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EX29 祈りのバフ

side:リシェ 「今日もレベル上げ頑張ろうね!」 いつものように三人でゲームに入り、二人のレベル上げに同行する。 僕はレベルカンストにされちゃったから、お手伝いだけど。 「ん…?あれ?」 二人から返事が無かったから横を向くと、さっきまでそこに居た二人が居ない! 慌てて見回すと……背後で二人が跪いてお祈りしてた。 「え?えーと…?」 「リシェは尊いな…。」 「ああ、リシェ様は神々しい……。」 「も、もしかして…僕に祈ってるの?」 尋ねるとすぐにアレク様が立ち上がり、僕を抱き締める。 「ああ。リシェがあんまり尊いので、リシェに祈ったら本当に効果がある気がして、最近毎回祈っていたら…。」 「それを聞いて私も同感だと思ってリシェ様に祈るようになって…。」 二人が説明しながら僕の頭やらを撫でてくる。 「それを見ていた他のプレイヤーも、リシェタンに祈るようになったでござるよ。」 「ん?ござ……え?誰?タン?」 アレク様とリシェールに続くようにいきなり現れた人が語りながら僕に祈ってる。 その人の姿は凄く変わってて、頭にバンダナを巻いて、白のTシャツにはアニメキャラが描かれて、その上にチェックのシャツを着ている。 このゲームのアバターでは見た事がない、太った男の人だった。 ファンタジーらしく無い。 眼鏡もしてるし。 唯一ファンタジーらしいのは、背中に背負った二本の剣をバッテン上に装着している事ぐらい。 髪の毛も多くの日本人のそれ…黒い短髪だし。 「秋葉原で見たような…。」 思わず呟いた。 いや、この人とは限らない、服装が似た人を見たなって。 「うほっ、生リシェタン初めて見た!」 「た、タンですか?」 「うはっ、動揺させて済まないでござる。拙者はアレク氏の高校時代のクラスメイトでござる!」 そう言いながら眼鏡をくいっと上げるござるさん。 「あっ、「タン」とは推しの子への敬称でござるよ。」 「推し?」 「リシェのファンと思えばいい。」 疑問だらけになってる僕に、アレク様が説明してくれる。 さっきの祈りから何が何だかわからない。 ポカーンとしてる僕にわかりやすく説明してくれる事になった。 「まずこいつは深淵と書いてアビス。」 「しんえん…あびす……。」 思わず繰り返してしまう。 何だか凄い…。 「深淵は、俺にとって少々恩人でな。」 「アレク様の恩人?」 驚いてしまう。 僕に逢う前アレク様…涼一さんは感情が無く、人と関わらないとか聞いてたから。 「リシェと逢えたのは、元はと言えば深淵が『ロイヤル・ラブ』…あのゲームを俺に押し付けてくれたからだったからな。」 「あっ!」 そう言えば涼一さんが「借りたゲーム」って言ってた。 「だから恩人なんですね。深淵さん、有難うごさいます。」 納得した僕は笑顔で深淵さんにお礼を言った。 だって僕にとっても恩人って事になるもんね。 「ふおぉぉっ!!リシェタンの満面の笑顔!堪らん!はあはあ、ヤらないか?先っちょだけ!先っちょだけでいいから!」 「え、えーとっ…。」 「ちなみにこんなんだが、中身は美人な女だからな。」 「「じょ、女性!?」」 語り口調からも全くわからなかったので驚いてしまう。 あれ?今リシェールとハモった。 「リシェールも知らなかったんだ?」 「私は彼?とは初対面だ。」 あ、お祈りの件とは別だったんだ。 「考えてみたらこれってBLゲームでしたね。中身は女性の方が多くて当たり前なんだ…。」 ついそこを失念してしまう。 「そうだな、恐らく八割は女性プレイヤーだと思う。」 「二割も居るんですか、男性。」 まあ実際ここに三人居る事だしね。 「リシェタン今後宜しくでござる!」 「はい、こちらこそ宜しくお願いします。」 握手するのかと思ったら、ギューッと抱き締められてあわあわしてたら(だって中身女の人だし)、アレク様に引き剥がされた。 「うわい、リシェール氏、目がコワスw」 とか言いながら余裕そうな深遠さん。 「せっかく会えたでござるが、今日はリアで臨時の仕事が入ってしまったでござる。また今度ゆっくり遊ぼうでござる!」 「防衛省のやつだっけ?」 「今日は別でござるよ。それではまた!」 深淵さんはログアウトした。 「ぼ、防衛…?」 「あいつはああ見えて有能だからな。」 美人で頭も良いなんて凄い人なんだ。 だから涼一さんが対等に友達してるんだ。 「さて、行くか。」 アレク様がそう言うと、まだ祈ってる他プレイヤーが目に入る。 「あっ、そう言えば、何なんですか、お祈り!」 ようやく思い出して二人に尋ねる。 「誤魔化せなかったか…。」 え?誤魔化すつもりだったんだ。 何か嫌な予感…。 「最初は二人でお祈りしていたんだが、面白がったのか、本気で俺達と同じように思ったのか、徐々にリシェに祈るプレイヤーが増えて来たから、それを美月さんに報告したんだ。」 姉さんの名前が出ると嫌な予感がしてくる。 「そうしたら美月さんが面白がって「それはいいアイデアだわ!本当にしちゃいましょう!」って、リシェに祈るとバフを得られるようになったんだ。」 「ば…ふ……?」 「ALLステータス三十%アップだ。」 目眩がした僕を支えながらアレク様が続ける。 「ちなみにリシェがパーティーメンバーに居ると、経験値が五十%アップする。」 意識を失うかと思った…。 近々姉さんと会う予定だから、取り敢えずこの件は置いておく事にした。 「安心しろ。ランカー順位からは俺らは外れているから、チートしたところで問題無い。」 「そうですね。こっちの異世界で過ごすには、レベル上げられるものなら上げちゃった方がいいですしね。」 「そう言う事だ。やる事やり終えたら幾らでもゲームを楽しめる。」 「では手っ取り早く、少々きつくても無理を通せる敵を倒しに行くのだな。」 リシェールの言葉通りに、かなりレベル差があるボスに挑んだ。 勿論三人だけでなく、他の人達とパーティーを組んだ。 知らない人達なのに僕は知られてて恥ずかしかった。 経験値五十%増しのお陰で数日で二人はレベルカンストした。 ステータスアップしたから、異世界でも能力がアップしてる。 国を治める二人はこれでかなり楽になったと思う。 たまには姉さんの暴走も役に立つんだなって思った。

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