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1-1-1 ある高スペックなおぼっちゃんゲーマーがゲーム世界に転生したらしい

side:ウェルナート 「……またカリスマ君にやられた……」  現在画面には、可愛らしい顔で少しウェーブがかったピンクの髪の男の子が、これまた可愛らしい顔立ちのストレートな金髪を持つ少年とキスをしている映像が映し出されている。  所謂:アダルトBLゲームというやつだ。  別に俺はゲイというわけではない。  知り合いに「世界観が凄い」と薦められたのでこうしてプレイしている。  俺に薦めるだけのことはあって確かに面白い。  今もう既に二人目の攻略に取り掛かっていた。  このゲームはアダルトBL恋愛ファンタジーADVというジャンルで、プレイヤーはヒロインを操作して、攻略対象と結ばれてENDという王道だ。  しかも攻略対象は王子ばかりという、その名も≪ロイヤル・ラブ≫というまんまなタイトル。  攻略は割と簡単で、選択肢を選んでいくだけ……そう、だけのはずが…。  冒頭でつい愚痴ってしまったカリスマ君ことリシェ王子。  この金髪の方の少年のパラメーター設定がカリスマステータスに極振りしてるかの如くに、異常なまでにカリスマ数値が高く、選択肢を2、3間違えると即リシェとEDを迎えてしまう。 そりゃ、これだけカリスマが高くキラキラしてれば誰でも行くだろうって、思わず現実逃避してしまうぐらいには……  あ、ゲームだから現実はこっちか。  とにかくこのカリスマ値のせいで、何度挑戦を試みてもリシェのルートに入ってしまう現状に、軽く頭も抱えたくなるというものだ。  素直に攻略サイトでも見ようかと、ゲームから目を離したところで……。  …瞳を開けると、今の俺の世界が眼前に映し出される。  西洋のパーティー会場だ。  詳しく言うと俺の国の城の会場になる。    俺のここでの名前は『ウェルナート・セイ・ライナック』。  ライナック王国の第一王子。  例の≪ロイヤル・ラブ≫の攻略対象。  水色がかった銀髪を持ち、蒼の瞳のイケメンだ。  偶然なのか、外見が元の世界の俺にかなり似ている。  そして、今前世の日本の記憶が蘇ったところだった。  俺は死んだのか…と他人事のように捉えられるのは、元々の俺が感情が湧かない人間だったからだ。  記憶が蘇ったのは多分、俺の記憶の範囲で前世で最後に見た『リシェ』本人を視界に入れたせいだと思う。  証明は出来ないので、あくまでも多分。  リシェは例の高カリスマ値でキラキラした笑顔+純白の礼服で人に囲まれて談笑中だった。  俺はまだゲームを引き摺っているのか、あのカリスマ値の高さが気になって思わずそのままリシェを観察してしまった…無意識に。  そうすると目が合うのも当然で。  僅か数十秒後にリシェはあのゲームのスチルそのままの可愛い顔に何だか親し気な笑顔浮かべて、俺に近づいて来た。  あれ?攻略キャラ同士の関連性なんてあったっけ?  残念ながら俺はまだ一人目(リシェ)しかクリア出来ていない。  ちなみにプレイ回数なら十はとうに超えていた。  俺は割とポーカーフェイスが得意というか、感情が顔に出にくいので、頭に?を飛ばしていることには気付かれていない、はず。  「初めましてウェルナート王子。私はリシェール・ラー・ルキウスと申します。ルキウス王国の第一王子です。」  リシェは綺麗な礼をしてから顔を上げた。  こう、これぞ本物の王子様って感じ。  これに近いスチル何回も見たな…。  さらさらとした美しい金髪。  髪は短いが耳の横だけ結構長め、大きな瞳は紫色というファンタジックな外見。  それにしても初対面でこんなにフレンドリーになれるのは、元コミュ障の俺には羨まし過ぎる。  そして人懐っこそうな笑顔……。  少し心が持ってかれそうになった。  カリスマパラメーター+美少年フェイス、恐るべし。  …とか考えてないで、俺もしっかりロールプレイに興じる。   俺は無愛想ではあるが空気は読めるゲーマーだ。 「初めましてリシェール王子。ライナック王国第一王子、ウェルナート・セイ・ライナックだ。丁寧な挨拶感謝する。」  確かウェルナートも俺と同じであまり表情のないクール系キャラだったはずだから、あまり笑顔が出来ないけど、こういう対応で大丈夫だろうか。  わずか0.5秒ほど思考していたら、リシェが俺の目を上目遣いで覗き込んでいた。  頬は少し紅潮し、瞳も潤んで……その表情はまずいだろう。  さすがBLアダルト。  俺は生唾を必死に耐えながら「どうかしたか?」とあくまでもクールキャラを演じてリシェの言葉を待つ。 「あの…このたびは疫病を鎮静して下さり有難うございました。」 「気にするな。俺は出来ることをしただけだ。」 「いいえ!我が国は疫病で、両親である国王夫妻が他界したため、第一王子である私が突然国を背負うことになりました。でも疫病を治める手段がない。病は広まる一方で死んでいく人間の数は日に日に増えていく…。どんなに私が頑張ってもどうにか出来ることでもない…。」 リシェは眉尻を下げて悲痛な面持ちで語る。  そう、リシェは15才ながらその小さい肩に国を背負っていたんだった。 「いよいよ絶望するしかないのかと諦めかけたその時でした。