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《乱される》8

「運命の番とやらも、正直俺の中ではどうでもいい事だ。そもそもが生まれてこの方、ラットを起こした事がなかったからな。考えたこともなかった。それがお前と出会って、体に異変が起きて、驚いたってもんじゃなかったな。あれが発情だと初めは分からなかったくらいだ」  初めて出会った時の和泉の様子が、雪成の中で鮮明に思い出される。あの時はお互いに強く惹かれ合う中で、大きな戸惑いがあった。今思うと、和泉の戸惑いが初ラットだった為だと思うと納得出来る。 「俺も似たようなもんだ。ただオメガは後ろが濡れるからな。それで自分が発情してるんじゃないのかって、かなり焦った」  発情だの濡れるだの、恥じらいもなく二人は語らう。とは言っても、恥じらうような歳でも性格でもないが。 「これを見る限りでは確かに俺らの状態と似ているというか、まんま当てはまるが、この先のことまで一緒とは限らないだろ? この、想いが通じ合ってからってのが、どうも主観的すぎてな……」  和泉の言うことは良く分かると雪成も頷く。たった一例しかないせいもあるが、想いが通じ合ったから、お互いの発情が抑えられない程のものになるというのは、確かに主観的だ。お互いの気持ちが盛り上がっていたせいもあるのではと見てしまう。  だがそれもローガンとノアがお互いにそう感じ合ったことであるため、雪成は頭から否定するつもりはない。  雪成と和泉もこの先ローガンらのようになるとは限らない。ただ雪成が願うのは、ヒートを起こすのであれば、それは和泉だけであって欲しいということだ。それならば、稼業にもさほど大きな影響はないからだ。 「実際、俺らがローガンらと全く同じように行くかは分からない。ただ俺らの状態に似た例があったってことを、この谷原さんが見つけてくれたんだよ」  雪成に紹介された谷原は、和泉へと頭を軽く下げる。 「私は医者をしておりますが、研究者ではないので、二人の事にはこちらから干渉することはないので、ご安心ください」  谷原は和泉が一番気掛かりであろう事を口にする。すると僅かだが、和泉の身体から力が抜けたのが分かった。  和泉が一体何者なのか、雪成にもはっきりとは分からない。だが恐らく和泉は表で見せている顔とは別の顔を持っている。それは確信している。  今は無理に聞き出そうとしても、簡単には口を割ることはないだろう。ヤクザが調べても出てこない情報など、かなり厳重な世界に身を置いているに違いないからだ。 「それを聞いて安心しました。モルモット扱いされるのは勘弁ですからね」  和泉は軽い調子でそう口にするが、それに繋がる和泉の意思は、恐らく谷原にも感じているだろう。  谷原と和泉は初対面で、雪成も谷原には和泉の情報は何も知らせてはいない。今日発情相手を連れて行くとしか伝えていないのだ。  それでも谷原にはやはり和泉から何か感じたようで、先に干渉しない事を伝えたのだろう。さすがは菱本と付き合いが長いだけあると、雪成は一人感心した。

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