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《kingdom》3
ここへ向かう前に、雪成は谷原に連絡を入れ、アルファ用のキツめの抑制剤を用意してもらっていた。真っ昼間から医院に訪れるのは気が引けたが、細心の注意を払い、誰にも見られないよう裏手へと回って、受け取ってきたのだ。
ローズルームの扉を開けると、ゼロとイチの目が血走って恐ろしい形相となっていた。今にも飛びかかってきそうな程の強烈な圧を感じる。
雪成は部屋に入ると直ぐに扉を閉めて施錠した。一緒についてきた宮城とロクに、先ずゼロの身体を押さえるよう命じた。
「ゼロ、抑制剤だ。少しキツイがすぐに楽になる」
「う……すみ……ませ……」
筋肉注射のため、雪成はゼロの袖を捲って、直ぐに針を刺して薬剤を注入した。
「ほら、次はイチ」
「は……い」
二人とも暴れる気配はないが、相当苦しんだようでお互いの腕や手などには、生々しい傷が沢山付いていた。
「祐希、二人を手当てしてやれ。二人が落ち着いたら俺はリリールームに向かう」
「はい!」
宮城は直ぐに動き、部屋から出て行った。
「大変だったな。こんな目に遭わせて申し訳なかった」
雪成は三人に頭を下げた。
「なんで新堂さんが頭を下げるんですか。誰も悪くないです」
ロクが大きな身体を丸めて言う言葉に、ゼロとイチも荒い息の中頷いた。
〝誰も悪くない〟その言葉に雪成は、やっぱり素晴らしいキャストだなと嬉しくなった。オメガを責めない優しい心だと。だから雪成も安心して店を任せる事が出来るのだ。
「今回の騒ぎは内々で収まってるので、外には漏れていないと思われます」
「そうか。お前らの賢明な判断と、迅速な対応のお陰だな」
雪成は改めて労いの言葉をかけた。確かに店外に騒ぎが伝染している気配はなかった。客も口外する者はいないと信じている。彼らもここが無くなれば一番困るだろうから。
だがあまり軽視は出来ないため、雪成はなるべく早くここから出なければならない。
ゼロとイチも五分も経てば、落ち着きを見せたため、雪成は一人、リリールームを目指した。
kingdomには部屋が十部屋あり、全て花の名前になっている。入口入ると直ぐに受付カウンターがあるのだが、中はもちろん見えない設計になっている。
受付を通ると、先程客がいた待合室がある。そこで客は指名したキャストが迎えに来るのを待っている。
部屋は待合室から左右に五部屋ずつに分かれており、リリールームは左手一番奥の部屋だ。
扉を開けると、そこには女の子と見紛うような可愛らしい容姿をした青年が一人いた。まだ二十歳そこそこに見える。
ヒートを起こして辛そうにしながらも、青年は闖入者である雪成を睨んできた。
オメガがオメガのフェロモンには影響されないが、確実にこの部屋の空気は淀みきっている。
雪成にとって、オメガがヒートを起こしているところをまともに見るのは初めてだ。吐精を何度もしているのか、剥き出しの下半身は精液でぐちょぐちょに濡れそぼっていた。
雪成は部屋に添え付けているタオルを籠から何枚か引ったくると、青年の下腹部に押し付ける。
「拭け」
青年は首を振り、真っ赤に火照った顔で突然雪成に縋りついてきた。
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