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《kingdom》2

 後は持ち物検査もしている。問題のオメガがどのように隠し持っていたのかは分からない。目的も分からない。とにかく今は急ぐのみだ。 「麻野、警察が来たら直ぐに連絡しろ」 「はい!」  足止めももちろんその意味に含まれる。雪成は車から降りると、店の外で待機していた宮城の元へ向かう。 「新堂さん!」  宮城は新堂の姿を発見するなり、泣きそうなほどに表情を歪めながら、雪成の元へと駆け寄ってきた。 「祐希悪い、待たせたな」  雪成は宮城を労うように、背中を柔く叩くと一緒に中へと入った。 「新堂さん!!」  中の待合室に、キャストが七人と、客が五人、身を寄せ合っている。みな一様に困惑の表情だ。 「お前ら大丈夫か?」 「はい、ここにいるオレらはみんな抑制剤が効いているので大丈夫です。ただゼロとイチが抑制剤が効かなかったので、ローズルームに閉じ込めています。そして例のお客様ですが、リリールームにいらっしゃいます」  キャストの中で、一番大柄であるロクという源氏名の青年が、テキパキと答える。 「そうか、適切な判断だ。よくやった」  雪成はロクの背中も労いのために撫でる。そして雪成は待合室で固まる客に向かって頭を下げた。 「今回の騒ぎに巻き込んでしまい、大変申し訳ございません。いま来店下さってる皆様には、次回の無料クーポンをお渡しします。本日はまたこの後、騒がしくなる恐れがあるので、安全面を考えてお帰り頂きますよう……」 「新堂さん、かたい~」 「そうですよぉ」  客の一人が雪成の言葉を遮るようにして、その態度の硬さに文句を言う。その顔はみな、雪成の顔を見て安堵した表情に変わっていた。 「硬かったか?」  雪成がいつもの態度へと変えると、キャストや客が皆一同に笑い声を上げる。  ここへ訪れるオメガは皆、ほぼ常連客で、新顔などはその連れや紹介だったりする。  そのため雪成がヤクザであること、そして陰の経営者であることも知っている者が殆どだ。雪成がオメガという事もあり、客はkingdomを信頼して訪れてくれている事が大きい。  営業中に店を訪れることはあまり出来ないが、週に一度は顔を出すようにしている。よって、常連客とは顔を合わすことが多くなり、自然と言葉も交わすことが多くなったのだ。  雪成にとっては、本当に大事な大事な客だ。メンタルケアもしっかりとしなければならない。 「だけど、みんな本当に大丈夫か?」  店の中でオメガがヒートを起こしたなど、皆が皆冷静でいる事など出来ないだろう。雪成は客一人一人の顔色や表情を見ていく。 「新堂さん、ここにいる客はみんな大丈夫だよ。ただ今日来た客の子は初めて見る顔だけど、ここのルールを知らないなんて事は絶対ないはず。受付でもしっかり対応してるんだから。だからなんか嫌な感じなんだよね」  一人がそう発言すると、みんな同意見なのか頷いて見せた。客の意見を真摯に受け止めた雪成は、今日はとりあえず、ここは引き取ってもらった。後のケアはキャストの仕事だ。  そして雪成は先ずローズルームへ向かった。

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