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《乱される》22

「だからここへ来る前に言っただろ? アンタのことは全面的に信用してねぇって。殺るならさっさと今殺ればいいだろ。本当はいま死ぬわけにはいかねぇけど、こんな所にのこのことついてきたのは俺だからな、殺られてもしょうがないって思ってる」  雪成はベッドの上で両手を広げて無抵抗を示す。そして目を閉じた。  完全に和泉龍成という男に謀られたのならば、ここは腹を括るしかない。  だが親代わりでもあった菱本に、何の恩返しも出来ていないのが悔やまれる。そして組員たちにも。 「それじゃ、遠慮なく頂くよ」  上半身に僅かな重みが加わる。 「……ん」  そして唇には柔らかなものが押しつけられた。口を開けるようにと、和泉の舌が雪成の唇を擽り催促してくる。  雪成が口を僅かに開けると、そこから捩じ込むように舌が差し込まれた。  それは激しいものではなく、柔らかくゆっくりとしたもので、雪成も戸惑うほどのものだった。背中はゾワゾワとして落ち着かない。  長い長い愛撫にやっと満足したのか、和泉はそっと唇を離していく。 「……何してんだよ」 「だから唇を頂いたんだよ」 「寒いぞ……」  雪成がオーバーに両腕を摩って見せると、和泉は口元を緩めて笑う。 「一見諦めたように見せかけてたけど、根底では俺を信用してくれてたのか? いや、違うか。自分を信じていたのもあるのか」 「どうだろうな。マジでここで殺されるなら、自分が本当に愚かだったって事だけだけどな。ま、殺すつもりだったなら、絶好のチャンスを逃したことになるぞ」  そう雪成は口にするが、やはり和泉の言う通りに根底では、自分の勘と、肌で感じる和泉という人間の本質の一部に触れたことが大きいという事もある。  これから殺そうと思う相手に、どうでもいい相手に、普通は優しく触れたりはしない。もし雪成がその立場になれば、それは絶対にしない事だ。  ではなぜ和泉は優しく触れてくるのか。そこがまた分からない事になってくる。 「そうだな。俺ならここまで関わる前に、さっさと殺ってしまうね」  まだ仰向けの状態の雪成の首に、和泉の手が頚部を軽く圧迫するように置かれる。だがその手は直ぐに雪成の上半身を滑っていく。もう少しで下腹部に手が差し掛かるというときに、雪成はそれを阻止するように和泉の手首を掴んだ。 「掘らしてくれるんなら、いいぞ」  雪成がそう言うと、和泉は右眉を少し上げて、肩を竦めた。 「残念」 「龍って意外と手が早いな」  雪成を見下ろす状態だった和泉は、上半身を起こしてから指で雪成の白皙の頬に触れた。 「雪が目の前にいると触れたくなるんだよ。普段他の人間にはそうは思わないけどな」  人に興味が持てないと言っていた和泉だが、もしかしたらこれも、二人の間でだけ発情し合うことが、少しは関係しているのかもしれない。

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