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《乱される》9

「でも今日こうして可能性というものを知ることが出来て、良かったと思ってる。知らなかったらずっとモヤモヤしていただろうしな。それもこれも雪がグイグイきたからか?」  和泉が少しニヤついた顔で言うため、雪成はスっと目を細めた。 「そう言うが、三回目に会いに来たのは龍だからな?」 「そうだったか?」 「そうだ」  その時に気になる一言を聞かせて帰ったのは誰だと、内心で雪成が抗議をしていると、不意に谷原が笑った。 「仲が良いな」  その言葉に二人は途端に口を噤む。  この歳になっても、第三者から〝仲が良い〟と言われるのは妙に居心地が悪いものがあった。和泉も同じ気持ちなのか、苦笑いを浮かべている。  仲が良いは別として、和泉には気安さを感じている。そもそも雪成には友人と呼べる人間がいない。ヤクザ組織の中で友人などいるわけがないし、堅気にもいない。物心がついた頃から、人間と深い関わりを持ったことがないし、雪成に一人の人間として関わってくる人間もいなかった。  和泉とは出会いが特殊という事もあるが、関わらなければいいのに、自ら関わりに行っている。 (龍が色々と謎すぎるから、これからも見張ってないとだしな)  誰が聞いているわけでもないのに、雪成は内心で弁解していた。そこでふと気になっていた事を思い出す。 「そう言えば谷原さん、実はこの間ヒートを起こした時に抑制剤を飲んだんだが、全く効かなかったんだよな」 「え? 抑制剤が?」  谷原が驚く中で、和泉も驚いたように雪成の顔を覗き込む。 「そう。効くどころか、龍が近くにいたせいで益々体が熱くなっていったからな……。もしかしたら俺らの発情は特殊だから、通常の抑制剤が効かないのかもな」 「そうかもしれないが、オレからは確かな事は言えないな……」 「そうだよな」  それは当然のことだ。こんな例は今までに一度もない事なのだから、谷原に分かるわけがない。それでも雪成は自分の状態はしっかりと伝えておきたかったのだ。 「抑制剤が効かなくても、今のところ俺以外の人間には全く影響ないなら必要ないだろ。俺と会う時だって五、六分我慢すればいいだけだし」 「簡単に言ってくれるな。確かにアンタだけなら抑制剤は必要ないが、もしかしたらってこともあるだろ。俺はこの世界にいる限りは、奴らの前でヒートなんぞ起こしたくねぇんだよ」  アルファにはオメガの気持ちなど分からない。特にヤクザである雪成にとって、オメガというだけでアルファの幹部には蔑まれるという弱点を持っている。それを奴らの前でヒートを起こして誘惑してしまうなど、死んだ方がマシとさえ思える。 「悪かった。考え無しの発言だった」  和泉が雪成に身体を向けて、深く頭を下げる。まさかの行為に雪成は驚きすぎて、一瞬言葉が出てこなかった。

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