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第48話 困惑
僕は人混みの中に消えゆくスティーブの背中を見送った後、
クルッと仁の方を向いた。
仁はもう見えなくなってしまったスティーブの方を見ながら
未だ何かを考えた様にしていた。
仁のその表情に、僕は少しの不安を覚えた。
仁までもがその人混みの中に消え入ってしまいそうで、
自分の足元がグラグラと揺れ付くような錯覚に陥った。
「トムの事は心配だよな」
仁の呼びかけに、
僕は俯いたままコクリと頷いた。
僕はゆっくりと仁の方を見ると、
「ねえ、スティーブの事はどう感じた?」
ドキドキしながらそう尋ねた。
仁は首を捻ると、
もう一度スティーブの消えた方を眺めながら、
「うーん、怪しいって言えば怪しいけど、
そうじゃ無いって言えばそうじゃなさそうだよなぁ……
俺にはお前を頼って来た只の職場の後輩にしかみえないな……
それより、スティーブは用が済めばお前ん家に帰るんだよな?」
とボソリと言った。
そうだ……
もしスティーブが出かけた後、
僕の家で何かが起きているのだったら
スティーブをそのまま家に帰すのは危ないかも知れない……
でも……そうじゃなかったら……
僕は仁に縋り付くと、
「ねえ、スティーブがこのことに関係無かったら危ない?
でも、関係あったら僕が危ない?
僕はどうしたら良い?
このままスティーブをあの家へ帰しても平気なの?!」
と疑問を投げかけた。
仁は暫く考え込んで、
「必ず通じると言われた携帯が通じない……
トムに何かあったのは間違いない。
それは間違いないんだ」
そう言って拳を握りしめた。
僕はゴクリと生唾を飲み込み、
「ねえ…… ずっと気になってたんだけど、
トムはあの時仁に何を言ったの?
その時トムは……今日起こる事を既に仁に伝えていたの?!
今日の事をちゃんと知ってたの?!」
そう半分イライラしながら尋ねると、
仁は首を横に振りながら、
「いや、ハッキリとは分かって無かったと思う。
けど、きっと予感はしてたんじゃ無いかと思う。
それに今思うと……トムはこの事件を起こす張本人を
既に知っている様な口振りでもあったんだ……」
それを聞いた僕は怒りが爆発した。
何でそんな大事な事を……!
僕は仁の胸ぐらを掴むと、
「どうしてそれを僕に教えてくれなかったの?!
そう言う事は張本人である僕に一番に教えるべきでしょう?!
それにトムは僕の大切な兄さんなんだよ!」
八つ当たりの様に仁に投げかけると、
「トムがお前に言わないのは当たり前だろう?!
彼の使命はお前を守る事だぞ!
それにお前はトムに取っても大切な弟なんだ!」
そう強く僕に言った後、
声のトーンを落として、
「いや、実を言うとトムには、
お前には絶対言うな、知られるなって言われたんだ……」
「そんな……」
僕は何も言えなくなってしまった。
確かに僕は役立たずだ。
それに何かあった時は逆にお荷物になってしまう。
「ねえ、トムは連絡が取れなかった場合の後の事を何か言ってた?」
そう尋ねると仁は下を向いて黙った。
「ねえ、トムは何か言ったの?
言ったんだよね?!」
そう言って仁に迫ると、
「実家へ帰す様にって……
サムの他の兄達がその後の事は処理してくれるからって……」
そうボソッと言った。
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