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第25話 やって来た人
「モーニング!」
朝日を浴びた仁がキッチンで、
コーヒーを片手にタブレットをなにやらしかっりと読んでいた。
シャワーをしたばかりなのか、
彼の髪はまだ濡れたままでローブを羽織っている姿は
アメリカで見るどんな映画よりも様になっていた。
“ドキン”
と高鳴る心臓に、
“ちょっと待って、
つい昨日“ジュン”を探してってお願いしたばかりなのに、
何ドキンとしてるの?!”
そう思いながらもう一度、
仁のキッチンに立つ姿をチラッと見てみた。
「スマン、シャワーを借りた。
ローブも使わせてもらってる」
「う、うん、大丈夫だよ!
サイズが合ってよかったよ!」
少し焦って上ずった声に、
仁が僕の方を見て口の角を少し上げた。
その顔に更にノックダウンとまでは来ないけど、
かなり焦るほどには心臓が弾いた。
「あ…… ジ…… 仁って天パなの?
普通はそんなにクルってしてないよね?!」
何か話してないと、
自分の理性が保てなさそうだ。
ずっと小さい頃からジュンが好きなのに、
仁を見るとその思いが覆されそうになる。
“でも何で仁はこんなにキラキラしてるんだろう……”
会ったときから仁の周りに見える光は
僕をいつも困惑させていた。
「ああ、俺の髪だな。
まあ、家でこれが出たのが俺ばかりってのがな……
光の高祖母がフワフワ・クルクルとし髪だったそうだ。
きっと隔世遺伝だろうな。
この濡れた髪を見るたびに、
やっぱり俺達ってDNAをシェアしてるんだなって思うよ。
ぬれたときはこうでも、
乾くとほとんどストレートに戻るんだ」
そう言って仁はクスッと笑った。
“そう言えばジュンもフワフワのクルクルだったな……”
写真の記憶をたどっていると、
「お前もコーヒー飲むか?
それにしてもいい豆使ってるんだな」
不意にそう言われ、
「へッ?」
として仁を見上げた。
「豆だよ。
お前、ちゃんと自分で引いてドリップさせるんだな」
仁がコーヒーメーカーを指でトントンと弾きながら
そう尋ねた。
「ああ、コーヒーだね。
うん、兄さんが大のコーヒー好きでね、
忙しい彼の代わりに僕がいつもコーヒーを入れてたんだよ。
その所為かな?
僕も今では兄さんと同じ舌になっちゃって……」
「そっか、サムには兄貴が居たんだな。
兄貴とは仲良いのか?」
「まあ、悪くは無いけど……
兄さんは凄く優秀だから凄く忙しい人で……
いつもドンくさい僕の尻拭いばかりさせちゃって……」
そう気まずそうに言いながら頭を掻くと、
「お前はドンくさくなんかないよ。
一人でこうやって日本までやって来て
ちゃんとやってるじゃないか。
まあ、危なっかしい所が無いと言えば嘘になるけどな。
なんせ初めて会った時が、
“一目惚れしました、結婚して下さい!”
だからな。
お前、声かけたのが俺達だったから良かったものの、
これがヤバい奴らだったら今頃外国に売られてるかもだぞ?」
そう言って仁が僕のオデコを人差し指で押した。
「エへへ、面目ない。
仁の言う事もごもっともです。
でも本当に声を掛けたのが君らで良かったよ」
テレながらそう言うと、
「なあ、知ってたか?
アメリカから偉い人物が来日したらしいな」
と急に仁が言ったので、
僕はまた
“へッ?”
としたようにして彼を見上げた。
「ほら、この記事見て見ろよ、
知ってるか? この人物。
サイエンスの世界ではかなり著名な人なんだぞ?」
そう言って仁の渡したタブレットには、
“天才科学者トーマス・ディキンズ博士お忍び来日”
とあった。
“兄さん……”
そこにあった写真と名前はまさしく僕の身代わりをしている兄で、
まさか彼まで乗り出してくるとは思わなかった。
その時、
“ピンポーン”
と、インターホンのなる音がした。
僕は仁と目を見合わせると、
インターホンの方に目を向けた。
「待て、俺が出る。
昨日の奴だとは思わないけど、
お前はここで待ってろ」
そう言って仁がインターホンの方へと歩いて行った。
「はい、どちら様?」
仁の声がするのと一緒に、
「お前こそ誰だ?
ここは弟の部屋じゃないのか?」
そう言った声が聞こえてきた。
僕が慌ててインターホンの所へ駆け寄ると、
仁が僕を訝し気に見ながら、
「これ、今タブレットで見た科学者じゃないのか?
もしかして……これがお前の兄貴なのか?」
そう言って、またインターホンに移る人物に目をやった。
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