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第41話 ドラマ・クイーン

“実はさ” と言われ、良かった話の試しが無い。 僕は少しバクバクとする心臓を頭の中で落ち着かせながら 光の話に耳を傾けた。 「実はさ……」 “うん、うん“ そう言って頷くと、 「陽向、ヤッパリ妊娠してるんだけど、 ちょっとやぱいんだ」 “やばい” その言葉にドキンと心臓が高鳴った。 “もしかして流産しかかってる?” そう言った言葉が頭の隅を横切った。 「え……? ヤバいって……」 僕が動揺するのが明に分かった光は慌てて言葉を訂正した。 「いや、すまん、言葉が悪かった。 実は妊娠の経過はすごく順調なんだ」 “そっか、順調なんだ。 良かった〜” 一先ず肩を撫で下ろすと、 「妊娠は今の所順調なんだが…… 実は双子で……」 ときたから、 「えーーー!!!双子?!」 と僕もビックリした。 “でも双子だったら喜びも2倍じゃ?” そう思ったのも束の間で、 「ドクターに言われたんだけど、 男のΩって女性の子宮の構造と違って、 多胎妊娠は難しいみたいなんだ。 本当言うと、妊娠初期に流産する事が多いらしくて……」 「じゃあ……」 僕は言葉が出てこなかった。 「あ、いや、陽向の場合、今は18週目に入ったところで もう妊娠初期は過ぎてるみたいで……」 そうきたので、 「へ?」 と言って陽向の方を見た。 陽向はと言うと、 「何故気付か無かった〜 僕は母親失格だ〜」 とまだ、なんと言うんだろう? 自分に酔った様な感じで泣いている陽向がいて、 僕は少しクスッと笑ってしまった。 「あ、ごめん、ここは笑う時じゃなくて、 真面目な所だよね」 そう言う僕に、 「いや、良いんだ。 これからあいつの事はドラマ・クイーンと呼ぼう」 と光から僕を庇う言葉が出たのでそれがまた可笑しかった。 「いや、ほんと、定期検診にも行かず、 妊娠も気付かず普通にヤンチャに生活してたのに、 胎児たちがスクスクと育っているのは凄いと言われた。 妊娠初期を上手く抜けても、 胎児がうまく育たないことも多々あるみたいなんだが、 陽向の場合は2人とも周期通りの成長で、 これからは早産に気を付ければ大丈夫だろうって……」 そう言う光を横目に僕は陽向に目をやった。 全く陽向には苦笑いしか出てこない。 「本当に大袈裟だよな。 妊娠に気付け無かったのが 自分で凄く受け入れられなかったみたいで、 アレでも自分を戒めてるつもりなんだ」 そう言って光は照れ笑いすると、 「これからΩ専用の総合病院へ行って 転院の手続きをしなくちゃいけないんだ」 そう言って陽向へ手を差し出した。 「病院変わっちゃうの?」 そう尋ねると、 「仕方ないんだ。 出産に備えて、完全な設備のある所が安全らしいんだ。 まあ、幸いなことにドクターの定期出張先でもあるから これからもドクターは変わらないんだけどな」 そう言って陽向をベンチから立ち上がらせると、 「じゃあ、俺たちはこれからそっちに向かうから今日はありがとうな」 そう言って陽向の手を引くと、 「ほら、いつまでも泣いてるんじゃ無い!」 そう陽向に喝を入れてスタスタと歩いて行ってしまった。 その光の後ろ姿はこれから父親になると言う威厳があったけど、 陽向はと言うと、ヨロヨロと歩きながら、 ドアの手前の何も無いところで躓いて転げそうになり、 僕は ”アレが母親に…… 本当に大丈夫なのかな〜“ とこれからやって来る自分の試練も知らずに呑気にそう思いながら クスクスと笑いっていた。

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