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1-4-6 鷹宮涼一
「こちらに戻った俺は全てを思い出した。……柚希はリシェの生まれ変わりだった。だが女神ファルセアに愛されたリシェは、『辛い気持ちが失われるように』と、記憶が消された。アレクシウスに記憶が戻せるわけがなかったんだ…。散々無駄なことをしていたわけだ。」
柚希はじっと考え込みながら俺の話を聞いている。
「涼一さんはどうやって戻って来たんですか?」
「俺は…帝国に乗り込んだ際、『過去の俺』と『今の俺』が出会う矛盾に囚われてしまい、あの世界から強制ログアウトを喰らい、元の世界に戻された。」
「アレク様にやられたんじゃなかったんですね。」
成る程と一つ一つ理解していく柚希。
「柚希があっちの世界に移動したことで、俺は柚希の魂に引かれて向こうに移動してしまったんだ。さすがにアレクシウスの力が強過ぎて、『何の力も持たない今の俺』ではアレクシウスになることは出来ず、一番波長が似ているウェルナートに入ってしまった…。柚希?」
粗方説明を終えたところで柚希に視線を戻すと、柚希は目から涙を床へと降らしていた。
「っ…ごめんなさい、アレク…様…ぁ!」
そう言いながら泣く柚希の瞳は金色で。
「リシェ…なのかっ!?」
「帰りを待つって言ったのに…約束を守れなくて…ごめんなさい!結婚の約束も守れなくて……っ!」
「っ……リシェっ!」
『リシェ』を強く抱き締める。
「泣くなリシェ、もういいんだ、もう!こうして俺の元に戻って来た!それだけで俺は!」
『リシェ』は散々泣いて、涙がようやく止まった時には、柚希は元通り茶色掛かった黒の瞳に戻っていた。
柚希は泣いた時の記憶は無かった…。
『リシェール・ファルセア・シュゼ・ルキウス』としての記憶が一切無く、『リシェール・ラー・ルキウス』として過ごした記憶も断片的にしか覚えていなかった。
光の女神の加護で辛い記憶が封じられたのか、『アレクシウスへの罰』なのか…あるいは両方……。
平気だ。
柚希が居てくれれば、きっと俺は何だって出来る。
アレクシウスの魂が強過ぎて無気力症になっていた俺を人間にしてくれたのは、『リシェ』でも『リシェール』でもなく、『柚希』だったのだから……。
「涼一さん?」
黙ってた俺へ不思議そうに、またあの上目遣いを覗き込ませてくる柚希。
相変わらずの煽り癖を見てしまうと、俺は苦笑を浮かべて背に腕を回す。
柚希は腕の中でもぞもぞ動くと、恥ずかしそうに顔を赤くしてニコリと微笑を浮かべた。
理性がいつまで仕事をしてくれるか不安になる俺だった……。
最後に一つだけ忘れていたがリシェールのカリスマ99は、『殺されるフラグ』への回避をリシェ…柚希へと、柚希の姉さんが付けた柚希への守りだった。
効果が強過ぎて男ホイホイしてしまったらしい…。
あの姉さんは何を知っているんだ?
柚希曰く『あたしも昔悪役令嬢やってたからね!弟に苦労を与えたくないから!』と言われたらしい。
確かに『ウェルナート』としては、何ら接点の無かった『リシェール』に惚れたりしたのは変だとは思った。
まあカリスマなんて無くても『リシェ』にはきっと、何回だって惚れるだろう。
あれ が、全てのきっかけであったのは言うまでもないのだから……。
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