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《緊張》9

「お前は自分自身がオメガである事をマイナスには捉えておらんが、組織全体を見た時にどうしてもそこがネックと感じているようだな。確かに組織内には反発するものがいる。だが本当は皆、焦っておる。それがどういう意味か分かるだろう?」 「……はい」  確かに焦っている人間はいる。だがやはりどこかでオメガがこれ以上の地位に就くことはないと、高を括っている。 「なら、お前のカリスマ性というものをしっかり見せつけ、黙らせる程の(おとこ)になるんだ」  雪成の思いを口にした菱本に頭を深く下げた。  まだまだ先の事で、今の雪成では到底若頭という地位は無理だが、その時までにしっかりと自己啓発に励めという事だ。  後は雪成自身が、二人の期待を裏切らないようにしなければならない。 「ここでお前に断られたら儂も困ったことになる。断らんでくれよ」 「妙なとこで圧を掛けてくるのやめてください。お二人が決された事に関しましては、謹んでお受け致します」  雪成は苦笑いになりながらも、両手を畳につけて、丁寧に頭を下げた。 「そうか、そうか! これで儂の肩の荷も少しは下りたわ」 「組長! 気が早すぎます」  雪成と橋下から素早く突っ込みを入れられた菱本は、豪快に笑い声を上げた。  それから二時間ほど話に花を咲かせ、雪成は菱本邸を後にした。  青道会の事務所に着いた時、見計らったかのように、雪成のスマホが着信を知らせてきた。  画面に表示されている名前を見て、雪成は直ぐに会長室へと引っ込んだ。 「おう」 『出るとは思わなかった』 「じゃあなんで掛けたんだよ」  クスクスと笑う声を聞かせる電話の相手に、雪成はすぐさま突っ込む。 『出なかったら出なかったで着歴残せるだろ』 「分かってるわ。いちいち真面目に答えんなって」 『新堂って関西だっけ? 時々真面目に答えたら怒るよな』  愉しそうに笑う相手は、そう警視正の河東だ。 「関西じゃねぇけど、クソ真面目に答えられるとな、面白くねぇんだよ」 『いやいや、何を期待してねん』 「……さぶ」  下手くそに聞こえる関西弁を喋る河東に、雪成の本音がポロリ。河東は盛大に噴き出した。 『さぶって言うてるけど、一応オレは小学生までは京都に住んでてんで。ドラマのイントネーションは大体がオーバーやねん』 「マジか……」  そう言われるとナチュラルに聞こえる関西弁。現金な脳だと雪成は笑うしかなかった。 「それはそうと何か分かったのか?」 『いや、悪いが奴らの事は全く見えてこない。情報屋でも全く尻尾が掴めないそうだ。こちらから依頼を持ちかけても、向こうは全く反応しなかったようだからな。お手上げ状態だ』  一体何を基準で依頼を受けているのか。殺し屋も安易に受けていれば、内偵捜査に引っかかってしまう。だから慎重に仕事を選ぶのは分かるが。

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