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《青天の霹靂》3

 いま実際に、雪成には目の前の男のことしか頭にない状態であった。外部の音も遮断され、男の息遣いしか聞こえない。  もっと男を感じたい。感じさせて欲しいと、全神経が男に夢中となる。 ──欲しい。  強い欲求が、抗い難い欲求が、下腹部に一層熱をこもらせていく。  お互いの荒い息が、熱い目が、まるで発情し合っているかのようだった。 「お……まえ、一体……なんなんだ?」  男は今にもキスが出来そうな程の近さで、呻くように雪成へと問う。 「しら……ねぇ……」  雪成は何とか声を絞り出しながら、男の若干薄めでハリのあるセクシーな唇を熱く見つめた。  この唇に貪りつきたい。貪られたい。それは男の方も同じのようで、雪成の唇を見つめながら更に顔を近づけてきた。 「会長!」  もう少しで触れ合うという時に、雪成は男から強引に引き離される。二人がかりで雪成は押さえ込まれて、身動きが取れなくなってしまう。 「はな……せっ!」  毛を逆立てた猫のように、雪成は中西と麻野に怒鳴りつける。 「会長っ」 「……もう……いかねぇ……から」  いま誰かに身体に触れられるのは嫌悪しかなかった。自分に触れないで欲しい。何人たりとも。そう、あの男以外は。 「申し訳ございません会長、ですが今は離すことは出来ません」  中西の言葉を理解する理性が働きつつも、雪成の本能がどうしても男を求めてしまっている。  ずっと雪成を見ていた男は、目が合うと無理やり雪成から視線を剥がして、頭と背中を壁に預けた。  その下腹部は雪成に欲情している証を示している。非常に大きな盛り上がり具合に、雪成の身体のある一部分が反応する。 「……っ」  ジュクっと濡れる感触に雪成は戸惑った。これは明らかに今までにない反応だ。もしかして〝発情(ヒート)〟なのかと雪成はパニックに陥りそうになる。 「オーナー、具合はどうですか? なんだか外が騒がしい……え?」  中からスタッフらしき男が扉から顔を出してきたが、外の様子に驚き、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回す。それはそうだろう、一人の男が二人の男に拘束され、オーナーと呼ばれた男は脱力したように壁に背を預けていれば、何かがあったのかは一目瞭然だ。  雪成は自身を落ち着かせようと大きく息を吐く。それは、不意に湧き上がってきた違和感を強く感じたからだ。 「松山」  雪成は自分の後ろにいるであろう松山に声を掛けた。すると直ぐに真後ろから返事がくる。 「お前、確かアルファだったな?」 「は、はい」  不安そうな声だが、我を失っている空気は感じられない。雪成は徐々に熱が冷めていくのを感じながら、拘束している二人に離すよう命じた。  麻野は雪成の空気を感じ取ったのか、素早く雪成から手を離す。中西はまだ心配そうにしているが、雪成の命令に従い、体を支えるだけに留めた。 「麻野はベータだが、二人とも俺から何か感じたか?」 「い、いえ、何も……。いま何が起きたのか、把握するのに精一杯ですが」  松山の返答に、麻野も同意のようで頷いている。 「そうか……」  雪成はそう呟きながら、男を見た。男も徐々に熱が引いているようで、気だるげながらも壁から背中を離して、バーテンダーユニホームの身なりを整えている。  改めて男を見ると、とんでもない程に上等な男であることが分かった。男という逞しさの中に、色情を駆り立てられるような色気がある。  目は切れ長で鋭さがありつつも、甘さもあった。かなりの美男と言えた。

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