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1部完 芹澤柚希&リシェール・ファルセア・シュゼ・ルキウス
僕が向こうに居たのは一週間程らしい。
あちらでは一年位の時を過ごしたと涼一さんは言ってたけど、詳細が思い出せず断片的だから余計に一週間と聞いて納得してしまった。
色々酷い目に合ったはずなのにその記憶は無いから、トラウマみたいなものは無い。
ただ……嫌な記憶じゃないせいか、涼一さん…『ウェルナート様』との記憶が割と残ってるのが!
滅茶苦茶恥ずかしい!
僕は赤くなった顔を枕に押し付けた。
ちなみにここは涼一さんの部屋で、あのゲーム を見せてくれると言うのでお邪魔していた。
そういえば姉さんには色々聞かせてもらった。
「『カリスマ』って言うか本当は『魅了』なんだけどね!ロイヤル・ラブ3からは『魅了』に変えてあげる!ね、死ななかったでしょ?男ホイホイ?気持ちいいじゃない!みんな周りが惹き付けられていくのよ!」
家を出ようと思った……。
後から聞いた話に驚かされるまでは…。
「ついでにね、女神ファルセアってあたしの事なのよね。」
「!?」
「悪役令嬢転生から女神に昇り詰めてやったわ!」
『見たかあの王子とヒロイン!』とか意味のわからない事を叫んで高笑いする姉さん。
僕の中でファルセア様への信仰心みたいのが失われた気がした。
「で、あたしのせいで多分、あの世界へ繋がっちゃったんだよね。あたしがゲームとしてあの世界を模倣して構築したから。」
ゲームもネットの世界も疎い僕には理解出来なかったけど、涼一さんにそれを告げたらやっぱりすぐに理解していた。
画面には≪ロイヤル・ラブ3≫と表示されているゲーム画面が映し出されている。
何故か1は見るのが却下され、2も「主人公はあのジェイだぞ。」と言われてそれも見るの禁止になってしまった。
ロイヤル・ラブ3を最初から見せてもらう。
この作品は主人公が選択出来て、今までの攻略対象も主人公に選べるそうだ。
涼一さんは『リシェール』を選んで僕にコントローラーを渡して来る。
リシェール視点ではやりづらいらしい…まあそうだよね。
因みに僕の体勢はベッドで横向きに寝かされていて、涼一さんが背後から僕を抱き抱えてプレイ…。
うん、思い切り恥ずかしいけど、顔が見られるよりはいいみたい。
こんな体勢でプレイする。
攻略対象は当然『ウェルナート』のルートで。
プレイしてみて感じる。
『本当のリシェール』を初めて見た。
頑張って演じていた僕と全く違う。
表情なんて全然。
顔はこんなに似てるのに…。
さすがにラブシーン以降は見ていられないので、コントローラーを涼一さんに返した。
「もう一つやって欲しいゲームがある。」
そう言って、姫抱っこで当然のように僕を運ぶ涼一さん。
降ろしてを言うタイミングを逃すと、お手伝いさんとすれ違い、動揺の余り笑顔で会釈してしまった。
他に人が居るなんて知らなかったから!
恥ずかしい!
連れて来られたのは地下室。
巨大な機械がある部屋で。
ベッド?棺?みたいな機械に身体が降ろされると…あ、VRだ!
ワクワクしているとゴーグルやなんかの装置を付けてもらう……。
「柚希の姉さんの会社で開発中の『ロイヤル・ラブ・オンライン』。少々貸して貰った。製品版は買うけどな。」
オンラ…イン?それは喜んでいいのかな?
そしてスタートする……。
目を開くと……。
ここ……あの世界!
僕の姿を見てみると、あの『婚約式の時の衣装』だった。
剣を抜いて顔を映して見ると、僕の顔のままだけど金髪で、瞳の色は『金色』だった。
それに髪には黒い薔薇と白い薔薇が一輪ずつ飾り付けられていた。
「再現率凄いだろう?」
そう言って笑うのは…涼一さん。
黒髪黒目、但し扮装は白い…タキシードみたいな礼服で。
「この先に教会があるんだ。」
それだけ聞かされれば意味は僕でもわかる…。
「現実ではまだ結婚出来ないから……まずはここで結婚してくれないか、柚希?」
「……えと…つ、謹んで…お受けします…?」
「っ…!?」
で合ってるよね?
言い終えると何だか涼一さんの様子がおかしい。
「涼一さん……?」
流石に首を傾げてしまう。
「やっぱり…俺のリシェなんだな…。…悪い…リシェールの方じゃない、アレクシウスの方のリシェが…同じ答えを言ってくれたのを…思い出した…。有難う……。」
今にも泣きそうな涼一さん。
そんなに想ってくれていたのに、僕は……リシェは…思い出せないなんて……。
……アレク様のリシェ…。
全く思い出せないのに僕は涙が止まらない。
「……今度こそ……僕を離さないで…下さい。アレク様…ぁ…。」
僕の知らない記憶が僕の意識に流れ込んで来るのを感じる。
そうしたら自然に言葉が口をついて出ていた。
涼一さんの……アレク様の目が大きく見開かれる。
アレク様の目から涙が幾筋も伝う。
「お帰りなさい、アレク様…!」
「……ただいま、リシェ…!」
抱え上げられると互いに涙まみれの顔で、どちらからともなく唇を重ねていた……。
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