“さて、どうしたものか……” 僕はマンションの前に立ち尽くして辺りをキョロキョロ見回した。 今日から隠れ蓑として “留学生” と言うポジションを取っている。 留学先は城之内大学。 僕がプライベートで英才教育を受けたシステムの姉妹校だ。 元々は日本人の教育者によって生み出された育英方式で、 知能指数の高い子を中心に英才教育を行なっている。 僕はこれからこの大学で学生をしながら秘密裏に研究を行なっていく。 マンションの前に立って周りを見回すと、 流石に家族の多い地域か、 サラリーマン風の人が多い。 その波に混じって学生達もかなり行き交っている。 僕も人の波に紛れて同じ方向へと歩き出した。 きっとその先には駅があるはずだ。 昨日はバスでの移動だったので、 電車は今日が初めてだ。 とりあえず、道順は頭の中にインプットしておいた。 少し歩いていくと、 若い男の子達の笑い声が聞こえてきた。 少し先を見ると、 大学生くらいの二人の男の子が一緒に歩いていた。 同じ歩幅で後ろについていくと、 可愛らしい顔をした男の子の方が、 「も〜　年長さんの話はいいから、 駅まで走ろうよ！」 と言ったので、 “しめた！ 年齢的にも僕のカモフラージュにピッタリかも！” そう思って声をかけた。 「スミマセ〜ン、 駅ハ、ドチラデスカ〜？」 ずっと使いたくてウズウズして居た日本語…… 小さい時から、 “彼” に出会う事だけを夢見てきた僕は、 彼の母国語である日本語を学んできた。 でも実践する事は今まで一度も無かった。 きっと僕は日本人のように流暢に話せる。 ずっと彼に日本語で話しかけて居たから。 日本語のネイティブからすると、 少しのイントネーションはあるかもだけど、 “きっと他のアメリカ人と同じような話し方にした方が愛嬌があるだろう” そう思って少し崩した日本語を話すことにした。 所がこの男の子、 初めてアメリカ人と話をするのか、 日本語で話しかけているのに、 緊張しすぎて僕が英語を話していると思ったみたいだ。 なんと言っても彼の返事が、 「英語、ワカリマセ〜ン」 なのだ。 もう一人のカッコイイ彼はそんな彼をやさしそうな瞳で見つめて、 そして揶揄っていた。 “もしかしたらこの二人は……” そう思っていたら、 ヤッパリそうだった。 既に番っていて、 結婚までしているとの事だった。 “ダメだ。 結婚している二人の邪魔はできない！ こっちのカッコイイ彼は適訳だと思ったのに！” 少しがっかりしていると、 「光！　陽向！」 と向こうからやってくる青年がいた。 彼を見た瞬間、 僕に体に衝撃が起こって少し金縛りにあった。 彼はキラキラと輝いていた。 彼の周りだけが輪を掻いたように光っている。 “え？　何? この感覚…… 今まで経験したことがないんだけど…… これって、この子がカモフラージュに適訳だという 僕の野生の感なんだろうか？！” 僕はじーっと彼を見つめた。 “ヤッパリ僕おかしい…… なんでこんなに動悸がするんだろう？！” 僕の心臓はバクバクと今まで似ないように脈打っていた。 少しソワソワと戸惑っていると、 「何だ？　この外人さん、 お前らの知り合い？」 と彼が僕に気付いて急に訪ねた。 僕は頭が真っ白になり、 気がつけば、 「僕、アナタニ、一目惚れシマシタ。 ボク、サム言いマス。 ドウカ、僕ト、ケッコーンシテクダサイ！」 と彼に向かって叫んでいた。