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第10話 おこがましい思い

「今夜の約束忘れるんじゃ無いぞ?」 光が陽向にそう言うと、 陽向はOKサインを出して、 「任しとき!」 そう言って自分の胸を、握りしめた拳でドンと叩いた。 「仁も陽向の事頼むな」 光はそう一言彼らに向かって言うと、 人目も憚らず陽向にキスをした。 僕は真っ赤になってクルッと後ろを振り向いた。 「サムって本当はウブだったんだね〜 初めて会った時はチンチン見せましょか〜? なんて言ってたのに! プフフ」 陽向が笑いながら光に伸ばした手を 名残惜しそうに離した。 “日本人って恥ずかしがり屋じゃ無かったの?!” その言葉だけが頭の中をグルグルと回っていた。 この二人は割と周りが目に入らずに、 自分達だけの世界に入っていくようだ。 仁も慣れたもので、 まるで彼らが普通に息をしているかのような振る舞いだ。 「じゃあ、僕たち行くね! 又後でね、愛してるよ!」 陽向がそう言って仁と人ごみの中に消えていった。 陽向と仁は今日はバイトだそうだ。 陽向は急に今日一限だけ入っていたクラスがキャンセルになり、 仁は今日はクラスが無いそうだ。 だから二人揃ってバイトへ行く事になったと言っていた。 二人はブライダル・インフィニティというブライダル総合会社で働いている。 光と仁の親戚に当たる家族が経営している会社らしい。 光は大きな財閥の御曹司の様だけど、 その番である陽向は、 本当は仕事などしなくても良いのに、 専学を卒業した後はそのブライダル会社に就職が決まっていると言っていた。 いつかは光は財閥を背負っていく立場なのに、 「仕事をするんだったら、 光の助手はしなくても良いの?」 と尋ねたら、 「自分は大きな会社の役員をやるよりは、 大好きな花に囲まれて仕事がしたい」 そう言っていた。 陽向はインフィニティでは ブライダル・フラワー・コーディネートをやっている。 光と結婚するまでは色々とあったらしいけど、 此処は光と再会する前から働いている様だ。 二人の結びつきが羨ましくて背後から光をそっと見上げた。 アメリカのα達はそれは見事な体格をしているけど、 光にしろ、仁にしろ、 アメリカ人よりは華奢ではあるが、 スラっとしたモデル体型は、 目を奪われる様な美しさがある。 その出立で颯爽と歩く姿は皆が振り返ってもおかしくは無い。 案の定そんな光の姿を多くの人が振り返って見ていた。 仁も右に同じだ。 僕は大学で多くの日本人のαを目にするけど、 この二人は抜きん出て目立つ方だと思う。 途端、仁をカモフラージュにする事がおこがましく思えてきた。 “僕は何を勘違いしていたんだろう? 仁はカモフラージュにできる様な存在では無い…… 彼には彼の生活があって、 彼こそ本当の番と出会うべきなのに…… どうしよう? “彼” の事を相談して 一緒に探してもらおうか? などと少しずつ思う様になってきた。 「おい、俺はちょっとコンビニに寄っていくけど、 お前はどうするか?」 光に尋ねられ、ハッと我に返った。 その時グ〜ッとお腹が鳴って、 「ハハハ、じゃあ、お前もコンビニ決まりだな」 光に笑われながらそう言われて、 僕は真っ赤になりながらお腹を押さえて光の後をついて行った。

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