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13 再会編 里の変化 2

 5年前。  セラフィンがこの場所を訪れた直後から、里には大きな変化があった。 セラフィンは中央の有力議員の子息で、貴族出身の若者だった。彼が親族に頼み込んで里の現状を陳情した結果、姉曰く『まともな役人』とセラフィンの兄を名乗る人物とが共に現れて、里と街との断絶を取り持ってくれた。  そもそもはただの行き違いから起こった仲たがいであったが、関係が悪化してから月日が経っていたこともあり、始めは上手くいかなかったそうだ。  しかし互いにとって有益な援助が国からの得られるとわかると、徐々に街の代表者たちの態度は軟化してきた。  先生がたった一人の小さな分校しかなく、さらに勉強をしたいものは大きな町までバスで長距離乗って出向かなければならなかった地域に、8.9歳頃から16歳までの子供が通うことのできる学校を新たに作ってもらえることになった。もちろん規模は大都市に比べればごくごく小さなものだったが、教員の数も増えて学校としての体裁が整い機能は十分だった。近隣の街からそれを目当てに少しだけ移り住んでくるものも周囲に増えたので結果的に地域が少し活気づいた。  ヴィオたちの里は隣街の一部に数えられ合併されることにはなったが、裏山とその後ろの元々住んでいた山も含めて、地域一帯を新たに里の一部として街のものにも気兼ねすることなく広げていくことができるようになった。  さらに山を深く分け入り上ったもともと住んでいた地域に戻りたい者がいるならば、そこを開墾しなおすことは構わないと一度は水力発電の工事用地として国に召し上げられていた土地も返還されたのだ。(結果としてこちら側の地域の川を使わず、山の逆側の地域にある川で発電を行う工事が終わったので必要がなくなったからともいえる)  しかし麓の里に根付いて10年以上が立ち、年老いた祖父母世代をつれてまた一から開拓せねばならぬ山里の暮らしに戻ることは困難であり、里のものの大部分は街に近い今の場所に留まる決意を示したのだ。  ドリの里はかつて国が推し進めた無理な水力発電の工事が原因で村の半分が雪崩に埋まるという壊滅的なの被害を受けた。  そのため国からの莫大な保証金を受け続けていて里のものは細々と生きていくには食うに困らなかった。  そのことも街のものから妬まれ、ギクシャクした一因であっただろう。  しかしみな里を再興する遠く遥かな希望よりも、今を楽しく生きていくために何ができるかに次第に意識を向け始めていたのだ。  家族の喪に服して一生終えるにはそれぞれの人生は長すぎたのだ。  隣街の中に新たに伝統的なドリ派の料理を出す店を構えたり、ドリ派特有の文様や釉薬を使った陶芸などの民芸品を売る店を作り、そこに女性たちに伝わってきた手仕事の刺繍小物などの品物も置くことになった。  事故から10年以上たち、新しい生き方を模索している人々は、いつまでも過去に囚われていることを良しとしなかったのだ。  ヴィオの父親は里の皆の意志を汲み、皆の行く末を考えて、彼自身の悲願だった先祖の土地には戻らぬ決断を下した。  アガはそれから中央からお仕着せられた家の他に、もっと山の中に分け入ったあたりに伝統的な暮らしぶりができる家を建てるという目標を立て、一人手作業で少しずつ家を作り始めた。今まで寒々しいほどあえてものを置いてこなかった里の家の中にもドリや妻の出身のソートの伝統的な焼き物や織物を飾るようになり、ついに腹をくくってここを新たな里として充実されていこうという決意がそこには十二分に感じられた。  まだ幼かったヴィオがそのことを理解するには随分と時間がかかったが簡単にまとめるとこんな感じだった。なによりヴィオを喜ばせたのは、街の子どもたち共に学校に通うことができるようになったことだった。

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