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3-3 総力戦
記憶と力の統合が巧くいった僕は、少し休憩を挟んでから外で姉さんの事を感知していた。
姉さんが居なくなって二日。
僕がこっちに来た時は既に……。
せめてこれ以上酷い事にならないように急がないと。
浮かない顔をみんなに見せないように気持ちを切り替えた。
今日中に動く予定だからみんなには急がなくていいって言ってあったけど、僕が城の中に居なかったからかみんなすぐに来てくれた。
探知の精度を上げようと思って外に出たのがいけなかった。
冥界には特異点から行く。
行った事は無かったけど、今の僕には姉さんの居る場所だから簡単にわかる。
冥界に入ったところですぐに嫌な雰囲気を感じる。
冥界神のオーラ。
目の前に居るわけじゃないのに、ここまで伝わるなんて…。
居城に着くと人影があった。
見覚えがある…。
「逢いに来てくれたのだね、リシェール王子。」
これはリシェールにではなく僕に言ってる。
彼の名はマクシミリアン。
二度に渡って彼には酷い目に合わされた。
リシェールの方も酷い目に……。
僕はかなりイラッとしたけど、こんな所で力を使えるほど余力がない。
身体は人間のものだから、使える力に限界がある。
三人は殺気立ちながらも「またお前か。」という目でマクシミリアンを見ている。
僕もいい加減うんざりしていた。
けど戦力としては今はまずい。
マクシミリアンは死んだと思ってたから、まさか冥界に返されてるなんて…。
「そう殺気立たないで。私は提案をしに来ただけだよ。」
マクシミリアンの視線は常に僕にある。
他の人には手出しはしないだろうし、する必要も無いだろうから、用事は僕にあるんだよね。
アレク様が舌打ちをして、リシェールは完全に隙を窺ってる。
ちなみにこの世界では『リシェ』と『アレク』。
本名を名乗って良い事が無いから。
「姉君を救いに来たのだろう?私は手助けが出来ると思うのだけどね?」
完全に僕以外はシカトしている風な様子のマクシミリアン。
もうここで倒しちゃった方がいいのかな?
でもそれだと、冥界神に対抗出来るだけの力が残せない。
「話だけ聞きます。」
言いなりになる気は無いけど、ここで時間のロスをするぐらいなら、取り敢えず聞くだけならと思った。
ロクな事言わなそうな気がするけど…。
「姉君を返すように冥界神に言うお手伝いをする代わりに、貴方の身柄を戴く。」
「お断りします。」
当然即答した。
しかも答えからして、この人に姉さんの身柄を人質にしたりとかは出来なそうだ。
「残念だ。」
そう言うとマクシミリアンは、強大な魔力を発生させる。
と同時に、薄紫色の長い髪の男が姉さんを伴って現れた。
「―っ!?」
息を飲むリシェール。
姉さんは服こそ着ていたものの、明らかに性的暴力を受けた様子だった。
僕は事前の探知でこの事を知っていたから、どうにか耐えられた。
リシェールが男に飛び掛かりそうだったけど、陽太さんが押さえてくれていた。
僕はいつでも作戦通りにするために、リシェールと手を繋ぐ。
「面白い、光神か。殆んど覚醒してるじゃないか。」
姉さんは俯いていて反応はわからないけど、拘束はされてない。
最悪…姉さんを見捨てる事になっても、三人を危険にはさせないと、僕の中で結論が出ていた。
姉さんもそう望むだろうから。
けど…僕一人なら…。
「姉と引き換えになるか?」
そう言われる気がした。
現状僕の方が光の力が採れるんだから。
「その要求は却下だな!」
アレク様が何重にも光以外の全属性を展開してマクシミリアンにぶつける。
前と違うのは、僕の肩に手を置いて、僕の魔力を吸って利用しながらの魔力をぶつけている。
マクシミリアンは押されこそしないが優勢でもない。
すぐに僕はみんなに光の結界を張って、リシェールに僕の魔力を流す。
リシェールは属性強化を使いながらずっと自分に光の付与を掛ける。
要はリシェールを媒体にして僕の力を上げ続ける。
その負担を、陽太さんが属性強化しながらリシェールに治癒魔法をし続けることで和らがせる。
本当は治癒魔法なら陽太さんよりリシェールの方が上なんだけど、陽太さんの魔力が低いため、媒体には出来ない。
これで準備完了だったはずなんだけど、アレク様の戦力が裂かれたのは痛い…。
しかもアレク様に少しずつ魔力を流してるから全力と言えない状態。
でも、やるしかない!
自分の中から光の魔力を集めつつ、リシェールからも流してもらって、自分で今出来る可能な限りの魔力を集めた。
「ほぅ、やる気か。」
冥界神が余裕そうなので、多分勝てない……でももう手段が無い!
そう考えて冥界神に僕の魔力をぶつける。
向こうも魔力を放ってきたので魔力で受け止める。
何とか受け止めるけど、押されてる!
力を込めて押し返そうとしたその時。
「…っく…!」
リシェールが血を吐いた…限界なんだ。
でも今更引っ込めたら…。
動揺して集中出来なくなりそうになったけど、アレク様が肩に置いた手に力を入れて留めてくれた。
自分も目一杯なのに…。
「何やってるの!あたしに力を寄越して!」
姉さんからの急な声。
でも殆ど覚醒してる僕でさえ駄目なのに、姉さんじゃ死んでしまうんじゃ…。
「今のあたしなら大丈夫だから、信じて!」
冥界神も姉さんの声は聞こえてるけど、僕の力に集中しているから姉さんにどうすることも出来ないようだった。
「芹澤柚希は美月=シェイネスに光を譲渡します!」
どうにか拮抗していた自分の魔力を消して、リシェールの手を離し、アレク様が僕から手を離したのを確認すると、向かって来る冥界神の魔力塊をかわしてから、姉さんの言う通りに力を託す。
「っ…あっ…!?」
しまった……もう一発撃ってくるなんて…。
光を失っている僕は冥界神の攻撃をまともにお腹に喰らってしまった。
血の量が半端ない…。
その場に倒れてしまう。
「柚希っっ!!」
アレク様が攻撃を中断してしまう。
と思ったらマクシミリアンも僕の怪我に動揺していた……結構いい人だったんだ…。
リシェールが自分と僕に治癒魔法を掛けて、陽太さんも僕を優先してくれた。
「…よくもっ、弟に!!」
光を受け取った姉さんが光り輝いている。
同時に姉さんのお腹が光ってる…。
そっか、赤ちゃんが受け止めてくれたから…。
義兄さんとの子供なら光の属性も強いよね。
しかも双子らしいから…。
姉さんが冥界神の核へ全力を放って冥界神を消し去った。
姉さんが駆け寄って『完全治癒』を掛けてくれた。
同時に光を僕に返してくれる。
だいぶ楽になったけど、流れた血の分くらくらする。
その時リシェールがマクシミリアンの心臓部分にレイピアを突き刺した。
「サフィの仇…っ!」
冥界神が死んだ今、マクシミリアンは借りた神の力を失っているはず。
「リシェール王子…いや、今は柚希というのか…。私は何度でも蘇って貴方を……。」
やだやだ!フラグ立てないで!
アレク様が速攻でマクシミリアンだった死体を闇魔法で消していた。
姉さんの無事を確認しなきゃいけなかったのに、そのまま視界が真っ暗になってしまった……。
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