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第32話 話し合い2

「陽向、悪いが少しお使いを頼めるかな?」 気を利かせて光がそう言った。 「え? お買い物?」 「ああ、せっかくアメリカからのお客様がいらしてるのに、 お昼のものが何も無いだろう? 時差ぼけもあるだろうから、 外食もアレだろうし、 此処は一つ、お前が最近覚えた料理の一つでもご馳走してみては?」 そんな光のお勧めに僕は 自分がもてなしをする立場だと言う事を思い出し、 「そんな! 陽向達もお客様なのに、そんな事までさせたら悪いよ!」 慌ててそう言いかけると、 仁が僕の前の腕を差し伸べてその言葉を遮り、 「陽向、俺からも頼む」 と仁も陽向にお願いをしていた。 そんな二人に応える様に、 「そんなのお安い御用だよ! じゃあ、僕、超特急で行って来るから!」 そう言うと、お財布だけ持ってピュンと 本当に超特急の様に出かけて行った。 そんな姿を見ていたトムが、 「ハハハ、やっぱり嫁にするなら日本人が一番だな」 そう言って陽向の去った玄関の方を見つめていた。 そこに光が割り込んで、 「それじゃあ、何故、貴方がサムの身代わりをして居るのか 話していただけますか?」 とやっぱり分かっていた事を 証明する様に言い放った。 トムは光を見つめると、 トムも彼らが分かっていた事を知って居る様に話し始めた。 「アメリカで世界を賑わしている科学者の本当の名は サミュエル・ディキンズだ。 私はサミュエル・ディキンズの影武者に過ぎない。 全てはサミュエルと彼の研究を守るためだ。 幸い私も化学・工学には長けていてな、 大抵の事には上手く立ち回ることが出来る。 それに身体能力の方も並大抵異常の訓練を積んでいて、 大抵の事には抵抗できる。 ただ……サミュエルが今取り掛かって居る実験は表向きなもので 本当にやってることは言えないが……」 とトムが言いかけた時光が、 「もしかして衛星に関係して居ることですか?」 とズバリと的を得て言い切った。 「どうしてそれを……」 僕はそう尋ねるのが精一杯だった。 「お前の家は大変な資産家だそうだな。 もしかしてお前のうちにもスポンサーとしての話が来た口か?」 そうトムに言われ、 「あ……」 とつぶやくしか僕には出来なかった。 確かにあんな大掛かりな実験には莫大な費用が必要だ。 国費だけでは賄えないのは分かって居る。 だったら何処かから賄うしか無い。 「じゃあ、あの研究の率先者はサムと言うことなんですね?」 と言う問いに、 「率先者というか、 この研究はサムが一人でやって居るものだ。 国の国家機密で秘密裏に行われていたが 何処にでも裏切り者やハッカーはいる。 そうすると、この研究に反対する者も出てくる。 実を言うと、我々も反対派だったのだ。 あんなものができると世界は滅びる。 だが、やらないとサムが消されてしまう。 やらなければ国から追われ、 やれば反対派から追われる。 どの道逃げ場はなかったんだ。 まさかこんな事になるとはな。 単なる大学の個人研究で遊び半分で出した論文だったのにな。 だから我々は表向は国を選んだ」 「表向はって…… じゃあ……」 「国も反対派も信用出来ん。 ただ単に国からは何処に行っても逃げられないから 国を選んだと言うだけだ」 「じゃあ、研究は今も続いてるんですよね? 日本へ来た理由は?」 「サムの勤めていた研究所にスパイが入り込んだと言う情報が入った。 だから国外に逃す事にしたんだ。 で、日本へ来た理由はもうお前達も知るところとなる サムの初恋の君がいる国だからな。 それに日本はこれに関しては国としては中立国だからな」 そう言ってトムがまた仁を意味深な様に見た。 「じゃあ、昨日此処が荒らされたのは……」 「俺たちの狙いでは、まだ奴らはサムがこの研究も張本人だとは知らないと思う。 恐らく弱いものから攻めて中枢に攻め込むみたいな計画なんだろう」 「じゃあ、どちらにしろ、 サムは危ないって事ですよね?」 「だから守りを固めてる。 昨日のも逆に言うと、 泳がせてたって方が早いかな? サムから何も出ないと諦めるからな」 「そう簡単なもんですかね?」 そんな作戦には仁は少し不満がありそうだ。 「まあ、そうキリキリするな。 サムの事は俺が命に変えてでも守る。 だが、お前らも少なからず 片足を突っ込んだかたちになったから身辺には気を付けておく様にな。 お前達のことまで守れるかは分からないからな」 それは僕の心配するところでもあった。 もし彼らになにかあったら、 僕は…… そう思うと心がざわついて生きた心地がしなかった。 仁は僕を見ると、 そんな僕の心情を察してか、 トムの方を真っ直ぐに見ると、 「心配は無用だ。 我々は自分の身は自分で守れる」 そう言い切った。 「ハハ、頼もしいな。 じゃあ、こちらは、お前達が何処までやれるか、 高みの見物とでも行こうか」 と来たので僕はすぐに分かった。 何故トムは彼らには手を出さなかったのか。 僕はキッとトムを睨んだけど、 彼は涼しい顔をして、 「お兄ちゃんは少し仮眠が取りたいんだが、 お前は添い寝をしてくれないのか? お前が嫌だったら陽向が帰って来てから 彼に頼んでもいいんだがな」 そう言うと、僕の肩に腕を回して来た。 僕が仁の方をチラッとみると、 手先で僕を追いやるようにシッシとしたので、 僕は仕方なくトムとベッドルームへと消えて行った。

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