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EX28 追憶 ~ 柚希

(少年王子第二章第三話時点~) side:柚希 思えば随分グイグイ来てくれてたんだなって、今更気付いた。 ウェルナート様は感情が無い人間だなんて聞いてたから、どう接したらいいのか悩んだ。 でも魔法がすっごく使える上に、世界を救った人だから、僕の状況から考えて、協力してもらえたらなって……考えが甘いのはわかってるし、図々しいお願いだし。 僕から得る物も無いだろうしって。 そうして初めて声を掛けたら…噂とは全く違って、凄く優しかった。 そうか、僕の外見は今リシェールだからだ。 金髪で紫の瞳で、すっごく綺麗だなって。 きっと柚希の姿ではこんな風に接してくれなかったんだろうって、ちょっとへこんだ。 初対面以来、今まで一度も出会わなかった事が不思議なくらい、ウェルナート様と頻繁に、ほぼ毎日というくらい遭遇した。 僕が躓くと、ふわりと風が僕を包む感触がしたと思ったら、僕はゆっくり床に降ろされていた。 転ばずに済んだ。 「大丈夫か?怪我は無いか?」 ウェルナート様は僕に駆け寄ると、声を掛けながら僕のあちこちを触って確かめてくれる。 ウェルナート様が風魔法で助けてくれたのだと知る。 またある時は、僕が角を曲がろうとした時、人とぶつかりそうになった瞬間、後ろに引き寄せられた。 「ぶつかってないよな?」 確実に引き寄せてくれたのに、心配そうに顔を覗き込みながら僕のあちこちを触りながら確認してくれる。 すっごく良い人過ぎない? あと、こんなにしょっちゅう偶然助けてくれるとか、相性がいいのかな?って、ちょっと嬉しかった。 「大丈夫です、助けてくれて有難うございます。」 嬉しいから思わず笑顔でお礼を言ったら、ウェルナート様は何故かそっぽを向いた。 馴れ馴れし過ぎたかな? その後もほぼ毎日、挨拶だけでも交わしてた。 ウェルナート様が意識的に僕を探して会いに来てくれてたのを後で聞かされた。 そんな風に毎日助けて貰ったり、言葉を交わしていたら特別な感情を持つのは当然だと思う。 ウェルナート様はイケメンだし、その上優しかったら、憧れてしまうのは当たり前だよね。 そんな優しさが、僕にだけ向けられていると勘違いしそうになってしまう。 少し距離を取った方がいいのかな?って迷ってしまった頃……ウェルナート様から告白された。 「俺は敢えてリシェに近付いて、好感度を上げているつもりだった。」 と後で聞かされて、顔真っ赤にさせられた。 色々あってウェルナート様と…あんな事をしてしまい婚約する事になったけど、僕は目の前のイベントをこなすので目一杯で。 でもウェルナート様が僕に気遣ってくれているのはわかったから、僕もいつの間にかウェルナート様に恋愛感情を抱いていってた事に後で気付く。 婚約式をするためにウェルナート様の国に着いてから、ウェルナート様が忙しくて殆ど会えないでいた。 僕だけが何故か暇でいたたまれなかった。 本当は僕は婚約式の当事者だから忙しいのが当たり前の筈なのに、ウェルナート様が僕に用事を作らせないようにしてくれていたと、王妃様から聞いた。 ウェルナート様が僕に会いに来てくれたのは婚約式の前夜だった。 全く疲れを見せないようにしてくれてたんだろう。 僕はその気持ちを組んで、微笑でウェルナート様を覗き込んでお礼を言った。 「っ…リシェ!」 急にウェルナート様に抱き締められてビックリした。 顔が近付く……き、キスされちゃう? 婚約するんだから当たり前だよね。 そう思った僕は目を閉じた。 「ウェルナート殿下、陛下がお呼びです。」 部屋の外から声が掛かって、ウェルナート様が舌打ちをした。 僕は目を開けてウェルナート様の顔を見る。 「今日さえ終われば、ゆっくり出来るから…待っててくれ。」 僕が頷くとウェルナート様は急ぎ足で出て行った。 side:リシェ …どういう事だろう? あの人、ウェルナート様はどうして……間違い無くあの姿は、アレク様。 髪の色も瞳の色も全く違ってるけど、瓜二つ…似てるなんてものじゃない。 まさか、ウェルナート様がアレク様の生まれ変わり? でも、闇の因子を持ったアレク様が、闇以外の魔力を持って生まれ変わったなんて事があるんだろうか? 柚希としての僕もウェルナート様に惹かれているのがわかる。 偶然の筈が無い。 もう一度逢えるのかな……アレク様。 side:柚希 結局ウェルナート様…涼一さんは、リシェールじゃない僕に初めて逢った時から僕に狙いを定めてくれていたそうだった。 「あれが本物のリシェールだったら、あそこまで執着はしなかった。」 リシェールとしての外見じゃなく、中身の僕の事を好きになってくれてたって。 「柚希のその嬉しそうな笑顔が見れるなら、何度だって言ってやるぞ?」 そう言ってくれる涼一さんも凄く嬉しそうな顔だった。 今の僕の幸せは、涼一さんが頑張ってくれた結果なんだなって、心から思った。 嬉しさと感謝でいっぱいの笑顔で涼一さんに抱き付いた。 後日談……翌日学校休みになった…。

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