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第1話 胸糞の悪い寝顔 < Side 天原

「…ん、あと5分」  何が、あと5分だ。  女に働かせておいて、自分はのうのうと惰眠を貪りやがって。  がばりと捲った布団の中、青年らしい男が下着1枚だけを身につけた格好で、すよすよと寝息を立てていた。  “寒…っ”と零した男は、もそもそと布団を手繰る。  もう少し寝かせろと言いたげに丸まる男に、胸糞の悪さを感じ、無意識にチッと舌を打ち鳴らす。  1週間前の話だ。  俺、天原(あまはら) (なお)の仕事は、金をもらって揉め事を解決する、いわゆる事件屋と呼ばれる裏稼業。  情報網となる幅広い人脈を有する俺は、人探しや素行調査のような探偵紛いのコトもしている。  揉め事の仲介に必要な弁護士資格など持ってはいない。  そこまでの頭も、学費もなかったからだ。  だが、腕っ節には自信があり、それなりに頭の回転は早い方で、天職だと思っている。  大手を振るえるような、…人から褒められるような生き方をしていない自覚はある。  だが、俺はこうして稼ぐしか道はなかった。  その日は、知り合いが経営するキャバクラに呼ばれていた。  周りに舐められないようにと(いか)つい顔ばかりしていた俺は、愛想がなく可愛げがないと言われるコトが多かった。  190近い身長に、チンピラ要素が多い俺の見た目でも、長くなってきている真っ黒な髪を、ざっくりと掻き上げ後ろへと流し、黒色のシャツにジーンズ、その上にトレンチコートを羽織れば、それなりに綺麗な装いを醸すコトはできる。  開店前の店のソファーに身体を沈め、男を待っていた。 「おはよぉ」  出勤してきたキャバ嬢の陽葵(ひまり)が、俺を見つけ小さく手を振った。  客として訪れるコトもある俺は、ここの従業員とは面識がある。 「三崎(みさき)さん? 呼んでこようか?」  問うてくる陽葵に、俺は首を横に振る。 「いや。もう呼んでもらってるから」  大丈夫だという俺に、陽葵は、そっかと笑みを浮かべる。  その頬に、何となく違和を感じた。 「なんかお前…顔、腫れてね?」  きゅっと眉根を寄せる俺に、陽葵は、すっと顔を背けた。 「やだなぁ。気のせいだよ。…じゃ、あたし準備あるから」  俺に背を向け、ひらひらと手を振るった陽葵は、従業員の控え室へと消えていった。

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