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EX11 過去に残していた事を
side:リシェール
柚希が落ち込んでしまった…。
どう慰めたらと迷い狼狽えていると、厄介な人間が帰って来てしまった……。
咄嗟に柚希は笑顔を作ったが、人の心が読めるのではないかと疑う程に察する涼一が気付かない筈が無かった。
「…柚希、誰に苛められた?」
殺気が見える。
「ち、違うの。その、体育でダンスが上手く出来なくて…。」
「大丈夫だ。体育教師の弱味を私は握っていたから、ちゃんと出来た事にさせた。」
「よくやったリシェール、いい子だ!」
私の頭をガシガシ撫でて来る、ウザい。
「子ではない!」
手をはたき落とす私を適当にいなす涼一。
「何で僕は踊れないんだろうなって。」
「…柚希を落ち込ませるとは……体育教師だったな。クビを挿げ替えて……。」
「平気!大丈夫だからやめてぇっ。」
「でも、柚希はダンス踊れると思うぞ?」
「え?」」
柚希と一緒に首を傾げてしまう。
正直柚希にダンスは無理だろうと思う有り様だったのだから。
「あっちの世界に行くぞ。」
言うと涼一は柚希をお姫様抱っこして、足早に急ぐ。
「あっ、ちょっと待って!降ろしてぇ!」
部屋から廊下、外を暫く歩いて涼一の家との間、柚希は見世物になった。
止めたかったが涼一の走るスピードが速くて話しかける余裕は無かった。
「あれ、珍しいねー、随分早くこっち来たね?」
「残念だが陽太に会いに来たわけじゃない。」
「涼一ひでぇっ!」
「リシェール、ダンスホール借りれるか?」
「好きに使えばいい。」
本当に柚希を踊らせる気なのか…?
ダンスホールに入ると涼一は音楽を掛けるように陽太に指示を出す。
ん?ワルツ?
涼一は柚希を降ろすと柚希の手を取る。
自然に、柚希は涼一と踊っていた…成程。
「柚希……リシェは王子だったんだから踊りの勉強はしてたと思った。」
「そっか……僕踊れたんだ…。」
「これが出来るならほんの少し速度が上がっても、多分いけると思うぞ。」
「うん、苦手意識かも。有難うございます、アレク様。」
音楽が終わると二人は抱き合った。
それを見守ると涼一に近付く。
「涼一、相談があるのだが。」
「え、僕席外そうか?」
「いや…リシェ様は陽太と近場に居てくれるか?」
「え、リシェ様…?」
「わかった、俺がちゃんと守るからね!」
「リシェに手出したたら消すぞ。」
「極端過ぎるよね!出さない、了解。」
涼一と共に執務室に入る。
「涼一……いや、アレクシウス。前から気になっていた事がある。」
「ほぅ、どうした?」
「リシェ様のご遺体、ルキウスに移さないか?」
「……。そうだったな……。」
柚希の前の身体、リシェ様のご遺体は、闇の帝国の地下にある。
今は誰も居ない城に一人で置いておきたくないし、ルキウスならばリシェ様の結界があるから心配も無い。
複雑な顔を珍しくするアレクシウスに、城で丁重に安置出来る場所を教え、一人でやってもらうことにした。
今は目の前にリシェ様本人が生きているが、ご遺体は身体はアレクシウスの恋人だったのだから、遺体と今になって向き合うのは複雑だろうとは思った。
だから私もなかなか言い出せないでいた。
アレクシウスも恐らくそれに気付いていたのだろう。
リシェ様にはさすがに言い出せなかった。
自分の遺体と対面するなんて、どう思うだろうと。
私だけ戻ると不自然なので、アレクシウスの帰りを待って、一緒にリシェ様達の所に戻った。
「……お帰りなさいアレク様、リシェール。」
アレクシウスは顔を見せないようにリシェ様に抱き付く。
でもリシェ様は何となくだろうが様子がおかしいのに気付いている。
でも絶対に聞かないのがリシェ様だ。
私と目が合うと、リシェ様は複雑な顔をする。
「さっきの、『リシェ様』って何?」
「リシェ様はリシェ様だから。光神様であり御先祖だからな。」
「何で今になって様付けなのっ?」
「色々、整理していて気付いたからな…。」
「はぁ……恥ずかしいけどリシェールは曲げない子だもんね。」
苦笑しながら受け入れてくれてしまうのがリシェ様だ。
「私は少し仕事をしていくから、二人は先に帰ってくれないか?」
アレクシウスの調子を治せるのはリシェ様だけだろうから、さすがに邪魔をする気は無い。
「えっ、リシェールだけ残るの?だったら泊まって行きなよ!」
放置状態だったからさすがに陽太が可哀想に思えた。
「朝早く出る事になるがな。」
陽太の後ろにブンブン振っている犬尻尾が見える気がした。
二人を見送ると、私は執務室に戻った。
窓の外へ視線を遣ると、リシェ様の身体があるであろう聖堂の屋根を暫し眺めてから、執務を開始したのだった。
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