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《乱される》20
ヤクザとして動くのか、それとも自分の感情を優先してしまうのか。
和泉の傍にいると、雪成は自分がヤクザだということを脇に置きすぎている。こうして離れて一人になると、まだまともな思考になれるが、顔を見てしまうとどうしても和泉の事しか目に入らなくなってしまっていた。
雪成は閉じていた目をゆっくりと開ける。そして長い息を吐き、気持ちを切り替えるとバスタブから出て、頭と身体を一気に洗っていった。
突然後ろから襲われる。ということもなく、三十分程経った頃に雪成はバスルームから出る。
和泉は一人でベッドに横になりながら、テレビを見ている。誰かがいる気配はない。分かってはいる事でも、和泉がいることに雪成はホッとしていた。
そして三十分ほど和泉の姿を見なかったせいか、和泉の姿を見ると僅かな熱が上がり、鼓動も速くなっていく。
和泉が雪成に気付くと、少し眉を寄せる仕草を見せる。
「なんだか、身体が少し熱く感じるな。だが、俺の店で感じた程ではないな」
「あぁ」
和泉もやはり雪成同様少し身体が熱いようだ。それなら三十分以上離れると、またお互いに強い発情を起こす確率が高いという事だ。
「龍」
一向にその場から動かない上に、硬い表情を見せる雪成に、和泉は訝しげに眉を寄せた。
「どうした、急に改まって」
和泉がベッドから降りて、雪成の傍へ歩いて来ようとしたが、それを雪成は手で制した。
「単刀直入に訊く。俺の命を狙っているのは誰だ」
暫く二人の間に沈黙が落ちる。
「まず先に、俺もシャワー浴びてきていいか?」
「……あぁ」
和泉は雪成の横を通ると、そのままバスローブを脱ぎ捨ててバスルームへと入っていった。
雪成は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、一気に飲み干す。そしてそのまま仰向けでベッドへと倒れ込んだ。
「……答える気があるのか?」
目線だけバスルームに向け、シャワーの音を聞く。あの位置から外へ出る事は不可能なため、逃げる事はなさそうだと雪成は安堵する。
十五分ほど経ったとき、和泉がバスローブ姿で頭をタオルで拭きながら、雪成の元へやって来る。そして自然な流れで雪成の隣へとベッドに腰を降ろした。
「待たせたな」
「いや……」
はっきり言って、先程の勢いを削がれて気持ちも落ち着くかと思った雪成だったが、和泉の姿を見ればやはり僅かな緊張が高まっていく。
「依頼者が訊きたい? それとも実行する人間か?」
腕と脚が触れるほどの近さ。和泉はいつも雪成との距離感がおかしすぎる。これは恋人の距離感だぞと言いたかった雪成だが、今の空気を壊したくないため、黙っている事にした。
和泉がちゃんと雪成の質問に答える気でいるのだ。こんなチャンスは逃せない。
「どっちも。ただ、依頼者は何となく分かってる。恐らくアイツだろう……」
雪成は誰が聞いているわけでもないのに、和泉へ耳打ちをする。
和泉が僅かに驚きを見せつつ頷く。そして、少し心配そうに雪成を見つめてきた。
「やっぱりそうなんだな。まぁでも大丈夫。これはもう俺の天性の才能ってやつで知ってる事だからな。だからこっちもかなり気をつけてる。まぁ、ついに動くのかって気がしないでもないがな」
「なるほど、天性の才能か。面白いな」
「そうだろ?」
和泉が笑って頷く。雪成はベッドから腰を上げると、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。
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