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第33話 友情

「トムが色々とごめんね」 直ぐに寝付いたトムを残して、 僕はベッドルームから出て来た。 「いや、俺たちは全然かまわないが、 もうトムは寝たのか?」 「うん、ずっと今回の事件を追っていて、 ここ数日寝れなかったみたい。 まだ日本に送り込まれた人物は確定してないみたいだけど……」 「お前も大変だな……ってまあ、俺が言っても全然助けにならないよな」 「そんな事ないよ! 日本で友達になってくれただけで、 どんなに心強かったか! でもこれからは仁達にも危険が付き纏うかもしれないのに、 もし君達に何かあったら、 僕は一体どうやって責任を取ったら……」 「俺たちの事は心配いらない。 前にも言っただろ? うちの家系はプライベートのSPを雇う様な家柄だ。 それに俺達も小さい時から護身術を学んでるし、 大抵の事には抵抗できる。 な? 光、そうだよな? お前からも言ってやれよ」 そう言って光の方を見ると、 光はボーッとした様にして何か他の事を考えて居る様だった。 「光? 大丈夫? やっぱり心配だよね?」 心配して声をかける僕の方をハッとした様にして見ると、 「あ、スマン。 意識は別のところに飛んでたわ。 でもちゃんと話は聞いてたぞ。 確かに仁の言う通り、俺達は大丈夫だ。 だが陽向が……」 「そうだよね! やっぱり陽向は心配だよね!」 僕がそう言うと、 「確かにアイツは敵にもシッポを振って付いていきそうだよな」 そう言う仁に、 「いや、それはもっともな事なんだが、 俺の心配はもっと別のところにあって…… 実は……」 そう光が言いかけた時、 「ただいま〜」 と陽向が帰って来た。 「ハ〜 重かった」 そう言ってリビングに入って来た陽向を見た時に、 僕は思わずブハっと笑ってしまった。 仁は仁で、 「お前…… 初めてお前の買い物姿見たけど…… いつの間にそんなオバサン化したんだ?!」 と、確かに大荷物を下げて顔を真っ赤にして “フ〜、フ〜” と息付く陽向はオバサン化と言うよりは、 可愛らしい小動物と言った方が僕にはピンと来た。 陽向は陽向で、 「だってさ〜 僕がお店に着いた時、 丁度朝の買い物セール始めててさ、 トイレットペーパーが198円だよ! これ、紙が柔くて、良いブランドなんだよ?! その辺の硬いワシャワシャしたヤツじゃ無いんだから? それにホラ! このティッシュ! 福引で貰っちゃってさ〜 本当は特賞の温泉が良かったんだけど〜」 そう言いながら、ドサッと荷物を床に下ろすと、 買い物袋をテーブルの乗せて、 「ほら、この卵! お一人様ひとパックまでだったんだけど99円! その辺にいた高校生捕まえて、 ひとパックずつ買ってもらったよ〜 だから全部で3パック! 凄いでしょう!」 僕は思わず吹き出してしまった。 光は光で顔を真っ赤にして、 両手で顔を覆っていた。 仁は仁で、 「お前、資産家の嫁の癖に節約って…… 光、お前食費渡してないのか?」 そう言う仁に慌てて、 「違うんだよ! ちゃんと食費も十分に貰ってるし、 使用限度なしのクレジットカードも 3つ持たせてもらってるんだよ! でもさ〜 ほら、貧乏性って直ぐには治らないんだよ〜 小さい時から身についた習慣って辛いよね〜」 と言う陽向に、 「アホかお前、 なんだその言い訳は! 資産家の嫁だったら資産家の嫁らしくしろよ! お前まさか、般若の様な顔をして、 髪振り乱してバーゲンセールの ワゴンを引っ掻き回してないだろうな?!」 そう言う仁に陽向のそんな姿を思い浮かべて、 僕はまた吹き出してしまった。 簡単にその姿が想像できたからだ。 陽向は陽向で、 「あれ良いよね! ワンコインセールだよ! 中には流れ物のブランド品だってあるんだから! 掘り出し物を見つけた時はホクホクでさ〜 でも君…… 僕にGPSでも付けていたかのような分析だね…… もしかしてストーカー?!」 と目をキラキラとさせて捲し立てる陽向に、 “常習犯だな” と僕は直ぐに思った。 そんな話題を変える様に、 「で? ランチは何を振舞ってくれるんだ?」 そう光が尋ねると、 「そうそう! 今日は卵が大漁だったから デミグラスソースのオムライス!」 総腕を捲りながら陽向が答えた。 そして辺りをキョロキョロとしながら、 「そう言えば、トムとダンケンは? 帰っちゃったの?」 と残念そうな顔をした。 「いや、まだ居るよ。 多分暫くここにステイすると思うけど、 今は時差ボケで仮眠取ってる。 ランチの準備が出来たら起こすよ。 それよりもお手伝いしようか?」 そう尋ねると、 「ダメ、ダメ! お客様はちゃんと座ってて!」 そう言って陽向がお辞儀をした。 「え? え? ちょと待て、 ここはお前の家じゃないぞ?!」 そう言って来た仁に、 「良いの、良いの。 僕はもう半分ここの住人みたいなもんだから、 お昼はこの僕にど〜んと任せて!」 そう言う陽向に、 「頼むから、胃薬の要らないものを食わせてくれよな」 と揶揄って仁が返していた。 “ずっと思ってたけど、この二人って凄く仲がいいんだ…” そんな二人を見た時に、又胸がツキンと痛んだ。 “ん?” と疑問に思ったけど、 「まあ、そう言う事だから、 昼はアイツに任せてくれよ」 そう言う光に気を取られてその疑問は消え去ってしまった。 キッチンでちょこまかと動き始めた陽向を横目にして居ると、 「で? さっき言いかけた陽向の事って何だよ?」 そう仁が光に尋ねたので僕も気になって光の方を向いた。 光はチラッと陽向の方を見ると、 彼が料理に気を取られている事を確認すると小声で 「まだ不確かだから絶対陽向には口外するなよ」 と、念を押した後で、 「もしかしたら陽向、 妊娠しているかもしれない」 と来たから、僕も仁も、大声をあげてしまった。 そんな僕たちに陽向も反応したけど、 「何僕を除け者にして自分達だけで楽しんでるの〜!?」 と一言発しただけで 直ぐに料理に戻って鼻歌を歌い始めた。 「ちょっと、ちょっと、それ、どこ情報? どうしてそう思ったんだ?」 とヒソヒソ話に戻った僕たちに、 「前回のヒートからアイツの匂いが変わったんだよ」 そう言う光に、僕と仁は目を合わせると、 何だか僕の中に花が咲いた様になった。 ドキドキとして、 もし妹がいたら、彼女の妊娠を聞いた時にこんな感じなんだろうか? と言うくらいフワフワ・ワクワクとして、 スクッとソファーから立ち上がると、 「陽向! ヤッパリ僕も何か手伝うよ!」 そう言ってキッチンへと駆けて行った。

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