「コーヒーどうぞ」 そう言って陽向がコーヒーを皆に入れてくれた。 「あ、陽向、ごめんね、こんな事までさせて……」 「ううん、大丈夫だよ！ 僕に出来ることってこれくらいだしね！ でも凄いね〜 世界的科学者にボディーガードが此処に揃うなんて、 まるでスパイ映画みたいだね！ 僕、ちょっとワクワクかも？！」 そう言ってキラキラと目を輝かせる陽向に、 光が肘鉄を食らわせて、 “お前が喋ると話がややこしくなるから, その口は閉じてろ！！ 今はシリアスなところでそんな興奮するところじゃ無いだろ？！“ そう囁いて居るのが聞こえた。 ”え〜　だって…… どんな大変な状況かなんてピンと来ないんだもん…… それよりほら、一人くらいは明るく振る舞わないと！　ね？“ そう言う陽向に光は肩をすくめて僕を見て、 ”ゴメン“ と目配せした。 僕はそんな陽向が羨ましい。 どんな苦境も笑いに変えてしまいそうな性格は、 僕に無いものでハッキリ言って羨ましい。 精一杯頑張って僕が出来るのは、 初めて陽向達と出会った時程度だ。 僕が光に “大丈夫だよ” と手をヒラヒラとすると、 トムが僕の肩をガシッと抱いて目で合図した。 僕がこくりと頷くと、 トムが仁達にカブちゃんの紹介を始めた。 「こいつは俺の幼馴染で名はダンケン・ソーレンセン。 何を隠そうシールズ部隊に所属していた経験がある奴だ。 今は某機関を通してサムのガードをしている……と言っても、 こいつがやってるのは口で他を動かすことなんだが……」 そこまで言ってクスっと笑った後、 「まあ、サムに関しては自分から動いているみたいだがな」 そう言ってトムがニヤニヤとした。 そんな時、 「あの…… 一つ質問いいですか？」 そう言って陽向が右手をシャキッと上げた。 僕はその姿が可笑しくて思わず口元が歪んでしまった。 クスッと小さく笑うと、 「ねえ、何故ダンケンのガードの対象がサムなんですか？ 普通は偉いトムなのでは？ もしかしてそう言った偉い人の家族にも ガードって付くもんなんですか？！」 そう言って陽向が突っ込んできた。 僕がトムの方を見ると、 トムはニコニコとしながら立ち上がると、 陽向の前に立った。 そして彼に目線を合わせると、 陽向の顔をじーっと見つめて、 彼の顎をクイッと上げた。 僕が “あっ” っと思った時には時遅く、 「君は行動の一つ、一つまでもが可愛いな。 光と番を解消して俺の嫁になる気はないか？」 と陽向にアプローチし始めた。 でもそれをカブちゃんが止めてくれたので助かった。 「お前、何、人の嫁にアプローチしてるんだよ。 俺達が此処に来た目的はそんなことじゃ無いだろう？」 カブちゃんのそんな戒めにトムは僕をチラッと見ると、 「お前こそ、なぜこんな半球も回った所にやって来てるんだ？ まあ、誰かさんのためとは言わないが、 お前こそここにいる必要はないだろう？ それに俺は不貞を誘って居るわけでは無い。 堂々と挑んでいるだけだ。 お前の様に会ったこともない誰かさんに遠慮して 何も出来ないでいる腰抜けじゃ無いからな」 そう言ってカブちゃんを挑発していた。 僕は何気なく、 “ふ〜ん、カブちゃんってあんな鉄仮面みたいな顔してるのに 想い人がいるんだ〜 だったら僕なんかに兄バカになる前に その人にアプローチすればいいのに！ 全く、僕の周りって何でこんな ブラコンみたいな変人しかいないんだろう？” などと思っていた。 「あの…… 痴話喧嘩は他所でやってくれないかな？ それよりも、もっと大事なことがあるんじゃ？」 そう口出しした仁に、 「誓って我々の言い合いは痴話喧嘩ではない！ なんでこんな変態なヤツと！」 と同時に息もぴったりに言い放った二人からは 長年付き合って来た信頼と絆が垣間見えた。 でも僕はトムのセリフが出る度に、 ヒヤヒヤとして光の方を チラチラと見ることしかできなかったけど、 光には陽向に対する絶対的な信頼があるのか、 割と冷静にやり取りを聞いていた。 トムはゴホンと一つ咳払いをすると、 「そうだったな、 陽向、君の質問に答えるとすると、 君は大変な秘密を我らと共有する事になるが…… それでもかまわないかね？ もしかすると、君にも危険が付き纏うかもしれないが……」 トムがそう言うと、 「え？　危険って…… どうして？！ サムが何故ガードされてるか知るのって そんなに危険な事なんですか？！」 とトムの脅しに流石の陽向も尻込みをしていた。 でも勘のいい光や仁はもう分かっているようだった。 いや、きっと仁には トムが何かそれらしきことを前もって言っていたに違い無い。 陽向は未だ 「え〜　どうしよう…… 怖いもの見たさで知りたいのは山々なんだけど…… ほんと、どうしよう〜 知りたい〜　でも知りたく無い〜 これから赤ちゃんも欲しいし、 家族に危険が及ぶのは〜」 と独り言の様にブツブツと言っていた。