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13 再会編 里の変化 1
毎日毎日。あの日からずっと。
ヴィオの日課は郵便配達員が里の前を通りがかかる時刻に、その到着を待つことだった。
その日も顔見知りの配達員が乗るバイクの走行音が少しずつ近づいてくるを今か今かと待っていた。
遠くから聞こえてきたその音に、里の入り口から飛び出したヴィオは大きくよく見えるように手を振る。濃い緑色の制服をきた配達員はバイクを少しずつ減速しつつも止まる気配がない。ゆっくりと声が聞こえるぐらいの速度で、ヴィオの横を通り過ぎていった。
「ヴィオ! 今日は中央からの郵便はなかったぞ~! またな!」
「ありがとう! また明日~!」
(今日もなかったな…… やっぱり無理だったのかな)
セラフィンがこの里を訪れた日から矢のように時は過ぎ、あの頃はまだ12歳だったヴィオも、今年成人を迎えたほどであった。
背丈も一族の中でも大柄な父親やカイほどではないが、姉のリアよりは頭一つ分大きくなってすらりとした姿の中で、きらきらとした大きな瞳と意志の強そうな眉毛に小さなころの面影が残っている。
「ヴィオ、なにやってるのよ。支度手伝ってっていったじゃない!」
リアが家の方から大声を張り上げてきた。最近とにかく目を見張るほど綺麗になったと評判のリアは、隣町の若い男たちからしつこく言い寄られることも多く、そのたびに姉の私設警備係を買って出るヴィオは一苦労だ。
2年前まではヴィオも姉と頻繁に姉妹に間違われて、買い物に行くたびともに絡まれることも多かったが、かつて怖い思いをした経験から父や里の男たちに彼らお得意の護身術を習って鍛えていった。その結果、今では絡まれた程度では軽くふり払うぐらいの気安さで撃退できる腕っぷしの強さと、細くとも均整の取れた強靭な肉体を持つ、凛とした少年に成長を遂げていた。
そもそもフェル族は身体能力が高く、あの時だって不意を突かれて男たちに腕を掴まれていなければ逃げ切る自信はあったヴィオだ。
(でもセラフィン先生に出会えた。だからあれはあれでよかったんだ)
セラフィンが自分に向けてくれた冷たいほどに端正な、しかし温かい微笑を思い出してヴィオも微笑む。
(会いたいな。先生)
「ヴィオ!」
姉がもう一度やや苛立ちを交えた声で呼んできたから、ヴィオは慌てて家までの畦道を駆けあがった。
リアが朝から張り切っているのには理由があった。半年ぶりに従兄のカイが里に帰ってくるのだ。
ヴィオより2つ年上のリアももうすぐ19歳になる。長い間国内の基地を転々としていたカイがついに中央勤務になるのを機に、結婚の申し入れをしに来てくれるのではと期待しているのだ。
2人は恋人同士ではないが、子どもの頃から親族の中で一番年の近い従兄弟同士であるし、結婚して今後里を盛り立てていって欲しいという期待の声も周りからも多かった。
特に里に残って結婚したカイの姉と母はリアを実の娘や妹のように可愛がってきてくれているのでずっとそれを切望している。そしてまたリア自身も、幼い頃からカイのことを好いているのでなんの問題もないようにみえた。
一つだけ気がかりがあるとすれば、カイはすでにアルファである判定を受けているが、リアはバース性が不明なままだということだろうか。
リアは里で育ち出かけても近隣の小さな町まで、身体も至って健康で大きな病院にかかったこともない。そのため未だにバース性の検査を受けていないのだ。もちろんさらに年下のヴィオもそれは同じだった。
しかしかつて村中の男が憧れたという美貌を誇った、母親似の美女に成長したリアと、立派な若者であるカイは誰が見てもきっとお似合いだろう。
そんなわけでカイが夕方近いバスで帰ってくるというのでリアはカイの母たちと共にもてなす気満々だ。ヴィオも昨日から買い出しなど手伝いに追われていた。
(まあ、僕は力仕事をしたら解放されるだろうから。そうしたら講義録読んで課題をやりたいなあ。お手紙の返事がどうあれ、勉強は続けていないと)
ヴィオにはヴィオの日々の暮らしのルーチンがある。集会所にご馳走を運ばされながらも頭の中はやりたいことでいっぱいだ。
自室で本を読み、中央から取り寄せた学校の講義録に目を通して提出用のレポートを書きあげたい。本当は中央でさらに学びを深めたいのだ。
木々の梢の間から光が零れ落ち、ヴィオは目を細めた。夏が近い空は雲が風に流され形を次々に変えていく。
(もっと勉強して、先生の傍に行きたい。そして先生のお役に立ちたいんだ)
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