからに若武者らしい凛とした青年で、彼らを迎えに出たヴィオやリアと共に、ついでのようにセラフィンとジルも外に出ていたら、彼の方から姿を見かけて走り寄ってきてくれた。
「リアから話は聞きました。カイっていいます。俺はアド伯父さんの甥です。母がこの里に住んでいます。具合の悪いエレノア叔母さんを診てくださったそうで、本当にありがとうございます。ヴィオのこともありがとうございます。あいつは家族同然の大切な子なのに、俺は今、離れているから守ってあげられなくて……。今は南部の基地にいるんですが、今日は久しぶりにここに戻ってこれました。お会いできて良かったです」
美しい緑色の瞳に黒檀のように真っ黒な髪をした凛々しさと同時に華もある若者だった。先ほどエレノアの家であった女性の弟にあたるそうだ。里長であるアガにも面差しが似ていて、甥と言われて納得だ。
隣りでは頬を染めたリアが彼の腕に腕を絡ませくっつくようにして、うっとりと下から見上げているからきっとリアは彼のことが好きなのだろう。
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