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1-2-4 少年王子は魔力チート王子と婚約する
side:リシェール
騒ぐような声で目覚める。
リシェという言葉が耳に入ったので、意識が少しずつ覚醒してくる。
僕が出した小さな声にウェルナート様が気付き指示してくれたので、シーツを被って待っていた。
ベッドへと戻って来るウェルナート様の説明だと、一度国に戻るように通達が来ているらしくて。
……嫌だな…数か月前のあの状況にまたなってたらどうしよう……。
「俺も一緒に行くから、平気だ。」
そう言われて我に返る。
しょげそうになったのを感じ取られた?
信頼出来る大人が来てくれるのはかなり有難い…でも…。
『ご迷惑掛けるばかりになってしまう』
それだけ告げようとして声を出すが、昨晩叫び過ぎて巧く声が出ない。
言葉が途切れてしまう。
いきなり軽いキスをされる。
昨日散々凄い事をしたのに、キスだけで顔が熱くなる。
「なぁ…交換条件ってわけではないから落ち着いて聞いてくれ。婚約しないか?」
つまり、僕が気にしないように手助けの交換条件に婚約……って、婚約って結婚の約束のあれだよね?
あれ?でも、リシェールは第一王子だから……ウェルナート様も。
済まない面持ちで断ってしまった。
でも断っても手助けには来てくれるみたいだから、そっちはお願いする?
図々しいよね…
何かを言おうと迷う感じで、ウェルナート様が無言で視線を向けて来る。
蜂蜜水を渡されたので飲んでおく。
喉の掠れもだけど、色んな箇所が痛い。
特に……あっちが…。
『リシェール第一王子殿下と婚約したいので、第二王子殿下殿に国を継いで欲しい』
という手紙が国に既に届けられている事実が告げられる。
もう少し蜂蜜水を飲み終えるのが遅かったら吹いていただろう。
それって国に『エッチしました』ってばれてない?
…帰りたくない。
恥ずかしくて涙が滲んでしまう。
ウェルナート様はわざと外堀を埋めてきたのかな?
いやそれならば言うタイミングは今じゃないだろうし…。
申し訳なさそうに謝罪を口にするウェルナート様を見てたら可笑しくなってしまった。
完璧そうなのに抜けてる所もあるんだなって思ったら、噴き出すのを堪えて口を軽く抑える。
こんなに想ってくれてるんだから婚約ぐらいいいんじゃないかな?
結婚とかになったらまた考えればいいって。
選択するのにそんなに考え込まなくていいんじゃないかって、心が軽くなった。
ライナック王国に着いてから出来事はスムーズに円滑に進んでいく。
ご両親陛下にも好意的に受け入れてもらえ、婚約というよりも嫁に来たみたいな…。
僕は婚約式の練習とか、量は大した事が無いので殆ど暇な時間の方が多く、身体をゆっくり休める事が出来た方だと思うのに、用事に忙殺されているウェルナート様が「ゆっくりさせてやれなくて御免」って言うから、実際は忙しくなる事なのかもしれない。
所作とか作法とかはリシェールのお陰で身に付いてるのでどうにかなっているけど、本当は身に付けるの大変なのかも知れない。
式当日、緊張してきた…。
リハーサルとかしたけど、やっぱり自分の立場が変わるのは緊張というか不安が混じる。
風呂に入れられて……王族は人に洗ってもらうのが常識なので(最初は恥ずかしかったけどもう慣れた)、この国でも洗ってもらい終えると衣装を着せられる。
何だか凄いヒラヒラだ。
ズボンだからドレスじゃないけど、腰からのヒラヒラのせいで、王子と言うより神官みたい。
ちょっと気になったのが頭に付けられているヴェール。
『光属性+3』とか書いてあるけど……3ってどれくらいなんだろう…?