ウェルナート様が御自身の魔力で病を根絶してくれたのは。」  屈託のない笑顔がカリスマ効果で眩しいぐらいに…。  ヒロインがすぐ吸引されるわけだ。  リシェがカリスマチートであるように、俺は特殊属性である「光・聖・闇」以外の魔法が使える魔力チートだ。  桁外れな魔力を利用して疫病を消してみた。  何人かこの疫病で悲惨な目に合っていたキャラクターも居る。  特にゲームのせいでリシェに愛着すら湧いていたので、リシェの苦しみが長引かないで欲しいと思ったのも理由の一つ。  今この時点では初対面だが。   ≪ロイヤル・ラブ≫の能力は代々の血筋に左右される。  王族の祖先は神だったとかで、各神の能力が受け継がれる。  出来るだけ血を薄めないようにと近親婚や王族同士の結婚が多い。  恋愛優先にすると、せっかく持ってる能力が薄れてしまう。  俺の場合は先祖が『現在持っていない属性を受け継ぐよう』って狙って婚姻を繰り返してくれたため、このような魔力チートになった…という設定。  ちなみにリシェのカリスマステータスは血筋とは全く関係なく、今回の俺のように偉大な功績を受けた英雄になったりするとカリスマ値が上がる。  それでも現時点で俺よりカリスマが高いリシェは何をやらかしたのか、知りたいところではある。  予想では制作者側の意図というのが正しい気がする。  それでもクソバランスにする意味が全く理解は出来ないのだが。  今はまさに疫病を消し去って世界を救った俺のことを称える祝賀パーティー。  もちろん疫病が無くなった祝いも兼ねている。  当然ながら我が国への来賓客には俺とリシェ以外の攻略対象である他の国の王子達の姿もある。  今現在ヒロインは居ない。  ヒロインは男爵家にこれから引き取られて、国が落ち着いた時点で王子達が入る王国学校に入って来る。  災害や戦争時は悠長に学校に通っている場合ではないので休校。  いよいよ明日から学校が再開するため、その話で盛り上がってる者も多い。  俺もリシェ以外の王子とはクラスメイトなんだが、性格が災いしたせいか、または元々の設定でそうなっているのか、友達が出来なかった。 だからこのフロアに居る王子達とは今日まで話した事が無いため、遠巻きに皆を眺めていたところだった。  ちなみに俺はあのヒロインに興味がないので自分からは何かするつもりはない。  十回越えプレイで選んだ選択肢や、ヒロインの背景があざといというか…。  その内、強制力とかでどうにかなってしまうなら、少しでもあがきたいという気持ちがある。  ゲームでの俺は疫病の治療なんかしてなかったはず…クリア出来てないから断言は出来無いが。  少しだけでもゲームとは違うストーリーに変えられたかと思うと、強制力に打ち勝ったような気すらしてくる。  ヒロインの為のゲームだったから、本編に入ったら避けさせて貰う。  と考えていたところでリシェを視界に入れると、俺にキラキラした眼差しを向けてじっと見ていた。  頬まで紅潮させて……。  お、襲いたい…。 「俺なんか見てどうした?」  死んだと思った表情筋が緩みそうになるのを堪える。 「ウェルナート様には今までお会いした事はな無かったのですが、パーティやお茶会でお噂を聞いていました。魔力の高さは世界一で全属性の魔法が使える方だと。」 「光・闇・聖は使えないがな。」 「それは特殊な属性じゃないですか。私も母が僅かな光の治癒魔法が使えましたが、属性は持ってるのに血が薄まってしまったせいなのか、魔法の発動が全く出来ないのです。だから余計にウェルナート様は凄いなぁって憧れてしまうんです。」  僅かに気恥ずかしそうになりながら想いの丈をリシェは語ってくれた。  悪くないよなこういうの。  他人に憧れて貰える人物が果たして何人いるだろう。  なろうと思ってなれるものじゃないし。  だが…。 「俺のこれは先祖の働きであって、俺自体は何もしていない。」  幻滅させたか?  しかし俺自身の努力では無いのは事実。  力強いと思った英雄が実はウジウジした野郎だと思われてしまったら…。  自分が口に出したのに既に言わなきゃ良かったとすら思ってしまう。  リシェはちょっとだけ下を向いて考える素振りを見せると、次に見上げて来る表情は屈託無い笑顔のままだった。 「素晴らしい血を受け継いだ上世界を救ったのに、それに奢ることなく謙虚なウェルナート様に憧れを抱くなという方が難しいです。それに…」  いったん言葉を切るとリシェは憧れに満ちた笑顔から、ちょっとだけ悪戯味を含ませたような笑みに変えて続きを言う。 「世界を救おうと考えたのは御自分の意志でしょう?やっぱりウェルナート様は私にとって英雄です…。」  再びリシェは憧れの眼差しを俺に向けてくる。  俺は初めて顔に少しだけ笑みを浮かべていた。  ああ、悪くない。  俺の心が満ちていく…。  穏やかなものなのに、『もっと俺だけを見てくれ』『俺以外へも同じ眼差しを向けることの無いように』  と、どす黒い思いが首をもたげてしまう。    しかし攻略対象同士での恋愛って出来るものなのか?  これこそ強制力で修正されてしまう気がする。  身体の自由が利かなくなっても出来る所まで抗ってみたい。  一度は変えられたのだから……。

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