試してみたかったけど、着替えに時間が掛かってるから急がないと。
教会の重い扉が兵によって開かれる。
中に入ると、既にウェルナート様は到着していた。
爽やかな青で彩られた衣装は凄く…決まってる。
正に王子様と言った感じで。
歩くだけでヒラヒラが邪魔で歩き辛いのを見て取ってくれたようで、ウェルナート様が駆けつけて手助けしてくれる。
「有難うございます。」
感謝の笑みを向けたら口にキスされてしまう。
「ふっ……ウェルナート…さ…ま…ぁっ!」
「そんな声…っ…出して…煽るな…って。」
違う!もうすぐ国王陛下が来るから、こんな所で駄目だって!と言いたいのに逃げても逃げても唇に阻まれてしまう。
呼気が乱れてしまう。
そこで解放されたけど顔が熱くて涙目になってしまって。
「今晩が楽しみだな。」
低い声で告げながらチュッと涙を吸うように口づけて来るウェルナート様。
恥ずかしいからどうしても目を逸らしてしまう。
ウェルナート様はそんな僕を見てクスッと笑うと、お姫様抱っこで抱き上げて教会前方へ運んでくれた。
ここまでミスも犯さず式を進める事が出来た。
後は国王が認めてくれる宣言をもらい、『互いの胸の薔薇を交換する』だけだった。
『貴方の色に染まります。』って意味なんだって。
その時、突然の爆風で、あんな重そうだった入口の扉が粉微塵になる。
怯えそうになる僕の前にウェルナート様が庇うように立ってくれた。
安心して腰の剣を抜き視界が開けるのをしばし待つ。
そこに居たのは……学園で困ったさんだった彼の姿…ナザリ!?
まさか、ウェルナート様を手に入れに?
彼は僕に対して文句があったらしく、何か色んな事が大声で発せられた。
大半は意味がわからなかったけど。
「リシェールお前転生者だろ!」
その言葉には思わず息を飲んでしまう。
ウェルナート様は前を向いてたから、僕の動揺には気付かなかったんじゃないかと思う。
それよりも、転生者っていうのが今の僕の状態の事だとしたら……ナザリに気付かれた!?
「転生者は俺の方だ、残念だったな!」
絶望の面持ちでいると、いきなりの言葉に今まで一番驚いてしまう。
ウェルナート様が……僕と同じ?
胸がドキドキしてくる…。
だとしたら、僕が選んだ選択は正解?
帰れるかもしれないという思いで胸が高揚する。
最悪でもウェルナート様だけは死なせてはならない!
この状況にキレたナザリが、暴力的な魔力作り出す。
でも、脅威を余り感じない。
くすんだ白い……灰色の魔力…斬れないかな?
手にした剣に光属性を付与する。
よくわからないけど、黒っぽい物なら光で消せるんじゃないのかな?
こちらに向けて魔力塊が放たれる。
どうにか剣で受け止めたはいいけど、斬れない!
足を踏ん張って耐えるけど、勢いの凄さに胸の薔薇が消し飛ぶ。
「ふっ……く…ぅ…!」
崩折れそうになりながら気力で立っている。
体内の属性をもう一度何かに乗せられないかな?
そう考えた時、頭のヴェールが発光した。
押されていた体勢が戻り剣が塊を押し返した。
目を見開く僕とナザリ。
押し返すつもりなんて無かった。
絶叫を上げてナザリは消滅してしまった。
殺してしまった……。
この世界から消されてしまったらどうなるんだろう?
どうしよう、怖い。
泣きそうだ……。
身体が震えてしまう。
不意に伸ばされたウェルナート様の腕が強く抱き締めてくれた。
ウェルナート様と陛下、お二人がお礼を言ってくれた。
『僕がやらなかったら二人やこの場に居る兵士達が死んでいた』って。
僕が人を殺してしまったという事実を軽くしてくれようとしてるんだと思った。
お二人の気遣いを無駄にしたくないから、僕は笑顔を浮かべて見せた。
怖いけど…まだやれる、大丈夫。
ナザリの事は罪として、僕の心の中で背負って行こう。
……消し飛んでしまって茎だけ残った薔薇の花が、少しだけ不安を胸に残していた。
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